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ファーストコンタクト(3)

 ナルシッサ達は何日、何ヶ月、何年先かは分からない。だが来ることは分かって用意を進めていた。

 俺達は現実にその存在を見て、ナルシッサに言わなければならない言葉がある。


「さっきは悪かった。ナルシッサ達の残した物の大きさを見誤っていた」


「分かれば良い。それに私の計画は成功した」

「どう言う…」


「《点穴》と意思を継承した。そして赤龍の力を受け継いだ子を…これが私と赤龍の計画だった」


 かつて副首都チェストで出会った家具職人であり、250年を生きるドワーフのサービッグは言った。


 “トージはおおよそ人の生では事足りぬ”と。


 そして長寿種である赤龍の力を持つ人族の子を必要とした。


 つまり…それが俺だ。


 転生したのが関係しているかは分からない。

 だが《点穴》はナルシッサの思念体を見るに、先祖返りを果たすほどに受け継いでいる。


 更に赤龍の魔力を使うことができる。

 では俺に何をして欲しいのか?


 そこがまだ判らないが、彼女の言う“ゼロの盤上”と言う計画に必要なのは間違いない。



「あと赤龍は死なん。近く合間見えるだろうし、お前は生まれ変わりでは無く“人”その物だ」


「ぇーこんな化け物じみた力が…」

「ルインさん、ちょっと心が痛いです」

「大丈夫!ボクが癒してあげるからッ!」

「わっ私だって良いからね!」


 それを見ていたナルシッサは、心底安心したように微笑んでいた。


「ふふっ血は争えんか。ブレイクは安泰だな」

「あの…帝国の記録では死亡とありますが…」

「んっ、そうだろうな。まぁそのうち出てくるだろう」


 ??

 死んだのに?


「うん、黒龍も王都の闘技場で似たような事言おうとして辞めたみたい」


『それに赤龍は…』とか、後で会うだろうから面倒で言葉切ったみたいだ。


 いや、そこは言おうぜ?


 と思ったが当時を思い出して誤りだと気がついた。

 きっと疲れてたんだろう。俺がフルボッコにした後だったから…


「ユウキ…届か…のか僕は……」


 レナードの奴、相当応えてるな。

 俺はレナードの肩にソッと手を添えた。


「レナード、お前は弱くない。あいつらが数段上を行っていただけだ」


「それを弱いって言うんじゃないのか!?ユウキ!…強さを持つ君には分からない……!!」


 俺はそれに目をパチクリさせて驚いた。


「おいおい、魔法が使えなくて試験を受け来た馬鹿がいて、それを応援していた奴が何を言う?」


 そこでレナードはハッとした。

 俺が最初から強かった訳じゃない。欠点を抱えた状態で、もがいて来た姿を思い出しているのだろう。


「ごめん、本当に。でも今の力量差にどうしても…」


「今回坊やが負けたのは単に力不足だ。《光の翼》は私が知る限り最強だのぅ」


 そうだ。

 トージは真龍達を説得している。当初破壊の衝動に駆られ、赤龍を説き伏せ味方につけた強さ。


 それは潜在的に俺よりも遥かに強いはずだった。


「…弱いのは《光の翼》じゃない。僕の心と身体だ」

「まだ届かなかったな。けれどまだ進むことができる」

「ずるいよユウキ…」


「私も信頼しておりますわ。きっと護ってください」


 レナードはフェニキアに言われて、自分が先へと進む気概があり、それを信じる仲間達に救われた事を感謝した。


「はい、もっと高みへ」


 フェニキアは微笑みレナードに頷き返していた。



 時にもう一人忘れてはいけない人物がいる。


「レクサス、フェニキアとアリサをありがとう」

「容易いこと。俺にしか見えていなかったようだし、最初に殿を任されたからな」


 そう、レクサスにはあの攻防とミミの所業が見えていたのだ。

 だがユウキが間に入った事により、後顧の憂いを排除するため当初の作戦通り後方守備を貫いた。


 敵に回せば恐ろしいが、味方なら頼もしい。

 そしてレクサス自信の強さが半端ではない事を再認識できた。


 リザードマンと戦い続けた帝国もまた、戦闘力という面では非常に頼りになるに違いない。

 それは王都でバルトフェルド団長が言った通りであり、彼の観察眼も素晴らしい。



「ドールガルス城塞には早めに行くから安心してくれ」

「あぁ、よもや何も出来んが頼むの」


「任せてください。私達が想いを紡ぎます」

「まぁ、少し努力がいるけどね~」

「私もできる事をいたしますわ」


 各々の意気込みを聞いて満足したナルシッサの思念体だが、やや足元から薄くなってきたようだ。

 貯蔵していた魔力も底が見えてきたのだろう。


「そこの魔法陣を踏むとダンジョンの外に出る。それと黒城の闘技場を《点穴》で見ろ、そこに王都へ転移する魔法陣がある」


「なっ!それじゃ攻め放題…」


「多くは転移出来ないし鍵が必要になるから大丈夫だの。ここの魔法陣と同じで《点穴》と“リザードキングの宝物”」


 実質的に言えば、場所さえわかれば“リザードキングの宝物”だけで転移可能となる。

 だが正確な魔法陣の位置は俺にしか分からないから、知らなければ起動すら叶わない。


「想いは受け取った。魔族の侵攻を止めてみせるから安心してくれ」


 聞いてナルシッサは満足したように微笑みかけてきた。


「こんな事ばかりすまない。そこの乙女二人、馬鹿なブレイクをどうか頼む…皆に幸あらん事を」


「ナルシッサさん…こいつには私が居ないとダメだからね」

「馬鹿で愚直なところがあるけど、そこが良いから大丈夫…」

「アリサ、ルイン…ありがとう」


 ナルシッサの思念体はやがて光の粒となり、ダンジョンへと吸い込まれていった。

 最後に見せたそれは、母の顔であり遠い子に対する温かい心情であったのかもしれない。



「行こう。地を見て落ち込む時間は俺達にない」

「そうだね。これまで以上の鍛錬が必要みたいだ」

「付き合うぜ、相棒」

「ルイン、私達もね」


 魔法陣に乗ると、レクサスの持つ宝物が反応して眩しく輝きだした。

 恐らく目を開ければ、そこはダンジョン入り口であり荒野の大地が目の前に広がるのだろう。



 ヴヴヴッ…ヴヴヴゔゔぅぅッ……


「「……」」

「…すまん、責任を持って持ち帰ります」


 超高速振動するピュルガトワール。

 こいつのせいでえらい目にあったな。


 …あれ?

 元を正せば、これを出したナルシッサが悪いんじゃね?

 チラリと脳裏にそんな考えがよぎるが、今は忘れよう。


「ユウキ、この刀は…つッ!」

「どうした?!」

「ユウキはなんともなかったの?」


 レナードに言われ、地面に突き刺さったピュルガトワールを抜き取った。


「あぁ、この武器魔力がちょっとヤバい代物なんだ」

「…いや、熱くて持てなかったんだよ」


 そう言われると、俺の手に微かな違和感を感じていた。刺さっていた地面からは蒸気があふれていたが、これは《冥断》の影響だと思っていた。


「とにかく他の人にはそれを持てないよ」

「ユウキが持っていればいいじゃない」

「私もそう思いますわ」


 俺は皆に言われてポーチへと突っ込んだ。だがふとした疑問が浮かび上がる。


 あれ?このポーチって中身大丈夫なのか?


 ポーチの中で大火災とか勘弁してほしい。

 この中には生活に必要な食料なども大量に入っているのだ。


 それにアリサ達の下……などは入っていない。

 大丈夫だ、俺のパンツを除いてな。



 ともあれ、この世界には便利だが恐ろしいロストマジックが数多く存在している事をこの日知った。


 学園長に聞けば何かわかりそうだな。

 そんなことを考えながら、眩い光に瞳を閉じた。



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