ファーストコンタクト(2)
その声に風の流れがピタリととまる。それと同時にハウレストの影が蠢くと一人の男が姿を現した。
「カ、カイラス様!?」
「ん~ビックリ!」
ハウレストとミミは、その場で地に膝をつき忠誠を示す。敵が眼前に居るにも拘らず、だ。
「俺はカイラス、魔王と呼ばれている。恵地に住まう人族よ、約束の時は近い。
その短き時を有意義に過ごすがよい。これが宣告である」
「「魔王!?」」
皆が驚く中で一人、行動を起こした者がいた。
レナードだ。
彼は宣告と同時に《光の翼》を高出力で纏い、身体能力を急激に向上させて攻撃を仕掛けた。
《抜刀・返還》
一刀で加速したまま一気にカイラスを振り抜いた。
だがこれをギリギリで躱されると、レナードは抜刀の回転を利用してもう一刀を返しに二段抜刀を図る。
ガキンッ!
周囲に刀と刀が激しくせめぎ合う音が木霊した。
「君は本当に短気だなぁ。ミミは怒だよ」
「なッ!くぅ…!」
ミミはどこから取り出したのか、自らの身長とは不釣り合いな長刀を振るい、カイラスの前に出た。
そして驚くべき事に、《光の翼》を使っているレナードを押し返したのだ。
「手始めだ。去ね」
「魔王!僕はこんな…!」
カイラスが背に携える大剣を引き抜き、レナードに向けて一気に振り下ろした。
その行動に一切の躊躇もない。
ザンッ!
「レナードをやらせるかよ。土足で歩き回るな」
「ほう?」
「ウチの前でカイラス様に!」
俺は魔力を開放して周囲を威圧した。
真紅の魔力が全身から溢れ出し、その濃度に雷光が瞬く。
そして戦慄する。
その目に映る真紅の瞳に。
「カイラス様下がって!ミミが!」
「ウチがーッ!鉄扇よ!《扇ノ舞》」
《点穴》
それはあらゆる微量の魔力跡を読み解き、全ての攻撃を予測して回避する。
時に捌いてレナードへの攻撃を流す。
仲間を守りながらの戦い。
2人と1人の攻防が、あまりの速度に光の線となって舞う姿に、レナード達はただその軌跡を見る事しかできなかった。
「魔王カイラス、もう来るな」
「二人相手によく喋る。《黒霧》よ、その腕を見せよ」
黒い靄が周囲に現れ、そこから腕の様なものが現れた。
即座に脳内で警鐘が鳴り響く。
これに触れてはいけないと。
「ユウキ!4時と10時!」
「分かってる!」
ナルシッサの思念に言われる前から反応には気が付いていた。
俺は咄嗟にポーチからある物を引っ張り出す。
それは柄が長く、姿を現す前から猛々しい魔力を周囲にまき散らした。
“イビルウェポン” 大斧シュレッケン
その手に炎を纏い、魔力を伴うダンジョン地面の内面に向けて思いっきり渾身の一撃を放った。
《大斧奥義・冥断》
ズダァァァァァァァン!!
振り下ろされた鉄槌の猛威により、ダンジョンの地面は大きく抉れて大地を揺らした。
あまりの衝撃に近くにいた魔族3人はさすがに飛び退き、待避するもすぐに異変に気が付いたみたいだった。
《点穴》を有していなくても、濃縮された魔力が膨張しているのが分かるだろう。
俺は襲撃者の3人に最後の言葉を口にする。
「喰らいやがれ。魔界まで飛んでけ」
「魔大陸だ。
融和のカーテンが滅びを迎える。これは手土産に頂いて行くぞ?」
「なっ!それは大剣のイビルウェポン!」
俺はポーチから水路で拾ったイビルウェポンが盗まれた事に気がつかなかった。
恐らくは先程の攻撃だ…油断した!
「ミミも負けてないからッ!次は勝つからね、絶対だよッ!」
「“ゼロの盤上”の進捗と現状の戦力分析。三本も持っているとは、ウチの仕事は完遂しましたぇ」
《暗雲の門扉》
シュレッケンによる最後の一撃がさく裂するのと、カイラス達が消えるのは同時だった。
激しい地響きと衝撃によりダンジョンの崩落も懸念したが、持ちこたえたようだった。
「皆大丈夫か?」
「うん…何もできなかった」
「えぇ…」
「僕は今まで何をして!」
レナードが一番精神的にダメージを負ったようだ。
彼は貴族としての責務に対し、市民のために戦う事を信念に生きて来た。
しかもドールガルス城塞が作られた経緯は、魔族侵攻に対する王都の防衛要塞だ。
このダメージは大きいだろうが、現実として今の戦力差を図れたのは僥倖だったと言える。
しかも融和のカーテンにより魔力が削がれた状態での戦力差だ。
まるで、お話になるまい。




