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パーミスト洞穴(4)

 アリサは思いついた単語を口にしていた。


「歴史で習ったわ!遊んでばかりいるから…

 “融和のカーテン”は大陸北側の大海にある不思議な空間で、通過すると大きく魔力が削がれるの」


 それを聞いていたナルシッサは頷きながらアリサの頭を撫でていた。

 驚くべき事に一瞬にして20メートルもの距離を移動していたが…思念体の成せる技か?


「聡いな君は。そしていつか融和は解かれる。

 その対策を施したのが、刀次郎を筆頭とした義勇軍であり、私と赤龍そしてノーザスだ」


 刀次郎とはトージであり、大陸の三国全てが戦った戦争の英雄でレナードの祖先。

 初代《光の翼》の発現者でダルメシア戦争を終わらせた地球からの転生者だ。


 今目の前にいるナルシッサは、トージの右腕と呼ばれ初代《点穴》の発現者として名を爆ぜた人物で俺の祖先だ。

 そして赤龍は四神聖獣と呼ばれ、世界の創世期から存在し全部で4体いる内の1体だ。


 最後にノーザス・バレル。王都学園の創始者で現学園長の祖先だが、歴史にその名をあまり見ない。



「まず三国が共闘する事と加えて獣人も連携しろ。魔族も鳥獣人ホルアクティと連携してくるからの」


 俺はその一言に対し、今までの事を蒸し返すようでイラっとした。

 リザードマンと帝国の摩擦は、ナルシッサ本人が関わっていると言ってもいい。


 事態は複雑なのに簡単に物を言う…


「貴方が撒いた種で帝国とリザードマンは共闘できない状態だ。常在戦場が敵を作り出したぞ」


 それを聞いてナルシッサは片眉を吊り上げ、難しい顔をした。


「うん?私は常にリザードマンと交友を深めだが…証拠に王の持つ備品を、魔法陣の起動に組み込んでいるだろうよの」


「それでは、私達が勘違いで戦っていると申すのですか?」


 フェニキアだ。

 彼女も彼女なりに現状の打破を考えているのだろうが、中々根強く上手くいかないのだろう。


「の?お前は…何だ?」


「私は現皇帝の娘で皇女のフェニキアと申します。貴方の子孫に当たります」


「いや、そうじゃないが…まぁ子孫か。ハルマニア?ミリス??それとも…」


 おいおい、何を画策したか知らないがとんだビッチだな。我が祖先ながら流石に冷や汗が出てきたぞ。


「名をゾディアック、固有血技は《重力》です」


「旧姓は?皇女ならゾディアックなのは当たり前だしのぅ」


「えっ?」


「帝国は強者が皇帝になるシステムだ。改変がされていなければ、皇帝がゾディアックを名乗ら事になる。だがしかし…なるほど、なるほど」


 ナルシッサは突然長い前髪をかきわけ、フェニキアを見据えた。その瞳からは深淵を見据えるが如く、深い深い黒色の瞳をしていた。


「熱い…なんですの、これは…胸の内がすごく熱い…」


 フェニキアは胸を抑えて両ひざをついてしまった。すぐにレナードが肩を抱いて支える。


「どうにも怪しい空気だな。裏が居そうだが情報戦で既に負けたかのぅ?」


「なんですって?」


「それじゃ、ナルシッサは酒場で殴り合ってでも自分の意見を押し通すような世情を作りたかったわけでは…?」


「はぁ?当たり前だろう。そんなクソみたいな世の中嫌だしの。

 そもそも戦後間もなくそんな不和が生じれば、敗戦せずとも国が自壊している。今どの位の年月が?」


「終戦してから250年ほど経過している。ドワーフのサービッグ爺さんに会ってるから間違いないよ」


「ぶっ!まだ生きてんのッ」


 確かに言いたくもなる…

 しかし問題はドワーフの寿命ではない。



 ナルシッサが後年50年を生きたとしても200年の間に帝国内で改変した者が現れた。


 さらに現皇帝も現状をあまり良しとしていないが、戦争間際の状況で世情を変化させて混乱させる事ができない。

 今更リザードマンと仲良くしろと言われても、殺し殺されが脈々と続いており良くはない。


「リザードマンの問題は俺達に任せろ。お前はここに来て話を進めただけでも大いなる一歩だった」


 レクサスが俺の方を見て言った。

 確かに殺意を持って槍を奮う状況から、話ができるまでには進展していると言える。


「レクサス…皇帝にはここでの話をするから、改めて協力を願い出るよ」


「承知した」



 後はナルシッサが戦時中に聖都領に行って、返り討ちに合いそうになった件だが…

 まぁさっきのホルアクティの話で間違い無いだろうが聞いてみるか。


「ユウキの言う通りホルアクティにやられた。今の世では居ないのか?」


「聖都領にいると聞くけど、見た事はない」


 ナルシッサの話によると、ホルアクティは他の獣人より知性が高いのに、やたら情勢を掻き回す節があったそうだ。

 トージが裏で獣人との和平を進めるに当たり、ホルアクティからの襲撃を受けたとの話があり、聖都領に隠密で動いた。


 だがここで問題が起きた。

 こちらの行動を察知したホルアクティが、聖都上空付近を飛行してモリス大森林に逃げ込んだ。


 そうしたら聖都の信者が来るわ来るわ。あっという間に囲まれてしまったそうだ。


 結局ホルアクティの詳細は掴めぬまま、撤退も難しいところで《点穴》を発現して逃げ果せた。と言う話だった。


「なるほど、大体わかったな。話はこれくらいで良いかな」


「まだだ、勝手に話を終わらせんでのぅ」


 話がまとまってきた所で、ナルシッサが止めに入った。


「まだあるの?」

「トージの思念体にも会え。その魔族対抗への意志とそこの坊やが居れば良いだろう。王都の地下だの」


 レナードは突然話を振られて指を自分に向けていたが、地下ダンジョンの書庫を思い出したのだろう。

 頷いて返事をした。


「“ゼロの盤上”。これがキーワードになるから忘れんでくれ。私も詳細は知らない」


「あの…フェニキアは大丈夫なのでしょうか?」

「はぁはぁ…大丈夫ですわ…」


「あっ…ごめん。もう少し何かが必要なのか?」


 ナルシッサが慌てた様子で指をパチンと鳴らすと、フェニキアの魔力が安定していくのが分かった。



「それとの…えっと、これを」


 そう言ってナルシッサが地に魔力を込めると、何も無いところに箱が現れた。

 その箱は禍々しさを覚えるほど、強烈な魔力を発していた。


 だがこれには覚えがある。

 ルインの持つクリミナルナイフ。そして俺が持つ大斧シュレッケンと砂漠の水脈で拾った大剣。


「武器が入っていますね?」

「そうだ。もう持っているか?」


 そう言って再度パチンと指を鳴らすと箱が壊れ、中から一本の小太刀が浮かび上がる。


 “汝らに資格はあるか?求めし力を御すれば地を壊さん”


 すると魔力が溢れ出して一人でに戦闘態勢へと入る。刀と見てレナードが一歩前に出て宣言するが、俺はそれを制した。


「僕がやる!」

「ごめん、話が先だ」


 俺はこけ脅しの魔力を肩で流し、一気に垂直へ足を上げると一気に踵から振り下ろした。


「ここだな?おりゃ!」


 ギィィィィン!!


 小太刀が地面に激しくぶつかり、刀身がダンジョンへと突き刺さる。


「毎度毎度こいつらウルサイんだわ。ダンジョンの地面なら抜けんだろ」


 それを見ていたナルシッサは、驚いたように眼を見開き豪快に笑い出した。


「ハッ!最高だな!お前良い眼を受けたのぅ。ウェポンブレイクで壊すつもりだっただろう」


「これ壊れないけどね」


 ブブブッ……ブブブブブッッブッ……


「どんどんやる事おかしくなっていくわ…」

「ボクも最近そう思う…」

「…」


 おぞましい魔力を放つ武器が地面に突き刺さったまま超高速振動しているのを後目に、アリサとルインが半ば呆れていた。


「そいつは“イビルウェポン”と言って、世界に7本ある武器の一つだ。“7本揃うと世界を破壊する力を得る”と刀次郎が言っていたが、そいつを持っていけ」



 !?


 何ですって?

 ブレイク一族はやはりバカなのか?


 7本揃うとーを3本持ってる人達に、更に一つ渡す気ですか?さすがナルシッサ。


 やっぱこいつ、イカれてる!


「「いりません!」」


「そう言うな。刀次郎が教えてくれるの」



 コツコツコツ…


 おバカなやりとりをしていると、この世界に来て初めて耳にする場違いの音が周囲に響き渡った。


 それはヒールを硬い岩盤で叩くような足音。

 だが、この世界でそんな靴を見たことがなかった。


「誰だ?結界がこじ開けられた!」


「はぁーウチは道に迷ってしまって…教えてくださいません?…世界の終わりを」


 突如現れたそれは、人の形をしつつ何処か自分達とは決定的に違う感覚があった。


「…チッ!魔族か!」

「「えっ!?」」


 ナルシッサの“魔族”という言葉を耳にして、女は扇子で口元を隠したがニヤリと口角を上げたのを見逃さなかった。


「ウチは“魔血衆”ハウレスト言います。以後お見知り置きを」




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