パーミスト洞穴(3)
一気に魔力を開放して地面を蹴り下ろした。
《アーススパイク》
地面から隆起した土針が地龍を飲み込み、串刺しにせんと襲い掛かる。
できればこれ一発で決めたかった。
だが相手も弱者ではない。
喉元を掠める攻撃を回避し、その巨体からは信じられないほどの速度で跳躍してきた。
「やば!早いぞ!」
「任せて!」
刀に纏った光の粒子が輝きを増していき、腰だめに構えたレナードからは光が溢れ出していた。
《抜刀・光塵》
一閃。
跳躍して上空から飛来した地龍に対して、レナードは斬撃を放った。
それは高強度を誇るダンジョンの壁を奥深くまで切り裂き、地龍を寸断した。
ズズズズン!
真っ二つとなった地龍は動かなくなり、舞う粒子だけが今あった事を物語っていた。
「ははっ、すげぇ!レナードすげぇ!」
俺は本心から思った。
チェストではあんな渓谷作れないと嘆いていた奴が今、地龍ごとダンジョンの壁を豆腐のように引き裂いた。
「お前ほんとに努力家だな!別行動してる間に何してたんだよ」
「ちょっと素振りと考えを改めただけさ」
ったく。素っ気なく言う割に滅茶苦茶照れてやがる。
「レナード!すごいわ!」
「本当に驚きましたわ。美しいという言葉が足りないくらいに」
皆がレナードを褒め称える。彼の功労と言っていいし、その権利がある。
だが困ったことが二つある。
「ここは何処でレクサスどこだ?」
そこで皆がハッとする。
先に転移したレクサスはそこにいなかった。
ダンジョンボスなら倒せば帰還の魔法陣や宝物が現れる。
だが、今に至ってそれがない。
「まさかあの地龍…レクサスじゃ」
「えっ?魔法陣って転移だったのよね?」
「そうだけどアイツだけいないんだが…」
「「……えっ?」」
居た堪れない空気が場を支配する。
仮にレクサスの宝石類が起動に役立ったとして、本人は転移ではなく変異の魔法陣として機能したら?
仮に転移後にこの空間を支配する真のボスに変異させられていたら?
各々可能性を考えるが、全て「あり得そう」という答えしか出てこない。
皆が沈痛な面持ちとなって、あらゆる可能性を考えていた時だった。
静かなこのドームに足音が木霊した。
パチパチパチ…
「おめでとう。世界の種子よ」
突然、地龍のすぐ横の岩に腰掛ける女性が現れた。
長い髪をそのままにした黒髪が美しさを持っており、何処となくユウキに似た雰囲気があった。
「ナル…シッサ……」
「ほう、子のシツケが良くないな」
そう言ってナルシッサが手首を捻った瞬間、周囲の魔力が掻き乱されるように渦を作り出した。
俺はハッとして叫ぶ。
「クラスターボム多数!!」
即座にアリサが防御壁を、レナードは光の翼を全開に展開した。
それを見たナルシッサはニヤリと笑い、手首を逆方向に捻り返す。
すると周囲から突如として突風が吹き荒れ、魔力壁で出来たダンジョン壁をゴリゴリと削り取っていく。
爆発を警戒した防御は完全に異表を突かれ、その防御ごと吹き飛ばされて外壁に打ち付けられる。
「ガハッ!」
「甘いぞ、叫べば対処される。まぁ《点穴》は中々の精度で引き継いだようだがの。それに……」
ナルシッサは全員一度気絶させる気で魔法を放った。だが、障壁が強力であり思った成果が得られなかった。
「トージの子もおるのか。なんと数奇な…いや、約束の時が近いし、必然か?」
「ナルシッサ。あんたには聞きたい事が沢山ある……まずはその身体。思念や魔力残滓のような物か?」
「思念体が正解でトリガーは竜族と親和を結ぶ者。尚且つ穴行使能力だ」
「その竜族が居なくなったんだが…?」
「この竜がそうであろう??」
それを聞いてアリサがハッと息を呑んだ。
レナードは刀をワナワナと振るわせているが、落としてしまいそうなほど動揺している。
だがしかし、考えれば不可解な点がいくつかある。
魔法陣の起動にリザードマンの所有物を要求して殺させるなど、不条理極まりない。
「そんな!レクサスはオッチョコチョイだけどいい奴だったよ!ボクは…ボクは……」
「落ち着けルイン、フェイクだ」
パチパチ…
先ほどと同じように再びこの場所に見合わない拍手が木霊する。そして指をパチンと鳴らすと中央に魔法陣が煌めき、その姿を表す。
「御明察。軽いギミックを仕掛けた」
レナードは全身の力が抜けたのか、ホッとして地面に両膝をついてしまった。
「レクサス無事か?」
「うむ、ユウキよ不思議な居心地がある。敵では無い」
俺はレナードが一先ず落ち着いたのを確認してナルシッサへの質問を再開した。
「この地に居座った目的は魔族対策か?ここ数百年侵攻はなかったぞ。それにトージも何かを残しているな」
「魔族の侵攻で正解半分だ。来る事は確実で対策しないと大陸の生物は絶滅するぞ?」
「なぜ?」
「不毛な地に拘束されていたとする。隣にある資源豊富な大地との物理的な隔たりが無くなれば来るだろう?」
そこで顎に手を当てて考え込むアリサが小声で呟いた。
「融和のカーテン…?」
「えっ?」




