パーミスト洞穴(1)
日が落ちるのが早くなり、やや寒さが増してきた今日この頃。南下していて暖かくなってきているとは思うのだが…
そんな事を思っていると、やっと言った感じで聞きたかった言葉が耳に入る。
「見えてきたぞ」
レクサスの一言に、俺は焦るように天幕を振り払って外を見ると、巨大な火山が煙を上げているのが見えてきた。
ファースロック火山帯と呼ばれる物で、ここの地脈はチェストを通りサウスホープの南にある山脈まで繋がっているらしい。
「もしかして洞穴って火山の中?」
「いや、手前に地下へ向かうダンジョンだ」
「けれど父の話によると、溶岩の流れている箇所が所々にあると聞いています」
「うぁー準備してねぇ」
そこでルインが水滴を出して上空でパンッと弾くと、各々に薄い水膜が張られる。
《アクアヴェール》
「これでいけるかな?」
「ルインさんナイス!愛してる!」
「俺もだぞ!」
「レクサス…」
やはりコイツは何か外れた所がある。そこが愛嬌なのだが、受け入れられない者は引いてしまうだろう。
杞憂に終わった熱波対策。
ダンジョン中に入ってレクサス先導の元、パーミスト洞穴の入り口と思われる自然坑の前へと降り立つ。
ここから中に入るようだが、もう既に真夏のように暑い空気が中から吹き付けてくる。
《アクアヴェール》
清涼とした空気が周囲を覆い、先ほどまでの熱気が嘘のように鳴りを潜める。
これだけ涼しければ中でも相応の効果を発揮してくれるだろう。しかしルインのやつは固有血技をだいぶ使いこなしてきたようだ。
「よし行こう、溶岩には注意するんだ。つま先でも近づけば発火する可能性があるぞ」
「よく知っているね?サウスホープにそんなもの無かったでしょう」
「アレだよアレ。気にしないでくれ」
それに3人が納得したように「あ~」と言っていたが、フェニキアとレクサスには何のことか分からなかった。
「ユウキは博識なのですね…ふふ」
「故に手強いのだよ。時々子供っぽい考えをしているがな」
中は真っ暗…じゃないな。
学園の地下ダンジョンと同じで壁面全体が微量な魔力を発しており、そこから淡く光っているのだ。
灯りの必要はなくなり、ダンジョン全体が魔力を通じているため《点穴》を使う事でマッピングが可能となる。
「皆俺についてきてくれ。道が分かったから一直線で地下へと向かう」
「なんだユウキも分かるのか。それならば俺は殿を持つとしよう」
レクサスも例の眼によって洞窟内部の様子が分かるのか。
後方を警戒してくれるのなら、フェニキアが不用意に奇襲を受ける確率を減らせるから助かるな。
ここに出てくる魔物は、主にサソリやカニなどの耐熱性に優れた甲殻を持つ生物が多かった。
その中でも最大限に警戒する魔物が居た。
「んっ下?皆下がれ!」
突然ドリルで岩盤を砕くよう、なけたたましい音が響き渡る。
キュイイイイイイン!
また来やがった!あいつらは理不尽極まりない!
角を高速回転させ、50cmほどの岩盤をも砕く鋭利な一本角のウサギが現れる。その数十はくだらない。
その可愛さとは正反対に、体表は赤く染め上げられ溶岩だろうが何だろうが構わず突き進む。
俊敏なのも厄介だが、その溶岩で表面温度が高くになり、挙句に溶岩を撒き散らしながら立体機動を行う。
「くそ!アリサ落とせるか?!」
「やってるわよ!でも動きすぎ!」
洞窟内は狭く、強烈な魔法は使えない。だが近接戦もその狭さ故にレナードの剣は岩壁に刺さり使えずだ。
ドスン!ドスン!
「えっ?」
突然ウサギが立体機動の途中で地面に落ちてきた。何が起きた?頭をぶつけすぎたか?
「早く止めを!長くは続きません!」
フェニキアに言われ、焦って皆でその命を刈り取る。やらなければ殺られる。そこは野生世界である。
「フェニキア…使えたの?」
「少しならです」
皇帝が使っていた固有血技の《重力》。強力無比なその固有血技を引き継いでいる。
「ウサギの対策に使っていけるか?」
「分かりません、どこまでもつのか」
「無理はしないでください。休憩を挟みながら進みましょう」
フェニキアが居なかったら少々厳しい場所だった。魔物のレベルが高く、学園のダンジョンとは違うことを思い知らされた。
「フェニキアは言いつけとは言え、何故ここに来る事を選んだの?」
「…私は自分を変えたいと思っていました。それにはこの機会を逃すのは間違いであると」
彼女は大人しい性格でとても戦闘などは不向き、冒険などもっての他であった。それでも何が自分を変える切っ掛けが欲しかったようだ。
「ボクは良い考えだと思うよ。何かを変えるには行動が一番良い」
「…そうだね。僕も学園に出てユウキ達に出会えた。最初に声をかけた時は怖かったさ」
「俺の対応に喜んでいたな。それを見越してだな…」
「ウソ仰い。説明されるまで知らなかっただけでしょう」
尊い貴族様がお声を掛けてくださった。
周り反応はまさにそれで、何も知らなかった俺はレナードに同い年の子供として話をかけてしまった。
けど彼からはそれが「嫌だ」という雰囲気を醸し出していたからな。だからアリサの対応を止めたしそれが正解であった。
「皆さんは本当に素晴らしいです。私などとても…」
「ボク達と一緒だよ。だからここに居るんでしょ?」
ルインがニヤリと笑うと、フェニキアも優しい笑顔を返した。このダンジョンの中でなかったならば、これから卓について食事でもしたい所だ。
「よし先に進もう。この調子で行けば問題なく行けるだろう」
「良きかな。このレクサスから離れるでないぞ」




