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リザードマンの拠点(6)

「ユウキ、クーちゃんに聞いたんだけど、真龍の衝動を抑えられない?」


「クーちゃん?」

「あっ、黒龍でクーちゃん」


 一瞬誰の事だか分からなかった。確かにあの時赤龍の意思のようなものが問いかけて来た。こんな事は過去一度っきりだが…はて?

 赤龍の血がそうさせるのだろうか?それならば幼少期からこの事象が起きても良いはずだ。


「少し不安定だな…余裕がないからか?」

「えっ?」


 あまり自覚はなかったが、いわゆる反抗期という奴だった。

 前世では過ぎた事だが、中学時代は何に対してもイライラする事があった。

 落ち着いているのは友人とたわいも無い話をしている時や、汗を流す部活だけ。


 情緒不安定で真龍の意思に勝てなくなっているのだろうか?

 だがこればかりはどうしようもない…


「分からないけど、ここに来て直ぐ腹が立つというか…チェストでもレナードとかち合ったし」


「あぁそうだね。言われてみれば僕も以前ならまず話をしていたと思う…」


「「ハハハ…」」


 二人のやり取りに周囲の視線は痛いものがある。仮にもここはリザードマンの本拠地だ。

 ボスが「気にするな」とは言ったものの、侍女たちは戦々恐々としていたに違いない。


「…真龍の事についてだけど、衝動だけじゃなくて意識が乗っ取られる感覚まであった。これは…」


『それは先も申した通り、真龍が“破壊”のために生まれてきたからだ』


「真龍が破壊のために生まれてきた?そもそもいつから居るの?」


『生まれた時は忘れたとが、刻まれた命運は“破壊”の二文字。その残骸の様なものだ』


「っていうと、ユウキは赤龍の子孫だからその運命に縛られているというの?」


『推測でしかない。だが、赤龍は光龍と我を説き伏せた』


 つまり、いつ生まれたか覚えていないしどうしてその運命を持つのかも分からない。

 だけど“破壊”の衝動とその使命だけは刻まれた記憶と共に常にある。


 そして、その記憶は俺にも引き継がれた可能性がある…


 だが今はそれが分かれば、仲間が居る事で抑えることも出来る。差し当たっての問題を解決した方がよさそうだ。


「よし、今は皇帝の言うパーミスト洞穴に行くことを優先する。皆ありがとう、本当に良い友人と出会えた」


「よしてよ。相部屋の相方だった時から僕が助けられたことの方が多いよ」

「そうよ。あまり自分を無下にしないで」

「ユウキの居る所がボクの居場所だよっ」


 ありがたい。本当に…本当にありがたかった。


 感謝してもしきれないとはこの事を言うのであろう。本当だったら今の一件で引いて逃げ出してもおかしくはない。


 やがて奥からレクサスがやってくると、何事もなかったかのように取り繕った。


「準備に時間がかかった!いつでも出立可能だ!」


「「「えーッ?!」」」


 冷ややかな言葉と視線をレクサスに浴びせると、出発する事にした。

 ガルシアは危険があるため、ここからは出られない。彼には恐らくやる事が残っている。


 それは彼にしかできないし、きっと必要な時に重要な役割となるはずだ。


「それじゃ、ガルシアさん行ってきますね」


「おう。一発かましてこい!」

「誰に何をですか…?まったく」


 ニヤリと笑うガルシアを後目に最初に来た狭い隧道内へと戻っていく。

 レクサスがいないと、とてもではないが道に迷って餓死する未来しか想像がつかなかった。


 外に出るとその陽光の眩しさに目をしかめてしまう。

 来た時と同じような太陽の位置にあるその日差し。何故か違って見える気がした。


「一つ前に進めたのかな…?」

「ふふっ、ユウキは進んだわ。きっと私たちも」

「フェニキア、僕から離れないでね」

「はい!」



 こうして馬車を置いてきた森へと戻ると、リザードマンたちが馬車馬に餌を与えている光景が目に入った。

 彼らは最初に見せた殺気など微塵も感じさせず、戯れていた。


「おいおい、まだあるからそう急ぐなよ」

「ん?戻ってきたのか?ーレレレクサス様!?」


「御苦労!客人の馬の面倒まで仕事にない事をするとは殊勝である!こいつを受け取れ」


 そう言って懐から出したのは、小さなトカゲが浮き上がった青銅貨であった。

 レクサスは仕事をサボっていた部下を叱るのではなく、良い所を見て褒め称える。


 戦時中もそんな節があったが、やはり彼は部下から愛される素晴らしい王なのであろう。


 そんな一幕を終えて一向は再度歩き出す。

 向かう先は当初の予定通り、パーミスト洞穴。


 ここでは先祖ナルシッサ・ブレイクが残した遺構があると皇帝から聞いたが、果たして藪から何が出るのか。

 少なくとも彼女が犯した蛮行が明るみに出る収穫位は欲しいものであった。



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