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リザードマンの拠点(5)

『真龍は…四聖獣はある使命を持ってこの世界に産み落とされた。それは破壊だ!』


「本能が破壊を望むの?!ならどうしろって言うの!」


『この世界に残したい物を考えれば良いが、今のユウキにその余裕がない』


「じゃぁどうしようもないじゃない!…んんっ違う!」


 ルインは紺碧の魔力を纏ってユウキの魔力風を相殺するように抱き留めた。


「ユウキ…めっ!」


 腕に温もりを感じる。

 誰だ?


 分からないけど、この世界の木漏れ日ならばもはや無用の長物。俺は何でこんな世界にやって来たんだ。何で…!


「ユウキ!僕達は君を否定していない!戻るんだ!」


 更に一つ逆の腕に新たな温もりが増えた。

 何故俺を止めるなら、この世界を壊さない?


「ユウキ…」


 震える手がもう一つ増えた。

 だけど何の事だ?


 全部俺に任せて自分は遊んで、具合が悪くなったらまた俺のせいにする。そんな世界に暖かい光があったとしても微塵も良心を感じない。


「こんな世界は消えて無くなればいい」


『破壊の衝動に従え。それが真龍である』


「ちが…う!クーちゃんは望んでいない!」


「『黒龍が望まぬ!我が望んでも聞き得なかった黒龍がか!』」


『赤龍が説いた世界の良さだ!!』


「ユウキ…ダメ…貴方はいつも一人でやろうとしたわ。でもそれは違うの!」


 アリサは震える手から《ウォーターボール》を作り出すと、それを顔面に向けて思いっきり投げつけた。


 バッシャァァァン!!


「ぷあ!なんっ!」

「アリサなんでいま?!」



 突然冷や水をかけられて、脳裏にはサウスホープの麦畑が広がる光景が浮かぶ。

 そこで一本の木に集まる小太りの少年と、ポニーテールを揺らす少女が楽しそうに水かけをして遊んでいた。


(僕も仲間に…ぁっ、僕には水が出せないんだった…)


 踵を返してトボトボと家の方角に向かって歩き出した。すると後頭部に水の塊がぶつかって髪の毛から水滴が滴った。


(どうしてこんな事をするの?僕が出来ないのを知っているでしょ?)


(戻りなさい。話もしないで帰るつもりなの?)


 少女が腰に手を当ててフンっと鼻息を吐いた。そして小太りの少年がある物を突き出してくる。


(これをやる)


 受け取ったのはバケツだった。所々穴が開いており陽光が透けて見えるそれは、何を意味する物なのか。


(それは農作業で使う俺の大事なバケツだ。無くすなよ?)


 そして少女が手にウォーターボールを作り出す。とっさに身構えるが、バシャっと言う音が聞こえ自分は濡れた気配を感じなかった。

 代わりに手には重みを感じ、閉じた瞳をゆっくりと開くとそこにはバケツ一杯の水が入っていた。


 少女と少年はニヤリとすると、一言告げた。


「こっちにおいで!」


 ハッとして我に帰ると、アリサが抱きついて来ていた。カッとなった拍子に我を忘れて周囲はエライ事になっている。


 でも…この怒りは…俺は溜め込んでいるのか。


 3人の手放したくない友人は俺の手を、身体をしっかりと受け止めてくれていた。

 魔力の放出を抑えると、周囲は微風が吹き霧は晴れていくが、壁面がキラキラと輝き霜が降りているのが分かった。


「落ち着いたか?ん?ちっと寒みぃな」

「ガルシアさん、俺はこのままじゃ貴方を許さない」

「おう、口は苦手でな。ジョークだけは一級品なんだがな」

「ははっ、ボクは好きだけど、もうちょっと考えようね?」


 ルインが苦笑いを浮かべて事態が収束した事に安堵してた。それは皆同じであったが、一人だけ違った。


「ユウキ、もう行かないで…」


 アリサ…小さい頃から本当にこの子には世話になりったぱなしだ。

 ルインとレナードが手を離すと、抱きつくアリサを抱擁した。


「ごめん、また助けられた。サウスホープでの水かけが頭に浮かんで冷えたよ」


「良かった…ユウキだわ」


「すまねぇな。さっきも言ったが、現状を知って説いていく必要があった。あの宣告で帝国はリザードマンの殲滅を考え出していたんだ」


「なぜ…じゃないな。世代が変わって崩れる平穏を手にする前に片付けようとした?」


 簡単な話だ。

 平和はずっと続かない。リザードマンとの諍いが無くならなければいつかは崩れる均衡。

 それならば、大陸全土の和平条約を結ぶ前に手を取る相手を殲滅してしまえば良いだけの話だ。


「やっと前を見たか。エージェントだろうが市民だろうが、それが邪魔ならば消すのは道理だ」


 レクサスの呟いた「もっと前だけを見ている」とは、この事だったのか。頭に血が昇りすぎて考えられなかった。


 だがそれに意を唱えるものが一人。フェニキアだ。


「私は父がそこまで愚かだとは思いません。ユウキに何か言ったのでは?」


「うん、ガルシアさんを助けてくれと。それと立場がどうって言っていたよ」


「そいつは難儀だ。ならばお前の沸騰したヤカンも音を立てるはずだ」


 やっと理解してもらえた…。

 各々の立場で全体を見ず、言いたい事だけ言えばこうなる。これはこの世界だけに言えた事じゃ無い。


 前世もきっと社会に出れば、こうだったのかもしれない。だけど俺にはもう分からない話だ。


「レクサスごめん。皆を驚かせちゃって」


「構わん。それよりパーミストに行くならば俺も行くぞ。今の話で同行した方が利得がありそうだ」


 それに仲間達を見返すと、皆は異存が無いようであった。


「ヌーディストはダメだよ」

「おおおおお!俺は脱がん!何の事だ!?」

「がはは!裸でレモンを鼻面に乗せたただろうが!」


「貴方…ちょっと宜しいかしら?」


 エミリーさんが笑顔でレクサスを見ている。だがあれは決して優しい笑顔じゃ無い。

 阿修羅が見えるぞ!背後に何か言い知れない何かが居る…!


 ズルズルと奥へと引き摺られて消えていくレクサス。


「アッー!違うんだエミリィィィィィィ!!」


 南無三。



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