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リザードマンの拠点(2)

 ピッ!


 ツーッと頬を生暖かい感触が伝う。

 相手の出方を伺うどころか、いきなり奇襲の槍投げである。


 《ディヴァイン・ガーディアン》


 レナードは光の粒子を放ち、その光がやがて翼の形となって降臨する。

 散った粒子は味方を包み込むように翼が閉じられ、相手の攻撃を無力化していく。


「俺達に敵意はない!レクサスを訪ねてきた!!」


 リザードマンの槍を捌きながら、レクサスの名を出して相手に理解してもらおうとした。

 だが……


「何度も同じ手を喰うか!小賢しい!!」


 どうやら帝国とのいざこざで、既に戦略として取られていたらしい。

 帝国は汚い手を使う!


 俺は帝国領に入ってからと言うものの、この地のやり方に不満があった。

 何故仲良く酌み交わせない?何故暴力に訴える?


 何故…何故……!!


 あぁイライラする!


 地を蹴り俊足でリザードマンの槍の間合いの内側へと入る。

 あまりの速さにリザードマンは面くらい、反応までは出来ないようだった。


「ーッ!やら…」


 俺はリザードマンの両肩をガシッと掴んだ。


 過去何があったか話でしか聞いていない。

 だが、彼等の奇襲など大凡グライス達の受けた傷とは大きく違う事がよくわかる。


「辛かったな……闘い続ける事が…我が家を追い立てる愚か者どもが憎かったな!」


 一歩、また一歩とリザードマンは足を下げる。それに合わせて俺は足を踏み出した。


「なんーッ!」

「お前達は…何でそんなに命を狙われる?!家畜でもなければ、ただそこに存在しているだけで!!」


 奇襲を仕掛けたリザードマン達は、予想外の行動と言葉に混乱が生じていた。

 それは今まで自分たちが問い続けていた、答え合わせの出来ない問答そのものであったからだ。


「そんな事…自らの胸中であろう!!」


 若いリザードマンがユウキ目掛けて突貫すると、槍を勢いのままに貫いた。


 いや正確には違う。横腹を掠めていた。


「何故当てない?俺は避けない!」

「ぐっ……ぅ…」


 冷や汗を流して後ずさる若いリザードマン。


 俺たちに何かを託したナルシッサは何なんだ!

 皇帝の言葉を鵜呑みにすれば、この状況を作り出したのは先祖であるナルシッサに他ならないじゃないか!


「ふっざけるなぁぁぁぁ!ナルシッサ!お前は…俺の血がこれを起こしたと言うのか!!」



 突然の豹変にリザードマン達は訳がわからない様子。だがそこで、濃霧が囲み出して次第に敵が、仲間が分からなくなる。


 《蠱惑の楽園》


「やはり罠か!」

「違うぞ、レクサスはここにいる」

「なっ!レクサス様…のはずはない。若は不用意に出てはこない」


 そこで場面はとある居酒屋に切り替わる。

 そこは人々が酒を酌み交わし、楽しそうにゲームを興じて仲良く遊んでいる。


 それは帝国領の人々ではあまり見る事ができない姿であった。そしてその中にレクサスの姿を見る。

 人々とレモンを使ったゲームに興じていた。


 だが裸なのは些か疑義が生じる。


「何だこれは…若は遠征から戻ってすぐ和平と言っていたが、あれは本当であったのか?」


 すると横から俺達が現れた。装備が異なることから幻覚であると分かるが、リザードマンは思わず身構えてしまった。


『ゎぉ…ヌーディスト…』

『なに、してんの、よっ!!』


 バァァァァァン!!


 レクサスは床に顔面キスにをして、ケツを上げた状態から動かなくなった。周りがシーンと静まり返る中、アリサは腰に手を当ててフンッと鼻息を鳴らす。


「レレレ、レクサス様!!」


 リザードマンは思わず駆け寄るが、そこで微睡のように霧が晴れていく。

 俺たちはあの間に武装を解き、話し合いをできる状態にしていた。



「本当なのか…?」

「本人に聞いてね、ボク達は旧友に訪ねにきたんだよ」


 その場を取りまとめていたリザードマンは、皆に向き直るとそれぞれが頷いて答えた。


「まだ完全に信用はしていない。レクサス様は大丈夫だったのか?」


 《蠱惑の楽園》の終わり方があまり宜しくなかったので、ルインに問い正すことにした。

 あれには若干の悪意を感じ視線を投げかけるが、彼女は両手を上げて肩をすくめた。


「何故あそこで辞めたし?」

「さぁ?何ででしょう?終わっちゃった。の方が正しいかな?」


 ルインはあの日、葡萄ジュースのあまりの旨さに昏倒してしまった。

 いやこの言い方は正確ではないが、今ここではさして重要ではない。


「大丈夫だ。彼はエミリーさんの名を叫んで起き上がったからな」

「なんと!かの名まで…なるほど、着いて来い」


 エミリーさんナイス!


 と言うかあの時に名前だけ出たエミリー氏が、ここで役立つとは思いもよらなかった。


 何者ぞ、エミリー。


 リザードマン達に先導という名の監視付きで、本拠地である丘へと向かって進み出した。

 レクサスかノーデストに会えば、取り敢えず警戒だけは解いてくれるだろう。



「ルインの援護、完璧なタイミングだったわね」

「えぇ、私あの連携の良さには驚きましたわ。それにレナードは美しい力をお持ちなのですね」


 それにレナードが照れ隠しをするように、頭をかきながら下を見る。


「あの程度は容易い事で」

「へぇ、あの力を使うのにお前の努力は知ってるぜ?」


「ユウキ!」


 周囲ではリザードマンが警戒する中で、無邪気な笑い声が木霊する。だが一人、違うことを考える者がいた。


「やはり努力が……」


 誰にも聞こえないほど小さい声であった。

 だが俺は隣を歩いていたのでガッツリと聞こえてしまった。ここは聞こえないふり。


 自分の胸中にはあるモヤモヤとしたモノは晴れない。自分は何に向かっているのか?

 過去の精算を必要とするのか?

 ナルシッサは、それを見越した長期計画であったのか?


 何れにしても言える事は一つ。


「ナルシッサ…お前の呪縛はこの地を蝕んでいるぞ…!」


 ただ許してはおけない。




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