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リザードマンの拠点(1)

 帝国領を帝都から南下していたユウキ達は、一月ほど経ってようやく目的の場所に近づきつつあった。


「フェニキア、後どれくらいで着くんだ?」


「もう直ぐですわ…と言っても私自身がリザードマンの拠点に行った事はありませんの」


 俺たちはこの一月(ひとつき)の間にだいぶ親睦を深め、彼女の意向もあって呼び捨てで呼ぶ事にしていた。

 道中でリザードマンに会う事も考えたのだが、思いの外行動範囲は狭い様でそれも無かった。だが道中の地形も考えれば納得か。



 帝都に向かう街道から外れて東に向かい始めて異変が生じる。

 そう、道はあるが目の前にそびえる連峰。先など見通せた物ではなく、横に流れる河川はあの山から流れるのだろう。


 周囲は木々に囲まれ、時に山が連なる峠道を突き進むが、思いの外これがキツい。

 林道は落ち葉の絨毯となっており、フカフカして歩きやすいと思ったのも最初だけでした。

 落ち葉のせいで道が見えないのだし、車輪は足が取られて思うように進まない…


 ここは風をブローとして落ち葉を吹き飛ばしながら進む事で解消できた。


 だが終わらない。

 誰も整備しないのか?と問い正したくなるほど薮も茂っている。道幅も馬車道とは言い難く、1m程度崖を切り崩して平場を設けたような道だ。

 救いは冬も間近で青々としていない事だけだが、とても交通の要所とは思えない状況だった。


 過去に帝国がリザードマンの拠点に赴いた時は、50kgの装備を背負って峠越えをしたとの事、甚だ信じられない膂力である。


 しかし考えれば、日本でもかつてはこうした峠道を行軍したと考えると普通の事だ。

 俺が居た時代が恵まれ過ぎていただけで、モータリゼーション以前は、隧道を使わないこうした峠道が重宝された。


 信濃や相模を攻めた越後からの遠征、現代人は退化してやしないかと、ふと思ってしまった。



 話は戻るが、リザードマンの拠点は丘だと聞いている。荒野を想定していたが、この景色はどこか故郷のサウスホープを思わせる物があった。


「良い場所ね。ユウキはリザードマンに会ったらどうするの?」


 アリサの問いかけにすこし考える。知らぬリザードマンと会う事になるが、恐らく言葉で拠点に案内して貰うのは厳しいだろう。

 そこはゴブリンと違う所だ。慎重にならなければいけないが、武力衝突もあり得る。


「ボクがなんとかしようか?《蠱惑の楽園》なら相手に幻視でレクサスとのやり取りを見せられるかも」


「そうだな。話が通じなければ頼む」


 幻視系に進化したルインの固有血技は、とりわけ特殊だ。何故か戦闘系に特化する固有血技だが、彼女はその中でも異彩を放っていた。


「闘わずに済むのなら私も安心ですわ。怖いですもの…」

「どうしてもの時は、僕がお護りします」


 その言葉にフェニキアはニコリと笑顔を向けて答えた。


(この二人出来てんじゃないか?)


 そんな俺の疑問を汲み取ったのか、ルインは滅茶苦茶ニヤニヤしてレナードを見ていた。


「こら」

「へへへっ」


 そのやり取りにフェニキアとレナードは訝しげな表情を浮かべるが、自覚が無いのか?

 まぁレナードに春が訪れる事は俺にとっても嬉しい事なんだがな。


 そんなやり取りをしていると遠方から雷鳴が木霊しているのが聞こえる。秋のまだ残暑残る季節で大気が不安定な事がある。

 湿った土の匂いが、冷たい風に乗せられてやってくるのを感じる。


「嵐が来るぞ、中に入って防護壁を展開するんだ」

「了解!」


 これから訪れる未来を暗示する嵐が、雨降って地固まるとなれば良いが……

 一抹の不安を抱えて更に南へ進路を進める。その間に王都側に現状を報告することにした。

 自分たちの持つネックレスより遥かに高性能なようで、問題なく通じたのは幸いだった。


『そうですか。無理難題なら命を優先してください』


 相手は学園長ノイント・バレル。

 彼にはここまで定期的に交信を続けてきたが、王都領ではオーギスがいた為、そちらから情報が行っていた。


『リザードマンと帝国の状況は好ましくありません。パーミスト洞穴の攻略を第二に、リザードマンとの接触を優先します』


『許可します。闘いにならない事を祈ります』


 そこで交信を終えた。これまでもあまり指示は受けず、ある程度の自由をもらってきていた。

 今回もこちらのやり方に問題はないようであった。



 嵐をやり過ごしながら進むと、やがて遠方からでも確認できる小高い丘が見えてきた。《点穴》により周囲の状況を観察する。


 すると丘から横並びに等間隔を保って存在する者達を感知した。これは恐らく本拠地の防衛部隊であろう。

 小競り合いは森で起きると聞いているので、其方にも目を向けると、点在する存在を検知する。


 その点がやがてこちらを包囲するように動き出す。森のリザードマンからこちらは視認できないはずだが……


「来るぞ!森からだ!」


 その声に皆が臨戦態勢をとり、レナードがフェニキアを護るように立つ。


「数は?!」

「多数!包囲されている!」


 俺の怒声と森から飛び出したリザードマンは同時。


 奴ら殺気を込めて槍を投擲してきやがった!話し合いなどする気は毛頭ないな!


 それが火蓋となってリザードマンとのファーストコンタクトは大荒れとなる予感をさせた。




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