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冒険者ガルシア

 ただ只管に黒城の広間を突き進む。

 この先の道は見えた。


「ユウキ?最後なんて言われたの?」

「男の約束。行き先はリザードマン本拠地」

「えっ?リザードマンの本拠地に行くのですか?私怖いわ…」

「大丈夫です。僕達がついています」


 レナードはフェニキアの不安を払拭する様に言ったが、帝国に身を置く彼女は知っている。彼等と和解などした事がないことを。


「既にリザードマンのレクサスとノーデストとは和解しています。そこに行く様に言われました」


「…そうですの。お父様が」

「ボク達はゴブリンとも仲が良いし大丈夫!」


 まだ不安そうな感じを受けるフェニキアだが、心配しているのが伝わった様だ。頬を緩ませると、優しい笑顔で頷いた。


「ごめんなさい。貴方達を信頼するわ」

「レクサスが暴走しなければね〜」

「「「ルイン!」」」

「あっはっはー」


 ルインは本当に惚けたやつだ。

 だがルインのおかげで皇女も肩をほぐした様で、クスクスと笑っていた。



 リザードマンの本拠地は帝都から南下した丘にある。距離にして大凡200kmほど離れているため、宿屋に戻って荷馬車を受け取り買い出しを行った。


「そうだアリサ、髪ゴムを貸してくれないか?」

「なに?」


 アリサは俺がダルカンダで買った髪ゴムをつけていた。それを解いてフワッと下すと、普段あまり見ない姿に一瞬惚けてしまった。


「んっ?どうしたの?」

「あ、あぁ、何でもない」

「あらアリサさん、下ろした髪も素敵ね」


 フェニキアが言うのも頷ける。

 俺は顔を赤くしてアリサから髪ゴムを受け取ると、魔力を通して念じた。


 暫くして真紅の輝きが神ゴムに移ると、それが収まるのを待ってからアリサに返した。

 受け取ったアリサは髪ゴムを伸ばしたりして確認するが変わった所は何もない。


「何したの?」

「おまじない」

「ズルイ!ボクにも頂戴!頂戴!!」

「ルインは大丈夫だろ?いつかな」

「ぶぅー」


 頬が膨れたルインに笑顔を向けてヨシヨシすると、「しょうがないなー」と言ってプイッとしてしまった。


 しかしガルシアさんが皇帝と繋がっていたとは…


 ビジネスで国境を超えたと言っていたが、皇帝は捕縛命令を下していた。つまり危険があることを承知で戻ってきたと言うことだ。


 それに関所を正規の方法で通過していない。


 何食わぬ顔をして一緒に抜けたため気付かなかったが、普通に通るのは困難と判断して俺達が通過していない事を承知で待ち伏せしていたと考えられる。


「あなたは一体なにをした…」


 ?

 フェニキアは俺の呟きに不思議そうな顔をしたが、無視して準備を進めた。


 目指すはリザードマン本拠地だが、ここで冒険者ギルドに寄って情報を整理することにした。

 何ぶんチェストではそれを疎かにしたせいで大変な目にあった。


 ギルドは何処でも同じ様な看板が掲げられており、すぐに場所が特定できた。

 ゴールド証にある剣と杖を交差させた紋様だ。


 扉を開けるとこの土地特有の喧騒が響き渡っていた。酒を呑み剣の手入れをする者から、殴り合う者達で様々だ。


 それを無視して受付嬢の所へ向かうと、これはいつもと変わらぬ笑顔で対応された。


「ようそこ帝都支部へ。本日はご依頼でしょうか?」

「いや、リザードマンとの闘争経緯を手短に教えてください」


 それに対して受付嬢はペコリと頭を下げると、一冊の本を取り出した。通常の依頼と獣人関連の依頼は別口で管理している様だ。


「小競り合いの討伐は月に2回程度、大規模闘争は2年ほど前にあります」


「大規模闘争?」


「はい、帝国領有数の麦畑を有する村が襲撃され、帝国軍と冒険者ギルドの連合軍がノーデスト率いる部隊と交戦し撃退しました」


「…被害は?」


「対象となった村がノーデストの固有血技で全焼、一時期飢餓が示唆されましたが、王都からの支援により難を逃れました」


「産地は?」


「詳細は不明ですが、商人ギルドから斡旋がありサウスホープ産の小麦が多量に流れたと記録があります」


 チラリとアリサを見ると、手を口に当てて驚愕の表情をしている。2年前と言えばサウスホープ獣人戦争の直前である。


「小競り合いは突発的なものですか?」


「そうですね。計画的な依頼は王都の宣告から避けられています」


「シルバー冒険者のガルシアについて、答えられる範囲で教えて頂けませんか?」


 そこで受付嬢が怪訝な表情を浮かべた。

 通常個人情報は開示しないし、要求は本人がいる時にパーティの信頼性を高める為に行われる。


「申し訳ありません。許可しかねます」


 チャラリと首飾りを見せて冒険者情報を開示した。


「知り合いですが、行方が分からないので直近の依頼受託情報でもお願いできませんか?」


 首飾りを見た受付嬢はハッと息を呑んだ。

 ゴールド階級。


 それは一握りの実績と名声を積んだ者のみが許される物。受付嬢はガルシアについての情報を調べるが、あまり芳しい顔はしない。


「ガルシア氏の情報は秘匿されていて、我々でも調査できません」


「秘匿?なんでですか?」


「それさえも分からないから秘匿なのです」


 もっともな意見が返される。

 まさか冒険者ギルドの情報が秘匿されているとは思わなかった。


「ユウキ、ぶつけ本番しかないよ」


「そうね、行って本人から聞き出すしかないわ。それに帝国とリザードマンの関係がわかっただけで十分だわ」


 俺は二人の意見に頷き、冒険者ギルドを後にした。ここにもう用事はない、後は本拠地に赴くだけだ。


 来た時の雨は何処に行ったのか、秋風が心地よい中で空気の悪い帝都を出発した。



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