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動き出す歯車

 皇帝は俺たちの反応を見て、何か納得したような顔をしていた。


「赤龍は俺自身の先祖に当たります。今も生きているかは分からないですが」


 それに皇帝は驚き、簡潔に答えた。


「死んでいる。少なくとも赤龍は帝国領に居たから記録が残っている」


「そうですか…ある手がかりを、と思っていたのですが」


 少し残念ではあった。

 黒龍も話せば良いやつだったし、自分の祖先であるが故、何か知っているのではと期待してしていた。


 そこで赤龍が帝国領に居たという所に引っかかった。過去に聞いたことがある様な気がしていたのだ。


(どこで見た?どこで聞いた?)


 そんな疑問の中で、何かを察したのかアリサがコソコソ耳打ちしてきた。ちょっとくすぐったい…が悪くない。


「トージの書庫、《人身掌握》の所…」


 ん?…アッ!

 固有血技ノ書にあったんだ!かすれていたけど、それっぽい事が書いてあった。


 “ ダルメシア王族に発現した能力。

 対象を錯乱させて自分の言うことを聞かせる。

 弱点は無い。強いて言うなら、複数同時には使えない点と《点穴》には気付かれる。


 ナルシーーが気付ーーため、彼女は国外追放を受け、帝ーーにーーーと余ーをーー”



「ナルシッサが気が付いたから帝国領に国外追放を受けたんだ」

「何?ナルシッサだと?」


 皇帝はナルシッサの名が出てきた事に、更に驚きを露わにした。

 王都の正式な歴史書に記録されているし、何も不思議はないと思うけど確か一般向けには余り出てこないとも言っていたかな。


「ナルシッサは戦後の英雄だ。この帝国のシステムを作り上げたのも彼女だと伝わる」


 彼女の才能がトージの入知恵かは分からない。だが彼女は英雄としてこの地に伝承されている様だ。

 そこで魔力が回復したので立ち上がると、名乗っていなかった事を思い出して皇帝に名を告げた。


「ユウキ・ブレイクにあります。固有血技、《点穴》と赤龍の魔力を行使出来ます」


 口をパクパクさせた皇帝は、一歩また一歩と近づいてくる。


「我はハーベスト・ゾディアックにある。我の祖先は……ナルシッサと言われておる」


「何ですって?それじゃ、ユウキと皇帝陛下は親族ですか!?」


「分からぬ。だが遠い親戚かも知れぬ。家系に赤龍の力を使えた者は居ないがな」


「それはブレイクも同じです。使えたのは俺だけでした」


 因果の鎖は音を立てて絡み始めた。


「トージとナルシッサは、魔族への対抗手段として俺たちに欠片を残しました」


「ふふふ、魔族の話も知るか。帝国は魔族と戦う力を忘れない為にこのシステムを残している。その歳で何を見てきた?」


 俺はアリサ、レナード、ルインの顔を見た。皆が一様に頷き返すを見て、俺は今まで見知った事を皇帝に包み隠さず告げた。



 一つ、トージとナルシッサがダルメシア戦争中に魔族を気にしていた事。


 一つ、戦時のナルシッサが聖都領に行ったのは、鳥獣人ホルアクティの動向調査だった事。


 一つ、戦後トージとナルシッサは何かを各地に隠し、子孫に架け橋を残した事。


 一つ、近年起きた王都と獣人の中規模戦争、ダルカス大森林獣人討滅戦が魔族の攻撃回避に行われた事。


 一つ、先のサウスホープ獣人戦争前に各獣人の領地に不穏な現象が起き、リザードマンがゴブリンを攻めた事。



 これらの事象は全て繋がっている様に思えた。


「であるか。ならば尚更パーミスト洞穴に行ってもらう。あそこはナルシッサの秘宝があると言われるが、最終層のドームには何も見られなかった」


 皇帝は先の謁見でユウキに赤龍の力と思える何かを感じ、力を試した様だった。


「その最終層到達は冒険者ですか?」

「いや帝国軍だ。我が直々に攻略した」 


 ナルシッサの血縁者であるならば、何かがあっても良いと思うが…


「分かりました。所で条件のご子息は?」

「貴様らも一度会っている。ここに」


 皇帝の言葉により闘技場に姿を表したのは、2度ほどすれ違った女性であった。


「もう良いのですか?」

「これは…先程は無礼を失礼しました。レナード・ドールと申します」


 レナードはこう言った政治に強い。先程のすれ違いといい直ぐに謝罪した。

 だが女性は気にした様子もなくクスクス笑うだけであった。


「レナード様、窮屈でありましょう。(わたくし)はフェニキアです」


「ユウキです。お世話になります」

「アリサです。よろしくお願いします」

「ルインだよ、硬いのはヌキね!」


 こら!


 ルインにメッ!と視線を向けるが、本人はどこ吹く風と言った感じである。


「あらあら、ルインさんとは仲良く出来そうね」

「でしょ〜」


 ルインとフェニキアは満足そうに頷くと、父である皇帝に問いかけた。


「お父様、私にできますの?」

「やって貰わなくてはならない。そのための護衛依頼だ」


 フェニキアがダンジョンを耐えられるかは分からない。だが、彼女や自分が鍵となっている可能性も否定できない。


「命に変えてお守りいたします。それが僕の信念と考えて頂いて構いません」


「はい、よろしくお願いします」


 フェニキアはニコリと優しく微笑むが、その顔を見ることはなく、じっと地面を眺めていた。


「レナード、もう良いだろう」

「ん、そうだね。よろしくお願い致します」


 皇帝は最後に、帝都とパーミスト洞穴の場所について教えてくれた。


 帝都は帝国領の北部に位置し、パーミスト洞穴はそこから南に向かい街道から外れて東に向かった平野にあるらしい。


 だが解散の前に二つほど確認したいことがあった。それはリザードマンの拠点とガルシアの事である。

 それに対してリザードマンは、パーミスト洞穴の近くの丘に住み着いていることを教えてくれた。


 だがガルシアの名前を聞いた所で若干の変化があった。それはルインにしか気が付かないほど些細なほど、眉を潜めたのであった。



「ガルシア…か、彼の立場は難しい。だがこれだけは言える。我は彼を信頼し捕縛命令を下している」


「捕縛…命令?殺害命令ではないのですか?」


 皇帝は空を見上げて、遠い昔を思い出す思考すると一つの答えを返してきた。


「殺す気で挑め。その気がなければ自らの命が消え失せると警告している」


 それにアリサが珍しく身の程を捨てて憤慨した。

 長い付き合いだが、こんなアリサを見た事は今まで無かったかもしれない。


「ガルシアさんは命を落としかけたわ!彼は私の命を救ってくれた素晴らしい人よ!!」


「俺も同意です。ズレた所はありますが、それも彼の良さです」


 やはり皇帝は空を見上げたままである。だがアリサと俺を見て哀愁漂う笑顔でフッと笑った。


「ユウキ・ブレイクよく覚えておけ。時に『立場』は自らをも殺す」


「俺はそうしない努力をすると誓った!」


「貴殿は不思議と年齢を感じさせない印象を受ける。だがなーー」


 皇帝が一歩踏み出す。


 俺はその一歩に自らの足を下げそうになった。だがそれは叶わなかった。

 レナード、アリサ、ルインが俺の背中を皇帝から見えない様に支えてくれていた。


 こんなにも頼りになる友人は前世も含めて居ただろうか?こんなにも……人を頼った事があっただろうか?


 俺は支える仲間に振り向かず、皇帝に対して一歩踏み出した。

 互いの顔は目と鼻の先であり、一歩も引かない状況。


「だがな…それは危うい。チャンスとリスク、責任の駆け引きに身を置いた感じを受けない」


 俺は……前世が高校生で終わりを迎えた。


 部活や委員会、バイトなどを経験した事はある。だがそれは社会に身を置く人間からしてみたら、遠く及ばないのかもしれない。


 書類一枚にある文面のニュアンス。それを間違えれば責任の所在が一重に切り替わる危険な世界。

 国を統治する皇帝の言う『立場』を、真の意味で理解するには人生経験が不足していた。


「でも、前を見なければ見えない世界も……」


「だから『立場』と言う!リスクを国民に押し付けて自分はサインをして高級ウィスキーを嗜むか!?」


「でも、誰かがやらなければ!」


「それだよユウキ……誰かがやらねばならん。それは皇帝でも王でも教皇でもない」


「へっ?」


 ガシッと両肩を掴まれて、これまでにない鬼気迫る表情で俺の目を見つめる。

 そして皇帝は、俺にしか聞こえない程小さい声で呟いた。


(少ない我友を救ってくれ。頼む…)

(初めからそう言ってください…)

(それが言えれば苦労ない)


 俺は皇帝の真意を受けて納得した。

 だが依然状況が許される物ではないことは理解できる。詳細を知るには情報が少な過ぎた。


「リザードマンに会え」


 それに頷いて引き下がると、俺は皇帝に頭を下げてその場を後にした。



 皇帝は闘技場に残され、折れた矛先を見つめながら考えていた。きっとこの時代に必要なのは彼のような存在だろう。王は王でも違う方向から考える者。


 その後ろ姿を見ながら心の中で呟いた。


(頼んだぞ、リバティキング(自由な王)よ)



「うっクッ!ぐぁ!……なん…だと……」



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