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皇帝への謁見

 開かれた扉の先はダルメシアの謁見の間を思い出させる光景が広がっていた。


 幅20mはあるレッドカーペットが玉座にまで続いている。だが王都と違うのは一点、それは護衛の数だった。

 皇帝は玉座に鎮座し、段差を下りた先に一人の男が立っているだけである。


 俺たちは段差の手前10mほどの距離を残して停止すると、全員で片膝をついて失礼が無いようにしようとした。


 だがそれは皇帝の手によって止められる。


「よい、遠方より良くぞ参った。我は王でもなければ只の帝国の頂点である」


 彼は帝国の国民の一人である同時に、その中の頂点であると言った。

 それは帝国というより民主主義国家に近い思想の持ち主という事だろうか?


「ではこのままで失礼します。ダルメシアの使者として獣士に関するお願いに上がりました」


「フッ…獣士とな。貴殿も道中で帝国民の考え方は理解し得ただろうか?」


「力こそが全て…であると?」


「他種族と相まみえると思うか?」


 皇帝の言う事は正しい。

 この国の人間は根底から武力で全てを解決しようとする節があった。

 ダルメシア領内の旅よりも精神的な疲労が蓄積したのは主にここに起因するものがある。


「では何故それが理解できて正さなかったのですか?」


 その一言に皆がレナードに振り向いた。

 レナードはいつになく真剣な表情をして、眼で威圧するように言う。


「貴殿は?」

「ドールが三男でレナードと申します」


 それに皇帝は上を見上げて考え込むようにしていた。

 やがてドールを思い出したのか、手をポンと叩くと相槌を打った。


「あぁ、ドールガルス城塞のか。理想を持つことも良いが無知は恥ずべき事ぞ?」


「無知?傍観の間違いでは?」


「「レナード!」」


「待て待て!連れがすみません。話を進めましょう」


 だが、それに皇帝の方が食いついてきた。


「貧富の差を最小に留めるには、状況によって強大な圧力が必要となる場合がある」


「国民は事実荒れて暴力に訴えている!」


「国税を正しく施策し、国民へ対等に寄与すればそれは幸福へと成り立つ。その過程で集まった不満を発散される物は何か?」


 言われてレナードは考えた。

 王政ではとても考えつかないような何かが蠢いている。


 確かに王政は高額所得者が高額納税をしているが、実際に貧困の差は縮まらない。

 それは貴族などの金持ちが結局主権を握っているからである。


 そして帝国では溜まった鬱憤の解消手段を、暴力も一つの手段だと言った。


「頂点を目に見える“力”という手段で決定している…から」


 パチパチパチ…

 皇帝はここで初めて笑顔になって拍手した。


「ご明察。故に我は最強であると同時に国民を正しくコントロールする必要がある」


「この国の施策ってなに?ボク達の国では精々特待生が学費無料ってくらいだけど」


 ルインの言葉遣いにややヒヤリとしたが、皇帝はあまり気にした様子はなかった。


「学費無料、医療費控除、高齢者雇用斡旋、冒険者ギルド修練場の常時開放、小麦や水の等分配給などだ」


「なッ!?どこにそんな金が!」


「国内自給率はほぼ100%で国内金はコントロールできる。他国に使う金は別に用意されている」


 それならば貧困の差が来るはずもない。

 必要な物資は全て国が管理して等分に配当している。

 更に3国共通の貨幣は別に用意して貨幣価値を落とさず、国内の流通貨幣の価値を上下させている。


 だから神無砦の関所で外貨をあんなに欲していたのか。

 配当される物以外で自由に使えるお金を入手したかったのだ。


「しかしそれでは加盟国が納得しないのでは?」

「するさ、加盟して自国に害を成さなければな」

「形骸化…」


 俺の呟きに皇帝は大いに頷いて笑顔で答えた。


「ドールより貴殿の方が建設的だな?」



 レナードは感情に任せて思考停止だった自分が恥ずべき失態を犯したと反省していた。


 だが前世による知識があるからこそ、様々な方向からの考えが浮かぶ。

 これを最初にやった者は本当に凄いし、英雄と言われるのも頷ける。


「それならば何故武力に訴える必要が?単純に幸福であれば良いじゃないですか」


「浅慮な考えよ。遊ぶ金は何処に行く?仕事の鬱憤は何処に行く?」


「スポーツ…か」


 俺の呟きに皆が振り向いた。

 前世で言うオリンピックだ。これがある意味で戦争根絶や国民の鬱憤を晴らすのに都合が良い。



「スポーツとは?」


 この世界に遊びはあるが、ルールを規定したスポーツは一つもない。

 皇帝の問いかけに俺は簡潔に答えた。


「一定のルールに則った遊びです。そこに勝敗を付与すると?」


「ハッハッハッ!闘技か!まさにそれよ!」


 皇帝は大変満足した様に笑い、頷いていた。

 皇帝の機嫌を損ねないのは良い事なのだが、ここまで獣士の話は一歩も進んでいない。


「獣士と手を取り合うのもそのスポーツ、闘技で数年に一度互いに切磋琢磨しては如何ですか?」


 これまで獣士に関して一歩も引かなかった皇帝の目の色が変わった。


 一歩、また一歩と階段を降りる皇帝。


 彼は何を考える?

 正解か?


 俺たちの目の前まで来た皇帝は手を差し出した。



 俺は笑顔になってその手を取ろうとした瞬間、《点穴》が周囲に魔力の反応を捉えた。


 ーッ!?


「下がれアリサ!」


 俺の声に反応したのは二人。

 レナードは《ディヴァイン・ガーディアン》を展開し、ルインも《アクアヴェール》を展開する。


 俺は魔力を解放して真紅のヴェールを纏い、アリサを庇う様に飛びついた。


 直後、激しい爆発が周囲を襲い辺り一面煙が舞い上がった。



 煙が徐々に晴れてくると状況が分かる様になり、皇帝は目を疑った。


 真紅の半透明の魔力が、龍の手を模した形状になってその爪で自らの喉元に突き付けられる。


 その先に真紅の瞳を輝かせた男が殺気を込めている。


「ふふふ…ハハハッ!!最高だよ貴殿は。全員無傷か!」

「何のつもりですか?」

「最初に帝国のやり方を聞いたであろう?」

「ここでヤルつもり?ボクは良いよ」


 剣呑とした瞳でそれぞれが見合う。


 緊張の糸は常にピンと張った状態にあり、いつ切れてもおかしくない。


「場を変えよう。我を納得させてみよ」



 そのまま皇帝はついてくる様に言うと、俺たちはただそれに従うしかなった。



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