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帝都ゾディアック

 一斉に放たれた《ファイアアロー》は死角なく全周囲から襲いかかる。


 それに対してレナードが《ディヴァイン・ガーディアン》を展開して全てを無効化させる。


 俺は《ファストブロー》で地上の敵を吹き飛ばし、近くにいる奴を手当たり次第に地に伏せさせた。

 続くクロスボウの矢も、アリサとルインの《ウォータージェット》で迎撃しつつガルシアが剣で屋根上を攻撃していく。


「ふぅ、こんなもんか」


 どうにか刺客を撃退して安堵した所で、ガルシアに突き飛ばされた。


 ドスッ!


「ぐっ!うおおおおおおぉぉぉぉ!」


 俺が倒した意識ある刺客からクロスボウが放たれたのだ。それに無警戒で気が付かなかった。

 ガルシアの豪腕から繰り出す剣の投擲により、刺客は沈黙した。


「チッ!ユウキ、甘さを捨てろ。そうしなければ生き残れない世界だぞ」


「そんな事よりも治療を!」


「それが甘さだと言う!お前のクリーミーな考えが通じる世界だと思うな!」


 そして今は兎に角外に出て安全地帯まで移動すると言い、4人はそれに従うしかなかった。


 訳か分からない。

 この人に巻き込まれて何もがが滅茶苦茶な感じだ。


 次第に怒りがこみ上げてくる。

 最初は良い人だと思っていたから助けたけど、今の状況はそう思えない。


「ここまで来れば大丈夫だろう」


 岩場に穴を見つけてそこに馬車ごと隠すことができる。どっと疲れのような物が押し寄せてくる。


「俺は甘いですか?」


「甘すぎだ。お前の宣告は世界をひっくり返した。それは平穏だった者達を陥れる程にな」


 そしてガルシアは覚悟の上でその宣告を行ったと思っていたようだった。

 だが俺は実際に人を殺したことはなかった。


 群鳥戦でもあれだけ派手にやってはいたが、群鳥を含めて死者はゼロ。

 記録的快挙であるが、それは言い換えれば監獄行きになった者達で税金が飛び、更生する余地もない。


 全てをひっくるめて、悪人を殺すことや仲間の命と駆け引きを行う事への覚悟が足りないとガルシアは言ったのだ。



 俺はガルシアの矢傷を《龍の囁き》で回復させると、念のため解毒魔法をアリサが使った。


「たまんねぇな。俺は帝都には入れないからここで解散だ」


「…そうですか。これだけは教えてください、ガルシアさんは何処に居るのですか?」


「俺はボストンに顔向け出来ないことはしない。それだけは確かだ」


 父の友人である事に裏切りはない。

 であれば、敵ではないと考えて良いという事だ。


「ガルシアさん気をつけて、私は貴方に命を救われました」


「あぁ、神に感謝しろ。死ぬんじゃねぇぞ」


「私の神は肉体美をチラつかせる美丈夫だわ」


 ふふっと笑い立ち上がると、ガルシアは背を向けて歩き出した。追手の気配を気にしつつも穴から出ると見えなくなった。



「どう思う?」

「僕は少なくとも悪人には見えなかった」


 レナードも善人とは言わなかった。だが悪人でもないないと言うのもまた事実か。


「ユウキ?ボクは信じて良いと思うし、彼の言葉を考えるべきだと思うよ」


「殺し…か」


「なぜ拘るの?この世界では悪人は裁かれる当然だよ」


「レナード…」


 そこで前世の世界に住んでいた場所が、いかに平和であり秩序がある程度の高水準を保っていたかを説明した。


 日本で殺人を犯すことは間違いなく罪であるし、それを罪の意識もなく手掛ける者はごく少数だ。

 それは刷り込まれた記憶であると同時に楔を撃ち込まれていた。


 育った場所が違えば考えも変わるが、良いのか悪いのかこの楔だけは中々外れなかった。



「皆ありがとう、俺は今出来ることを精一杯やるよ。帝都へ向かおう」


 その一言に頷き、馬車の中へと移動する。

 いつしか洞窟の外には雨が降り出しており、今の自分たちの気持ちを写したかのようであった。


(凄くモヤモヤする)


 帝国領に入ってからと言う物の、酷く腐った果実を鼻先に突き付けられた気分だった。



 日が進み秋の風が吹き始める。

 1ヶ月ほどなのか、もう日の感覚が無くなるぐらい街道を進んでいく。


 北上している事もあり、秋にしてはやや肌寒さを感じた。

 途中で農村などがあったお陰で食料や物資に困ることはなかったが、やや疲弊した感覚は否めない。

 チェストで馬車を改造していなかったら危なかったとさえ思える。


 そんな中で雨が降り始めて、馬の操縦者以外は中へと入る。


「この道で合っているのよね…」

「あぁ、立ち寄った農村で聞いたから間違いない」


 アリサも疲れた表情を浮かべている。

 王都を出発してから色々なことがあったし、世界を知る切掛となった。

 それは王が言った通りであり、また帝国領の暮らしもわかってくる。


 王都でもギルドや酒場では喧騒をするが、暴力沙汰などは特に起きない。


 それは王都の統治力の強さを示す物だが、帝国は止めなければ焚き付ける節もあり、酒場やギルドで破壊行為が起きるのは日常茶飯事であった。


 そう言った面で精神的にも疲れていたのかもしれない。



 やがて馬車が進み手綱を持つレナードが、風を纏って雨を飛ばしながら中を覗き込んできた。


「大きい城が見えてきたよ」

「本当か!?」


 皆が一様に外を仰ぎ見ると、そこにはシトシトと雨が降る中で煙を上げた城下町の奥に佇む漆黒の城が目に入った。


「やっとだね〜。と言うか帝国って副都市みたいな物がないのかな」


「街道から外れた所にあるのかもしれない。けど今はいいさ」


 疲労困憊でとにかく宿屋で暖をとって暖かい食事にあり着きたかった。


 暫くしてレナードが馬車を止める感覚が襲う。

 また列に並ぶ必要があるのだろう、そう考えていたが違った。


 城門に衛兵が規律正しく直立不動で立っており、誰も検閲を受けずに中に入っている。


 俺達は馬車を降りてそれぞれ風を纏って雨を飛ばしながら城門を通過した。

 見知らぬ人物だから止められると思ったが、そうはならなかった。



 城下町は王都と違い、様々な所からカンカン!ガァァン!!と重量物を扱う音が響き渡っていた。

 家々からは煙突から黒い煙が立ち昇り、空気の悪さに思わず口を塞いでしまった。


「酷い匂いだな」

「鼻が曲がりそうー」

「宿屋を探しましょう、辛いわ」


 宿屋を探して回ると、冒険者ギルドを見つけた。

 大体宿屋はギルドの近くにあったので辺りを見回すと看板が見えた。


 馬や馬車をおける宿屋を探すのには苦労したが、何とかたどり着くことができた。


「今日は休もうか」


 レナードの一言に皆が無言で頷いた。

 その日、皆はベッドに横になると死んだように微睡の中へと誘われるのであった。



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