過去を知る者
「何故その名を…?」
俺はポーチからとある書物を取り出した。
「持ってきたの?」
「あぁ、準備期間に何度か入って持ってきた」
それは、地下ダンジョンにあるトージの書斎に保管されていた本であった。
このトージの書物は主に当時の技術関係が記載されていた。
武器に関する鍛治技術、兵器開発、耕作具など工業に関するもの全般である。
この世界にはこうした記録は少ない。と言うよりは脚色された歴史であったり王族・貴族の自慢物語が殆どであった。
そして持ってきたこの本には、サービッグと言う名前がちらほら散見される。
彼の名前と特徴から言って、とても関係が無いとも思えない。
「失言じゃったか。刀次郎も何かを残したようじゃな」
刀次郎?トージではなく?
疑念が確信へと変わっていく。やはり転生者はトージか。
彼は戦争で何を知り何を残したのだ?新たな疑問は湧水のように溢れていく。
「ワシは280年を生きるドワーフ族の生き残りじゃ。戦時は斧を両手に刀次郎と共に戦った物じゃ」
「ナルシッサと赤龍について知る事はありますか?」
それを聞かれてビッグは思い出すように考え込んだ。些か昔のことなので、思い出すのも大変なのだろう。
「奴らは物凄く強かった。真龍である赤龍は言わずもがな。しかし戦時も何度か相二人は引きしとった」
俺は言われて魔力を解放すると、瞳の色が変わっていく。
もしあの問いかけが赤龍の残滓であるのならば俺は…
「固有血技の《点穴》を使えます」
輝く真紅の瞳を見たビッグは目を丸くした。
何を思う?
さぁ答えてくれ、過去を知る者サービッグ。
それにビッグは不敵な笑みを浮かべた。
「子を宿せたか。トージは寿命で死ぬ間際、ドールガルスとダルメシアの地下に過去と未来の架け橋を遺したと言った」
ダルメシアの地下はあのダンジョンの書庫であろう。ドールガルスの方はどうだ?レナードを見るが、彼は首を横に振るった。
「仮に何かあってもボクは三男で、何も聞いていないよ」
正式な家督の継承者のみに伝えられる秘密か、そもそもそんな物自体が知られていないかの二択だ。
「ノーザス・バレルが作った学園の事は主らの方が詳しいじゃろう。ドールガルスは地下に宝物殿がある」
それにレナードが驚いた表情をして否定した。
「ドールは全てをダルメシアに摂取されています。宝物などないと思いますが?」
それに指を立ててチッチッチッと否定した。
「入口は学園にあると聞く。繋がっておるのだよ、あの二つの巨城は」
「魔法陣だわ!」
アリサが直ぐに解答を導き出し、それに皆が同意した。
恐らく起動しなかった魔法陣はドールガルスに繋がっている。だが何故?そんな転移魔法などどの書物にも無いと思えた。
『後継者が真に望む時、扉は開かれん』
脳裏にあの時浮かび上がった文字が脳裏に浮かぶ。
「レナード、今行ったら開くんじゃないのか?」
「分からない。求める物が合致してるか不明だよ」
歴史の真実か、ドールガルスの危機か、力か。何を求めているんだ?トージは何を隠した?
「神の…」
俺の呟きに皆の頭には?が沢山浮かんでいた。
「ボクはこれだけ聞きたいかな。ビッグさん、ユウキは人族なの?」
その質問に皆がバッと振り向いた。
真龍ってデカイよね?ナルシッサは普通の人だよね?後は分かるな。
「恐らく人に擬態出来たから子孫であろう。継承ではなく、本人の力を受け継いで」
「赤龍の力…」
「でもお父さん普通の人だったわ。ユウキみたいに化け物じみた力もなかったわ」
アリサさん、化け物は酷いのでは?
少ししゅんとして考えると、確かに点穴の継承もそこまで上手くいってなかった。
自分の時に初代と同じ位に使えるようになった。突然変異なのか?
だが思い当たる節があるとすれば、それはトージと同じ転生者だが。
「うん、良く分からないな」
俺はこの話を切り上げようとした。出ない答えを探しても仕方がない。
「人は転生する」
「なっ!」
ビッグの言葉に誰よりも反応してしまった。やはり転生の事まで知っているのか!?
ビッグは重い口を開くように告げた。
「トージは日本と言う異世界から転生したと言う。その際に神から力を貰い神託を受けたそうだ」
「日本?」
「何処ですか?」
「生き返るのか〜」
「その神託とは?」
「「「そこ?」」」
皆転生に対して反応した中で、俺だけが神託の内容に食いついて一斉にツッコミが入る。
だが気にせずビッグに食いついた。
「人の不和の解消?世界平和?魔族への対抗?」
考えうる全てを捲し立てたが、それにビッグも驚き押し返すように言う。
「この本が読めるお主は…転生者か!?」
今度はこっちが一歩下がる番であった。どうするか思案する中で答えた。
「…そう。日本と言う国に居て死んだ」
ビッグは納得した顔をしたが、それに驚いたのは3人だ。
「なんで今まで…」
「アリサごめん。記憶が戻ったのは6歳なんだ。それに記憶が戻っても今の自分に入ってくると言うか、他人のような感覚だった」
「そうなのね」
「ま、ボクはユウキがユウキならいいかな〜」
ルインの言い分に皆が頷いた。本当に良き友人達に出会えたと思うが、懸念もあった。
「17歳で死んだけど、年齢が近づくにつれて鮮明になってくるんだ」
「鮮明?思いのような物?」
それに頷いて答えた。
感覚が前世の記憶に追いつくような感じだ。差し当たり6歳で17歳の記憶と言われてもパッとしない。
「神託はこの世界の平和」
「ふむ、刀次郎は『強靭な光を持ち邪を打ち払う』と言っておった」
似ているようで違うのか?
ここで言う邪の定義がわからないが、魔族を懸念していた事から人族の不和を解消したダルメシア戦争自体は通過点に過ぎず、目的ではないと言ってもいい。
「じゃが刀次郎は寿命を全うした。後年時間が凡そ人の生では事足りぬと言っておった」
「真龍は長寿種って黒龍が言っていたね」
レナードの言う通り、黒龍は長寿種だが真龍には成せない事なのか。
謎はまだ残るがこれで一つ前に進んだ。
「これが終わったら本格的に調べる必要がありそうだな」
「そうね、少し気味悪いわ」
そこで話を切り上げ、ゴブリン達に礼を述べた。彼らはまた集落へと戻る必要がある。
そこでビッグが護衛を申し出てくれた。
「ワシが集落までついて行こう。非戦闘員にはちと厳しかろう」
「温情痛みいる。それで馬車を二台作っておったのだな」
「なに、作った物を試験するのも製作者の使命じゃ」
そう言ってそれぞれ出立の準備を進める。
ここからは関所まで一気に抜けて帝国領まで移動する予定だ。
「あぁ、それと荷台に布団を入れておいたぞ」
なに!?
それに皆が中を覗き込むと、素晴らしいふかふかそうな布団が置いてあった。
それに背を低くしたソファーもだ。
最高の贈り物にビッグに感謝した。




