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冒険者とは

 冒険者ギルドは人が入りきれないほどの賑わいを呈していた。

 本部長のオーギスが来ているのもあるが、やはり話題は群鳥の壊滅。


「俺も行けばよかった!」

「報酬なしに引っかかったからなぁ」

「だがギルドの貢献度は計り知れなかったな」

「しかしベア級で重傷者が出たと聞くぞ」


 報酬なしだがギルドの貢献度、つまりポイントが高くつき昇格のチャンスでもあったのだ。


 しかし鵙が使ったドーピング後の群鳥の強さは、一介のシルバーでは太刀打ちできないほどの強さがある。

 やはり命を考えると実力に見合わない者は行くべきではなかった。


 昇格した者は多く、ユウキの龍の囁きやディヴァイン・ガーディアンなどの守護もあり、死者もなく事が済んだのは幸いだった。


 中でもとりわけゴブリンの加勢については熱を帯びていた。


「グライスとリン、ネフィルと言うゴブリンは強かった」

「あぁ、ネームドに手を出すなと言うのも頷ける」

「地を割り、移動した先では敵が吹き飛ぶ。ゴールドクラスの戦闘力は間違いない」


 グライスは元々王都領では知られていた。だがリンは俺がつけた名であり、この群鳥壊滅で大きく知れ渡る事になった。


 獣人のネームドとはこうして人に知れ渡る事になる。

 恐ろしく強く見たら逃げろ。その時は既に死んでいるがしれないが、と。



 時にユウキの真紅のヴェールも話題に登っていた。


「だがそのリンを圧倒する奴がいたな」

「ああ、真紅に輝く瞳を見た時は背筋が凍ったぜ」

「ユウキと言っていたか?」

「赤髪の十代半ばの青年だったな」

「ゴブリンにも指示を出していたが、何者だ?」


 謎の赤髪の青年がネームドと対等にやり合った。その事実は確実に人々の中に残っていた。



 俺はそんな中に人をかき分けて入ると、カウンターへと向かった。

 受付嬢がこちらを見ると、周りで話す声が聞こえるのだろう。


「あっ、ユウキ様お待ちしておりました」


 その声に一斉に振り向く冒険者達。

 先程までの喧騒が嘘のように鳴りを潜めた。


「受諾したスコーピオン討伐を完遂しました」

「へっ?あっ、そっちですか。って一人で!?」


 ガバッと受付嬢が立ち上がり大声で叫んだ。


「おい、ソロでスコーピオンやれるか?」

「無理だぞ。あいつら多いしかてぇ」


 ザワザワしだしたギルド内を他所に、俺はギルド証を差し出した。


「確認します」

「数日前、群鳥の戦い前です」



 暫く記録映像を確認していくと、どんどん顔が青ざめていく。

 その映像は小さく投影されており、皆が押し合い食い入るように見てくる。


「なんだこれ?デカくないか?」


 スコーピオンのボスの辺りだ。


「あぁ、デカいやつが通常個体と勘違いして戦闘しました。地下水脈の水流を変えないのは苦労しました」


 それを見ていたルイン、アリサ、レナードも若干引いている。


「ユウキ、何と戦ってるの?」

「ボクの呼びかけに来れなかった理由が分かった」


 3人の様子を見てちょっと焦った。

 地下に落ちてサソリに襲われて、いや大変だったと説明するのに苦労する。


「お前はどうしたいんだ?んっ?英雄よ」


 オーギスだ。

 彼の言うどうしたいと言うのが分からない。


「どうするも帝国に行きますが」

「違う違う、ワイバーン級は間違いない。その上だ」


 それに場が騒然とする。

 ワイバーン級の上、つまりはゴールド階級。


 一握りの実績と強さを持つ者にのみ与えられる称号。

 その称号をもらう所を見たことがある冒険者は少ない。


 今回スコーピオンのボスを単騎討伐した事により、ワイバーンへの昇格は間違いないとされている。


 そこに加えて、緊急クエスト化した群鳥の壊滅は、実績として十分であった。

 だが一人で行ったことではない。


 故に出る答えは一つ。


「お断りします」

「んむ、何故?」

「多くの人に支えられて立った戦場で華は貰えません」


 オーギスは顎に手を当てて考え込む。

 誰も音を立てない静寂の中、オーギスは考えに考え抜いて俺に問いかけた。


「冒険者とは何か?」


 ここは冒険者ギルド。

 多くの冒険者がいる中で、最も初心に立つ質問であった。


 冒険するもの?

 生活のための職業?

 困った人を助けるもの?

 血肉沸く戦いを求めるもの?


 どれも間違ってはいない。だがそれは理由であって目的でも結果でもない。


「調和…」


 辿り着いた答えだった。

 オーギスは依然難しい顔をしている。


「正解はない。何故調和だと?」


「街の平穏を守り、増えすぎた魔物の討伐。どれも循環する歯車が冒険者だと思いました」


 それにオーギスは不敵な笑みを浮かべた。


「って事はだ、ダルカンダ元支部長も歯車になっていたと?」


「それを阻害していたから拿捕されたのでしょう?」


「なるほどな。お前らこいつをどう思う?」


 周りの冒険者達に問いかけるオーギス。

 彼等は一様に澄んだ目をしていた。


「冒険者はソロで出来ない事をパーティでやる。君は巨大なパーティ、アライアンスリーダーとしてあの戦場を制した」


 あの場にいた冒険者を纏めていた人物からだ。

 それに皆が頷いた。


「死闘で死人を出さずに終えたのは、君にその資格があると言う事だ」


「やめてください。それなら貴方もその資格があります」


 やれやれと両手を上げて首を振る。


「仲間の力を信じ切った君がふさわしい。な、そこの銀髪のお姉さん?」


 突然ルインは話題を振られてハッとなった。

 ルインは敗戦濃厚な状態から背中を押されて鵙を倒した。


 それはユウキが最悪守ってくれると信じたからできた事であった。


「うん、ボクの夫(仮)は誰よりも信頼しているよ!」


「だとさ?」

「ユウキどうする?」


 オーギスは改めて俺に問いかけてきた。


 皆好き勝手言いやがって。

 一人じゃあの数を抑えられたかも分からない。レナード、ルイン、アリサが居てゴブリンも来てくれた。


 そんな状況だからこそ成せたのだ。

 やはり受け取れない。


「ユウキ」


 レナードがあまりよろしくない顔をして、俺の肩に手を置いた。


「君は謙遜が過ぎるきらいがある」


 厳しい目付きだが、どこか諭すようなそんな感じがする。レナードは何かを必死に伝えようとしている。



「悩まないで、君がそれを否定したら僕達はどうなるの?」


 あのときレナードにグライスを連れてくるように言ったのは誰だ?

 絶体絶命のダニエルを救ったのは誰だ?

 ルインに先行するように言ったのは誰だ?


「例え…例え1ピースでも掛けたら負けていた戦いだったんだよ」


 レナードに言われて思い返す。

 ここで受け取らなければ、来てくれた全員に悪いことをした事になる。


「レナード…立場が逆になっちまったな」


 なんかスッとした。

 俺はレナードの手を握り、笑顔でそう言うと手を離してくれた。


「世話かけんな。誰も文句のつけようがねえ」


 そしてオーギスはある物を懐から取り出した。

 剣と杖が交差した金の飾りがあるネックレス。


「ユウキ・ブレイク、現時点を持ってゴールド階級への昇格だ。困る人の為にこれからも励め」


「ユウキ・ブレイク、謹んで拝領します」



 ネックレスを受け取り、俺は首からそれを下げて冒険者へと向き直った。

 周りを見渡すと、ここに来て日が浅く知らない人ばかりだ。


 真紅のヴェールを纏うと、瞳を輝かせながら右腕を振り上げた。


「この勝利は皆の物だ、俺の背中を預かってくれてありがとう!」


「「「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!」」」


 物凄い歓声が上がり皆がユウキを称賛した。


 かつてこの世界に魔力を使えず生まれ落ちてきた。

 それに嘆いた事はないが、蔑まれた事もある。


 ここまで来れた。

 それは背にいる友のおかげだと思う。



「あっ待て、まだある」


 オーギスの一言にギルド内がシーンとなった。


 ジャジャラーー…


 ルインは群鳥のアジトへの単独潜入と捕虜の奪還、鵙の単独討伐の貢献による。

 アリサはネームドクラスの大魔導師として、ダルカンダでカーミラを指導した事も加点されている。

 レナードは戦いながら捕虜を守りきった事、ゴブリンに救援を求めたその外交の貢献による。


「お前ら4人がゴールド階級になる」


「「「すげぇ!お前らすげぇ!!」」」


 ギルド内が沸く。

 皆それぞれが思うところがあり涙を流す。


 ようやくここまで来れた、まだ道半ばだが誰かに認められることがこんなに嬉しいとは思わなかった。


「ありがとう、本当にありがとう…」






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