真紅の瞳
涙をそのままにユウキは顔を上げる。
ユウキの周りに渦巻いていた赤い蒸気は、ユウキの中に吸収されていく。
髪は黒髪から父と同じ淡い赤色に変化していく。
そして瞳孔が縦に広がり、涙で濡れた瞳は真紅の輝きを増していく。
「これが《点穴》の本当の世界・・・全てが見える。」
ユウキの周りには蒸気がなくなり、風が渦を巻いている。
「どんなに変わろうとも《ストロング》を使った俺の敵じゃない!」
すると後方からやってきたゴブリンの増援が到着した。
「お前らあいつを殺れ!俺の邪魔など考えずに突っ込め!!」
それを聞いたゴブリン達は一斉にしかけた。
後衛は攻撃魔法の詠唱を始め、前衛はユウキに向かって一気に駆け出した。
ユウキは落ちていた棍棒を拾うと、後衛部隊まで一気に接近した。
見えた者は誰もいない。
魔法陣のブラックスポットを見つけると、ユウキは左手で殴りつけた。
ガシャーン!!と音が響いて魔法陣が砕け、詠唱が中断される。
ユウキは棍棒を裏拳のようにフルスイングする。
パンッ!と乾いた音がなり、ゴブリンの頭が弾け飛んだ。
気にする様子もなく、そのまま棍棒を投げるとガシャーン!と音が鳴り魔法陣ごとゴブリンを粉砕する。
そして前衛だったゴブリンの方に向き直り、地面を殴りつける。
《アーススパイク》
亀裂が生じて地面から直線的に鋭利な土塊が幾重にも発生し、ゴブリン達を飲み込んだ。
ユウキは棍棒を二本拾い、左手の棍棒を肩に乗せて右手を前に突き出し宣言した。
「あとはお前だけだぞ。もういいか?蛙の王様よ。」
薄れ行く意識の中、アリサはユウキを見ていた。
(すごい・・あれがユウキ・・・私も隣に・・)
手を伸ばしたアリサは、そこで意識を手放した。
辺りでは燃えた木々からパチパチッ!パン!と音が響いている。
「舐めるな小僧が!このグライス様を!!俺の3年の準備を壊しやがってぇぇぇ!!
グオォォォオ!!!」
雄叫びをあげると、巨体に似合わず俊敏に動く。
ユウキは先程の構えから右手をだらんと下げた。そしてホブゴブリンを見ていた。
ホブゴブリンは接近すると一気に振り下ろし、地面を抉った。
ユウキはそれをスレスレで回避した。
否、無駄な動きなく回避した。
真紅の瞳には全てが見えていた。
攻撃する前、魔力が攻撃する場所に流れる。それをユウキは見ている。
グァ!ガッ!ガッ!と声を上げて何度も攻撃するが、全て当たらない。
「もういいか?」
そう言うと、ホブゴブリンの横薙ぎを屈んで躱し、両足に左右の棍棒で叩きつけた。
スパンッ!スパンッ!という音とともに巨体が態勢を崩す。棍棒は耐えきれず砕けた。
倒れてきたホブゴブリンの頭を両手で掴むと、顔面に膝を打ち付け、掌底を放った。
ガシャーン!と音が鳴り、ホブゴブリンにかかった《ストロング》が解除され、吹き飛ばされる。
「ガ・・アァ」
苦悶の表情を浮かべ、右手を突き出し詠唱する。
ユウキは詠唱を待たずに接近すると、ホブゴブリンがユウキの脚を掴んだ。
思いっきり地面に叩きつけると、投げ飛ばした。
ユウキは木々を折りながら飛んで、ズザー!と土煙を上げながら止まる。
ホブゴブリンはニヤリと笑った。
しかし、ユウキは何事もなく起き上がり言った。
「くどい。」