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闇組織の終焉

 鵙は身体と精神的なダメージから動かなくなった。彼は誰にも愛されず誰も信用しなくなってしまった。

 そして歪んだ思想を持ち犯罪を芸術と称して多くの者を手に掛けた。


 それはとても許される物ではなく、また目の前の少女も彼の被害者であった。


「お前はボクのもう一つの未来だった。でもそこに手を差し伸べた人がずっと側に居てくれた」


 鵙にも手を差し伸べた人はいたが、届かない所へと行ってしまった。

 そこがルインと鵙を分けた道。


「知らない間に多くの人たちに支えられている。けどお前は何も見ないフリをしていた!仲間になったゴロツキ、ここに居る奴等はお前に着いてきたのに!」


「はははっ、もう食べられないよ」


「…」


 トンッ


 ユウキがルインの肩に手を置いた。

 そして首を横に振ると、優しく抱擁して全てを抱きとめる。


「終わったんだよ」


「あぁっ・・・うん」


 グスッと鼻をなからしてルインはユウキの胸で泣いた。ずっとずっと、いつまでも涙を流し続けた。



「ルイン、決着を付けたな」


 しばらくして冒険者ギルド本部長オーギスが声をかけてきた。

 群鳥達は雲の子を散らすように逃げようとした所を、外周を取り囲むリンの部隊に捕縄された。


 内部に残る群鳥も鵙のドーピング効果が切れてきて、苦痛から身動きが取れなくなり、冒険者によってお縄かかけられる。


「群鳥は壊滅した。後の事は俺達に任せろ」


 俺はその言葉に頷き、グライス、ネフィルとリンを呼び寄せた。


「頼もしかったよ。皆が来てくれて本当に助かった」


「ふん、これ位はどうって事ない」

「ふぉふぉふぉ、未来は繋がったのぅユウキ殿」

「あたしは・・・いつも側にいるよ」


 リンがなにやらモジモジしなから答えている。

 ユウキは以前やらかしたゴブリン式の求婚を思い出し、冷や汗をかく。


「あーうん、周りを見れば過去の誤ちは変えられると確信したよ」


 リンが今の一言に《デスゲイル》を発動させて狂気の瞳で俺を見てきた。


「過去の誤ちを変える?何を間違ったのかな?ユウキ様??」



 おいおいおいおいおい!

 こいつは凄い誤解だ。


 リンの奴、求婚した相手に「過去の誤ちは変えられる」と言われた勘違いしている!


「ちがっゴブリー・・・」


 ズガァァァァン!!


 リンに思いっきり殴られて、遥か後方の丘へと激突する。


「あたしの他にアリサ、ルインと居てまだゴブリーちゃんがいるわけ?」


 勘違いは雪だるまのように大きくなっていく。

 ルインは吹き飛ばされた時に咄嗟に離したから大丈夫。


 大丈夫じゃないのは、あのゴブリン(脳筋♀)のバイオレンスだけだ。


「まて勘違いだ」

「待たない。必要なのは事実を勝ち取る力」

「今その悠然とした言葉が必要ですか!?」


 リンのデスゲイルを使用した膂力は尋常ではない。

 グライスのストロングを使いこなし、その先に辿り着いた固有血技。


 ストロングでは太刀打ちできる訳がない。


 一発一発が鋭く重い。

 格闘戦で俺が押されていた。


 《点穴》で攻撃予測をするが、フェイントを交えて攻撃してくるため読みにくい。

 攻撃予測は相手の魔力が粒子のようにその場を教えてくれるが、手数が多すぎて粒子だらけだ。



「くっそ!ハアァァァァ!!」


 魔力を全開まで解放してその瞳で威嚇する。

 だがデスゲイルも強力な殺気を放ち効果を持たない。


 チリチリ・・・


 ユウキの周りには雷光が瞬き、フェーズを上げ真紅のヴェールは龍の翼と尾を型取り、魔力が底無しに上昇していく。


「ほう、ユウキのやつ」


 グライスがニヤリと口角を上げて舌舐めずりをしていた。

 周りは二人の威圧に押されるようにして、それを見たものは少数であった。



「ゴブリーって誰!あたしは妻に相応しくないの!?」


 俺はリンの繰り出すジャブから右スレートを読み解き、腕を掴むと思いっきり放り投げた。


 そのまま追撃すると空中で踵落としを見舞う。

 ズガァァァァン!


 リンは丘に叩きつけられて、その一部が崩壊していく。


 すぐに飛んできたリンに対して、風を纏って《テールスマッシュ》を叩き込むと、リンは裏拳でそれを弾き飛ばす。


 《ディヴァイン・ガーディアン》

 《完全防御》

 《アンチトルネード》


 それぞれが出来る限りの防御をとり守り出した。

 激突した地点の丘が更地へと帰り、アジトが崩壊していく。


「んなもの!あたしの気持ちは何処に!!」


 リンの渾身の一撃を防御せずに受け取った。

 ビキビキ・・バァァァァァン!!


 真紅のヴェールが崩壊していく。

 鱗状の真紅の魔力は輝きながら散っていく。


 俺は両腕を広げて手足に魔力を集約する。

 そして真紅の瞳が同調するように輝きを増して行く。


 リンは全ての力を込めて俺に対して想いの丈をぶつけてきた。

 故に応えよう。


 それがゴブリンのやり方だ。


 《百花繚乱》


 左で相手のガードを突き崩す。

 続き体制を利用し、回し蹴りを繰り出す。


 魔力の華が咲き誇り、威力を上げて行く。


「これが俺の想いだ!受け取れええええ!!」


 腹部に右手をめり込ませ、一気に魔力を解放した。


 フワッ・・・バァァァァァン!!


 真紅の華が咲き乱れ、一気に散り散りに消し飛んでいく。


 リンは敗北を確信した。

 届いたと思った拳はまだ遠い。


 そう悟って嬉しく、そして肩を並べられない自分に悲しみを覚えた。

 笑顔で涙を流しながら、勢いに任せて吹き飛ばされる。


 トンッ


 だが受け止められた。

 浮遊感はなくなり、背中に腕の温もりを感じる。


 くちゅ


 突然唇に温もりを感じる。

(あぁ、あたしは・・・)


 リンは俺の肩を抱き、熱く抱擁を交わしてくる。


 どのからの時間が過ぎたか分からない。

 徐々に俺の魔力がリンの魔力へと合わさって行く。


 二人の魔力は大きく、そして優しく微風のように流れて辺り一帯を駆け抜けて行く。


「魔力・・・同調?」

「人と獣人が・・・」


 それを見ていた冒険者達が呆気に取られていく。

 魔力同調自体、そうお目にかかれない。


 せいぜい強大な魔力を持つ実力者同士が、本当に愛し合い結婚した時くらいなものだ。


「ふぉふぉふぉ、若いのはいいのぉ」

「まぁ彼奴ならいいがな」

「はて、実子じゃったか?」

「違う。だが俺の集落の奴は皆俺の子だ」


 そんなやり取りをする獣士を他所に、短剣を落として呆然とする者、口をポカンと開けたポニーテールの少女がいた。



「リン、さっきのは」

「いいの、勘違いしてたから」


 今ので全てを悟ったようだった。


 二人は崩落するアジトを他所に、皆のところまで戻って2人並び立った。


 そして取る行動は一つ。

 両手両膝を突いて、頭を地面に擦り付ける。


「「ごめんなさい!!」」


 土下座だ。


「夫婦喧嘩は死人が出ないように頼む」


 オーギスに言われてリンが顔を真っ赤にしていた。

 ルインは俺が落とした大斧シュレッケンを拾うと渡していきた。


「ありがとう。ん?」


 受け取ったシュレッケンを見て俺は眉を潜めた。ルインは何ともない。

 この大斧は悍しい魔力が宿っており、触れる事も憚れる代物であった。


「大丈夫か?」

「ん?あぁ変なもんだね。私のクリミナルナイフにそっくり」


 そう言って持ち上げたナイフからも同じような魔力が宿っていた。


(何なんだこの武器は。武器屋はイビルウェポンって言っていたけど)


「そうか、大丈夫ならいいや。それより良くやったな」


 珍事はあったが、一つ想いを確かにした。


 因みに言うまでもないが、先ほどネフィルの言う未来はユウキの願うものであった。

 それが賊の討伐のよるものと言うのは、些か良くないが結果として人と獣人が手を取り助け合う事になったわけだが。



 その後は冒険者達が群鳥の賊全てを拘束して帰還する。

 ゴブリン達はネームドが部隊を率いて、俺達と共に副首都チェストへと向かった。


 ゴブリン達は連行までは手伝わない。

 賊とは言え、獣人が人族を拘束して歩き回る姿はあまり心情に良くないためだ。




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