誤算
「どうです?私の計画は一部を除いて完璧でした」
一部を除いて、そうルインと言う生き残りが唯一の汚点であった。
「貴方をここで捕らえれば私の計画は完璧に成り得る」
「はんっ!いくら数がいても烏合の衆なら問題ない!」
オーギスの一言に、鵙はそれに一々反応して指を振るった。
キザったらしい奴だった。
「話は時間稼ぎ。私の固有血技、《ヴェノムエリア》は広域散布に時間がいるのでね」
ニヤリと嫌らしい笑みを見せつける。
ボクは未だに魔法は使えないし身体も動かない。でもオーギスとイージスと言う最強の助っ人が来てくれた!
鵙は両手を盛大に広げると、まるで舞台に立つ主演のように振る舞う。
「さぁ、終曲の開演です。《オンリーエリア》!」
《オンリーエリア》、それは鵙にとって好条件を生成する広域散布した毒霧が活性化を始める。
《リーインフォース・ドーピング》
「「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!」」
「何だ!何をした!?」
「分からん。イージス、俺たちならやれる!」
オーギスはそう言って大斧を構えた。
そして一振り。
ズオォォォ!!
重量ある大斧を遠心力と豪腕に任せて切りつけると、前方へとカマイタチが発生する。
《千葉斬・真打》
荒れ狂う嵐は止めどなく賊達を襲い、切り刻まれながら宙を舞い吹き飛ばされる。
その威力はジャックの比ではない。
だがおかしい。
一人、また一人と立ち上がり始める。
まるでゾンビのように立ち上がり、血を吹き出しながら走り始めた。
ギィィン!!
イージスが剣撃を盾で受け止めるが、余りの膂力に力負けして受け流した。
「何だこの力は!」
「ハーッハッハッ!!この技は吸い込んだ相手に痛覚を無くして力のリミットを解除させるのです。
終わりですよ、王都の象徴ゴールド!!」
だがイージスはそれを聞いても動じない。
《完全防御》
溢れ出す魔力がイージスを包み込む。
そのまま賊に素早く斬り込み、相手の脇下を盾で払い除けると魔力を放出した。
すると群鳥の群れの一角に、可視出来るほどの強力な障壁が展開される。
「弾けろ!《エリアブレイク》!!」
ガシャァァァン!!
けたたましい音と共に障壁が弾け飛び、鋭利な凶器となって欠片が降り注ぐ。
「この程度で終わるか!」
ボクはすごいと思った。
攻守に優れた能力。それを使いこなす本人の努力。
これを見ていると、サイレントミストも先があるように感じる。
「数はまだいるぞ?いつまで続く?」
善戦するも数の暴力には部が悪い。徐々に後退を余儀なくされ、鵙から距離を離される。
「まだだぁぁぁぁ!!ルインの前で終われるか!」
オーギスの叫びが木霊する。
ボクは知らない所で見守られていた。こんな事って・・・
何も出来ない自分に涙が溢れる。
キラン
上空で何かが光った。
それに気が付き、その場にいた全員が上空を見上げる。
光の粒はやがて下方へと降りてくる。
《アルババースト》
光の粒は毒霧の届かない上空で一気に収縮すると、激しい炎を撒き散らしながら大爆発を起こす。
《ダービランス》
続きアルババーストの炎を熱風へと変えて、アジト全域を襲う。
カツ、カツ…
誰かが断崖の入江からやってくる。
「ふぉふぉふぉ、アリサ殿には感謝じゃのう。この無詠唱と言うのは良い」
現れたのは小柄な初老のゴブリンであった。
「長!人質も丸焦げになりやす!」
「ふぉー!大丈夫じゃ、制御は完璧。毒も消え失せたわ」
次に脇から筋肉質の男が飛び出し、オーギスに迫った賊を殴り飛ばした。
ズガァァァァン!
飛ばされた賊は対面の崖まで飛び去り、土煙を上げて動かなくなる。
「オーギス、ヒヨってねぇか?」
「はん!貴様に遅れるか!サウスホープで寝てろ」
それを聞いてニヤリと口角を上げる。
今まで敵対者のボスとして幾度もやり合った。それが今肩を並べて一つの目的に向かっている。
構えた2人は、相手をそれだけで威圧する。
そしてグライスは崖の上に向かって叫び出した。
「こいつら全員やっちまって良いなぁ?」
そこから現れたのは、真紅の瞳を輝かせた一人の男。
ユウキ・ブレイクだ。
《龍の囁き》
真紅の魔力風がアジト一帯を駆け巡り、傷付いた村人や冒険者を癒していく。
その最中、アリサとルインの無事を確認して安堵する。紺碧色の魔力を見た時は少し焦ったが、場所を教えてくれた。
ユウキは大斧シュレッケンを地面に突き立てると、柄に両手をつき眼光鋭く宣言した。
「同胞よ力を貸せええぇぇぇ!!」
「「「ガァァァァァァァァァアア!!!」」」
ユウキの掛け声でゴブリンは雄叫びをあげながら、群鳥と戦闘を開始した。
「何故ゴブリンが!?」
流石の鵙もこの事態までは想定出来ていなかった。
獣士の話は聞いていたが、まさかこれほど密接な関係を持つ人間が居るとは思わなかった。
「イージス、あいつは敵に回しちゃならねぇ」
イージスは、いま目の前の光景に圧倒される。
今まで冒険者として獣人とは何度も命のやり取りをした。
それが今、目の前で共闘して人を助けようとしている。
「これが期待すると言う事か?」
まるで自問自答するように呟いた。
「リン、逃げた賊を頼む。お前は中に入れ」
「ふふっ、あたしに任せて!」
ちゅっ
リンは頬に軽く口付けをすると、丘の外側に行き部下に指示を出す。
「聞けぇ!クソ共を逃すな!あたしは中に入るから頼んだぞ!!」
「「ガァァァァァァァァァアアア!!」」
丘の外にはリン遊撃隊3万が待機。丘の全域を囲むように一斉に動き出した。
リンが戦場へ戻ると、冒険者も起き上がりゴブリンと共闘しているのが見えた。
「ゴブリンを殺らせるな!自信の無いものは下がれ!」
指示を飛ばしていた冒険者に死角から短剣を持った群鳥が迫る。
リンは《デスゲイル》を発動させて地を蹴り上げると、一瞬にして冒険者の背後へ回り群鳥を蹴り飛ばした。
ズガァァァァン!!
冒険者は自分の身に危険があったことを悟り、背後を見て絶句してしまった。
そこに現れた小柄なゴブリンが、可愛い顔をして妖艶な声で呟いた。
「リンが相手になるよ。かかっておいで」
だが妖艶さとは裏腹に、底冷えするような魔力が溢れ出していた。
「ネー…ムド!?」
冒険者にとって名を持つ獣人は、危険以外の何者でもなかった。出会ったら装備を捨てても逃げろと言われる程である。
リンはそのまま地面を殴りつけると、巨大な地割れが発生して群鳥を飲み込んでいく。
やや火照った赤みのある顔で、唇をなぞるように恍惚な表情をして言った。
「あついわぁ〜」
オオオオオオオォォ……
リンから放出された魔力に触れた途端、群鳥達は泡を拭いて倒れる。《デスゲイル》の能力で相手に殺意を過大に送り届ける効果がある。
それは自らが生きている事を自覚するほど驚異的な感覚であった。
リンの実戦を初めて見ていた親分グライスは、殺気を肌で感じながら地割れを見て思った。
「リンのやつ、俺を超えてないか?」




