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荒野の鵙(2)

 今から20年ほど前に遡る。

 この年は王都の南ダルカス大森林にて獣人を排除せんと、戦争が示唆されており王都内の裏の治安は荒れる一方であった。


 そんな中で更に追い討ちをかける様に、王都厳戒令が敷かれる。

 王都内の治安を良くして外敵からの不安要素を排除しようと試みたのだ。


 そんな激動の最中、王都の路地裏でボロ切れを羽織り、うずくまる少年の姿があった。


 彼には親がおらず、捨て子としてこれまで盗みなどを犯して生き繋いできた。

 だが厳戒令で自警団だけでなく、冒険者や王都騎士団まで街の警備に駆り出されているため、とても盗みなどが出来る状態では無かった。



 彼は憎んだ。

 戦争をか?自分の生き様をか?


 違う。


 集団から淘汰された者に対して、ゴミの様な扱いをする()()()()()に対してだ。


 憎悪でやがて魔力が溢れ出し、周囲の似た様な者達も彼に近寄ることをしなかった。


「おいお前、来るか?」


 そう言って手を差し出したのは冒険者風の男だった。彼は厳戒令のクエストを受注して王都内を警備していた一人。


 誰もが無視して、まるで存在しないかの様に扱う。


 そんな中で差し出された手は、まるで神が舞い降りたと錯覚するほどであった。



 男について行くと家に案内される。

 彼は見た目とは裏腹に、慣れた手付きで料理を済ませ少年の目の前に配膳した。


 出てきたのは野ウサギ肉と芋のスープ。


 一口飲み込むと、今まで感じたこともないほどの旨味が口いっぱいに広がる。塩辛さが絶妙でいつまで食べても飽きない物だった。


「ありがとう」


 初めて言ったかもしれない言葉。だがそんな温もりも長くは続かなかった。


 1ヶ月ほど経った頃である。


 冒険者は自分のベッドを貸し出してくれて、少年は熟睡していた。

 だが夜分遅く、居間から聞こえてくる怒声や物音で目が醒めた。


 部屋の扉から覗くと、冒険者の男は黒服の男3人に拘束されていた。


「国家転覆容疑だ。貴様は魔族に通じているだろう!」


「パーティを組まない唯の冒険者だ!」


「連れて行け!」


 やがて男達は冒険者を連れて行ってしまった。この時期特有の魔女狩りの様な物であった。



 それから何日経っても冒険者は帰ってこなかった。


 食材庫から材料を取り出して、冒険者がやっていたようにしてみるが上手く行かない。


 仕方がないので食べられるようして食べるが、あの時の様な味はなく悲しみの様な感情が自分を支配して行った。


「何故・・・良い人が!この街は、この世界の人間はクズだ!!」


 ゆっくりと立ち上がり、部屋の片隅に立て掛けてあった彼の剣を背負い外への扉を開いた。


 もうこの家には戻らない。


 外ではダルカス大森林の勝利を祝して、人々が笑顔で酒を酌み交わし広場では踊っていた。

 その影では全く関係ない人々を冤罪で拘束していることなど知りもしない愚民ども。


 ただただ怒りに任せて戦後の混乱に乗じ、門から飛び出した。



 少年は外の世界が初めてだった。だがこの1ヶ月で冒険者から色々なことを学んだ。


 そう外での生き方だ。


 戦後のダルカス大森林に拠点を置き、街道をくる行商を襲った。その背に携えた剣を振るって。


 やがて少数の賊へと成った部隊を使い、資金源を確保して行く。

 金の作り方は考えれば簡単だ。



 まず同業の賊が王都騎士団から逃げている所を、固有血技の毒で手助けして恩を売る。


 次に自分の部隊が村を襲い、女子供を奴隷商に売り捌く。

 同時に手助けした同業に行商を襲わせ、王都の野菜を高騰させる。


 襲った村から盗った野菜を、貴族連中を中心に高価で売り捌く。


 こうして金を得て貴族への繋がりを強くして行き、やがては大きな闇組織へと成り上がって行った。


 この間僅か四年程であった。



 闇の世界に居て始めて、同種の世界がある事を知る。そう、王都直属の闇ギルドの存在だ。


 公式に制裁出来ない箇所に対して、迅速に排除して行く。

 厄介極まりないが、貴族と交渉を進める上で良く出る名前を耳にした。


 ボーロと言う男だ。


 奴は闇ギルドの上部に所属しながらも懐を厚くし、自分の邪魔な貴族や市民を排除していた。


 ギルド本体が動かないのは謎だったが、戦後落ち着きを取り戻しつつもまだ手が回らないのであろう。


 そう考えてボーロに行商として接触を図ったが、実に単純な男だ。

 人の鑑のようなドス黒さを持ち、これは使えると判断した。


 ボーロからの依頼を受け持ち、多額の金銭を横流しする。こうする事で王都内部に入りやすくする。


 着実に地盤を固め、規模も大きくなった組織に拠点を持つため、チェストから北上した丘にいい場所を見つけた。



 暗殺した対象をアースニードルで串刺しにして放置していたため、いつしか鵙と呼ばれるようになっていた。


 そこに資金流用を察知した財務担当がいるので、暗殺してほしいとの依頼が舞い込んだ。


 好機だと思ったさ。


 闇ギルドはプレジャーなる顔も知らぬ男が鎮座している。

 ここでギルドが直接防衛した財務担当を暗殺することで、プレジャーの失墜又はあぶり出す作戦を図る。


 ボーロに連絡して、すぐにプレジャーへ情報を流出させるように伝えた。

「お前が次期プレジャーだ」と伝えた時のあの顔は忘れないさ。


 馬鹿な男だと。



 防衛担当は3人との情報を得て、そのうちの一人を子飼いにしている事も聞いている。


 ただ一つの懸念があるとすれば、武闘派のオーギスという奴がプレジャーから直々に指名されて配備された。


 こいつは邪魔なので、小規模の賊をいくつも使い1日ほど外で遊んでもらう事にした。


 一週間は手出し無用。

 少し気が散ってきたタイミングで、カモフラージュの賊を使い泳がせる。


 オーギスは剥げた頭まで真っ赤にして、街の外に走って行ったさ。


 最高だったね。



 夕暮れになり財務担当が家へと帰る頃、お楽しみの時間が始まる。

 子飼いがもう一人の護衛を殺し、暗殺を実行する手筈になっていた。


 だが自分の手が回らない奴は何をするか分からない。少々アクシデントが生じてしまった。


 奴は遊び始めてしまったんだ。


 ターゲット全ての暗殺を遂行して帰れば良いものを、妻で遊んだせいで時間を取られた。


 予想より早く帰着したオーギスは、異変を察知すると子飼いを殺して残った子供を救助してしまった。



 遺憾を残したくない私は少し焦り、ボーロに対象を確保する様に伝えた。


 そしてすぐに現場へと到着したボーロはオーギスの説得に入ったが、奴も部下の失態に気が滅入っていたのだろう。


 オーギスは素直を引き下がり、その後は君達の良く知る過去になるのさ。




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