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牢からの脱出

「良かった!アリサ何ともない?何かヤラシイことされなかった??」


「ちょっと!ルイン心配そうに言ってヨダレが出てるわよ!」


 ジュル

 いけないいけない。


 今はそう言う時じゃない。

 と言うかそっちの気はないはずだが、はて?


「お取り込み中ごめんね。君の仲間かい?」


 アリサはハッとして男に振り向いた。


「この人はシュラク、行商中に捕われて一緒の牢に居たの。彼が居てくれて本当に助かったわ・・・」


 何かを思い出したのか、アリサは抱き込むように腕を交差させると震えていた。


 一先ず良かったと言えるべきなのかな。しかし何か変な奴。

 ボクの第一印象は無茶苦茶失礼だったけど、今更気にする性格でもない。


「アリサがお世話(?)になりました。じゃ行こうか」


「まって、ここでは魔法が使えないわ。それに苦戦していたの」


 言われて指を上に向けるが、何も起こらなかった。ウォーターボールを作ろうとしたのだが、何故か上手く纏まらないような感じだ。

 そういえばいつの間にか《サイレントミスト》の透明化も解除されている。


「今私達は石を研いで地道に逃げる道をー」


 ボクは牢の鉄格子を両手で持つと、力を入れて左右にこじ開けた。


「ん?何か言った?」


 あまりここまで動じることの無かったシュラクも、流石にこれには面を食らったようだ。


「ハハハ、凄いや。君が信頼するユウキ君はもっと凄いのかな?」


「ボクより強いし頭も回るよ」


 話の流れからアリサへの問いかけだったのだろうが、さっさと脱出したいのでボクが答えた。


「それなら脱出の可能性も上がるね!」


 ボクは闇ギルドで色々な教育されていたんだ。相手の動作から考えや感情を読み解く力。

 見逃すはずがないよ〜。


 お前の舌舐めずりをね。


 でも少し様子見かな。牢にいるのは事実だし、何なんだかよく分からない。



 ボクは各所にある牢の格子を全て力技でこじ開けると、捕われた者達を助け出した。

 守衛などはいないようで、この事態にも誰も来ない。


 これには先程のルインの暴走で全員が外を見に出て行ったのだが、やった本人には気が付くはずはなかった。


 村一つ分だったのか人数が多い。100人程度だろうか、しかし若い男は居なかった。

 それを聞いてみると分かり良い返答が来た。


「闘ったわ。主人も仲の良かった友達も・・・うぅっ」


 アリサがそれを聞いて落ち着かせていた。だが状況はあまり芳しくない。

 来た入り口は天井なので3mほどの高い位置にあり、そのほかの扉はアリサのいた牢の隣の部屋だ。


 そこに向かう途中、一人の女性がヒステリックな声を上げて、行くのを拒み始めた。


「嫌よ!あそこはもう嫌よ!!行くくらいなら私を殺してえぇぇ!!」


 仲の良い村人だろうか、他の人がなんとか落ち着けるが、今度は逆に歩けそうになくなってしまった。



 それを待ち、部屋に入ると納得した。


 すえた鉄の臭い、それに混じる女の匂いがする。

 鎖からは乾き切っていない血が滲み、液体の付着した妙な木棒がいくつも転がっていた。


 ヒステリーを起こした女性の手首を見て納得。最悪の地獄を彼女は経験したようだ。


 しょうがないなぁ、これは確かに一度ココロを殺さないと無理だからねぇ。


 ボクは女性へと近づいて一言伝えた。


「もう大丈夫。ボクが助けに来たから」


 あぁと完全に安堵し切った顔をしたところで、女性の後頭部に手刀を一発。

 そのまま彼女は意識を失った。



 女性を担ぎ上げ、部屋を通ってさらに奥へと進むと、やがて外の常闇が見えてきた。


 手前に門番が一人!

 ボクは短剣を・・・あっ、この人が。


 するとシュラクが石のナイフで喉元を切りつけ、心臓めがけて一刺しした。

 あまりに迅速かつ冷静な手腕に驚いてしまった。


「ボク達待たなくても良かったんじゃないの?」


「臆病な性格でして」



 外に出るとアジトの中段ほどの高さにあり、ろくな食事もない普通の人では、ここまで来られても脱出するのは難儀する。


 試しに魔力を発動させると問題なく行使できた。そのまま視認できないほど薄い《アクアヴェール》を纏い、念のため戦闘態勢に入る。


「アリサ、魔法が使えるから皆を守って」


 すると異変に気がついた賊達が一斉にこちらへと駆けつけてくる。


「何処から出た!?逃げられると思うな!」

「あっち回れ!行ける奴は直接飛んで行け!」


 アリサは左手で《フレイムウォール》を、右手で《クラスターボム》を広範囲に仕掛けるため、魔力の流れを完璧に制御してみせた。


 疾走する賊達にクラスターボムをばら撒き、ここに来る途上全てに感知式のフレイムウォールを設置する。


 ズズスズッ!ズドン!ズドン!ズドン!


 広範囲かつ発動の速さに、遅れをとった賊は吹き飛ばされた。

 しかも二魔法同時行使などとは夢にも思ってない彼らは、回避して油断した所に《フレイムウォール》で足止めを食らう。


「ほう、これはまた中々」


 シュラクが感心したように言うが、今はそれどころではない。


「早く下に逃げて!」


「あぁ、皆この坂から下に逃げて断崖の出口を探すんだ!」


 シュラクの先導により村人達は小走りに逃げていく。これで良い、後はここのボスを探すだけだ。


 ボクはヒステリック村人さんを、知人らしき人にお願いして下へと降り立つ。


「ボスはどこかな?話があるんだけど」


「何だと!ガキが調子に乗るな!」


 憤慨して向かってきた賊に対して、背後を取り首筋にクリミナルナイフを当てる。

 目の前にいた標的が一瞬消えて、首筋に冷たい感触がくれば自ずと答えは出る。


「あっがっ、ハッハッ・・・」


「もう一度、ボスはどこ??」


 男はこのアジトの中央に居る巨漢の賊を指差した。

 黒髭を長く伸ばして、その風貌から如何にもと言った感じである。


「どうも」


 シュ!


 柄の部分で後頭部を強打して意識を失った。

 そこで男がこちらにやってくる。先程の指差しで何かを察したのであろう。


「甘いな。何故殺さん?」


「群鳥の親分?」


「ほう、群鳥の名を知るか。だからどうした?」


 ボクは殺したい衝動を抑えるのに必死だった。

 だがこいつは生け捕りが良い、死なれては聞き出せない事もある。


「ふふっ、良いのか?せっかく助けた村人が死んじまうぞ?」


 バッと振り返ると、バラバラに逃げ惑った村人達が一人、また一人と捕らえられていた。

 これだけ人数がいるとアリサとシュラクでは到底纏めきれない。


「降参だ!ボスと取引をさせてくれ!!」


 シュラクがよく通る声で取引を持ちかけた。


「こいつらと商人資産の一部を譲渡するから助けてくれ!」


 あいつ!もしかしてこれを見込んで、村人を条件に一人で解放される気じゃないか!?


 ボクは自分の事でも手一杯の状況で、ゴミがもう一人増えて腸が煮え繰り返りそうだった。


「ボスは、今ボクと・・・話を、しているんだ!」


「おっと嬢ちゃん、あっちの方が此方に利点があってな。お嬢ちゃんが黙ってな」



 チッ、良いのか悪いのか判断付かないなぁ。

 村人が捕らえられているのも事実だし、チャンスを待つかな。


「好きにして、ボクの話は終わってないから」


 シュラクが近づくと、彼はボスと交渉を始めた。だが若干距離が話の内容までは聞き取れない。


 まぁ、大方どの程度の金銭で譲歩するかの取引だろうが、相手は賊なんだけどねぇ。


 そこが商人の限界か。


 ドサッ


「言わんこっちゃない。資産の在り処を聞き出す拷問地獄が待ってるだけさ」


 シュラクはその場に倒れ込み動かなくなった。




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