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闇組織 群鳥

 扉の先は無機質な床でも牢でもなかった。

 そこには豪華な絨毯があり、書棚があり、執務デスクがあった。


 中には誰もいないようで警戒しつつも、今までなかった異質な空間に少し物色を始めた。


「何ここ?もしかしてボスの部屋?」


 なっにがあるかな〜。

 ボクの見立てでは・・・ここだ!


 そう言って調べ始めたのは書棚。

 数ある本の殆どが図鑑や参考書であった。野草と毒草、調合術、浄化考察。


 ここの主は調合術に秀でた人物なのだろうか?デスクの上にはフラスコや試験管、ろ過装置が並びプクプクと音を立てて液体に泡が立っていた。


 ん〜ハズレかな?うん?


 本をズラして表紙を覗いていた時、奥行きが合っていない本が見つかった。


「なんっ!きもちわる」


 書棚に似つかわしくない曲がりくねった一本の短剣。

 そこから流れ出る威圧する魔力が、《点穴》を有していなくてもハッキリと分かるほどであった。


 “汝は多大なる贖罪を得る覚悟はあるか?”


「なんこれ!短剣がしゃべった?!」


 “そこは重要ではない。その異質な魔力は危険だ、耳を傾けるな”


「でもさぁ、ユウキも似た様な斧持ってたよ?」


 黒龍の残滓が警告を発する。

 ユウキは《点穴》で魔力を詳細に読み取る能力があり、赤龍の何かを受けている。


 しかもそれ以外の要素もありそうだった。


 “彼奴は例外中の例外、触れれば如何様になるとも分からん”


「んー、クロちゃんお願いね」


 “クロ!?あっ馬鹿やめー”


 チャキー


 ボクの身体にドス黒い魔力が絡み付いてくる。すごく気持ち悪いし身体もダルおも〜


 ありゃ?

 クロちゃんの魔力がボクの身体を温めてくれる。凄い気持ちいい様な、短剣の魔力がチクチクする様な変な感じ。


「ぷぷっあっはっはっは!擽ったいよ!」


 “・・・汝の罪は深き物、我の名は《クリミナルナイフ》。常に罪の重さに苛まれるだろう”


 すると先程とは異なり、今度は湧き上がる様な力を感じる。

 だが同時に自分を蝕む様な感覚もあり、あまり多用できた物ではない。


 “無茶をするな。信頼はしていたがな”


「頼りにしてるよ!」



 若干のアクシデントはあったが、短剣を腰に携えて物色を再開した。


 今度はデスクの引き出しを漁る。

 資料や調合に関する記述が目立つが、このアジトの地図などこれと言って特に目ぼしい物は何も見つからない。


 すると鍵のかかった引き出しを見つけた。

 だからボクに鍵は意味ないんだってばー。


 誰に言うでもなく、扉と同じように開錠を試みるが少し精巧かつ複雑に出来ているようであった。


 ウォードロック機構となっており、そこにマッチした鍵でないと開かない仕組み。

 物凄く複雑な幾何学模様を描く鍵のようだ。


 ガチャ


「んふふ、何があるのかな??」


 開けてびっくり、古びた手記のような物が出てきた。かなり時代を感じさせる一品で、これを古くから大事に使っているのは容易に想像がついた。


 ペラペラとページを飛ばし読みするルインの顔に、やがて陰りが見え出した。


 ボクはこいつを許しちゃいけない。



 手記の名は『群鳥』。


 ここのアジトにいる組織は、盗賊団を立ち上げ軌道に乗った所で規模を大きくして、最終的にこの場所にアジトを構え闇組織を再構築。


 そこから『群鳥』と言う名で数々の貴族汚職の手伝いや少数盗賊団の搾取、更には暗殺まで行なっている。


 こんな吐き気のする事をよくも自慢げに記録なんて!


 飛ばして読み進めると、ある王都貴族から請け負った依頼について書かれている所に目が止まった。


 時期は・・・10年と少し前、王都の財務関連を執り行っていた人物の暗殺依頼だった。


 自然と手記を持つ手に力が入る。

 ワナワナと肩が震えている事を自覚していた。



『とある王都貴族から財務担当が、群鳥に依頼するための闇ギルド資金を流用している事を勘づかれた。

 可及的速やかに暗殺依頼を出すとの話があった。


 闇ギルドの堕落計画は実り始め、そろそろ良い頃合いである。同じ穴の狢は必ず何処かにいるため、闇ギルドへは慎重かつ積極的に接触を図ってきた。


 この依頼はそう言った意味では起きるべくして起きたと言って良い。


 しかし帝国領は同業の陣を敷く事叶わず、あの国は手出し無用とした。


 時は来た。

 (もず)は獲物を串刺しにし、その姿を市民は目撃するであろう』



 闇ギルドの堕落。

 このタイミングで暗殺依頼と言うと、ボクの両親が・・・


 自然と魔力が溢れ出ていた。

 感情の起伏で魔力が暴走するなど普通ではまず有り得ない。


「ふざけるな!なにが・・・なにが起きるべくして起きただ!」


 バンッ!と手記を床に放り投げた。


「ボクがどんな想いをして生きたか!ボクが・・・ボクが・・・ぅっぅ」


 ボクは膝から崩れ落ちた。

 ベッドの下に隠れて見た槍を振り下ろす男。その先は抱きついても飽きない大好きなお母さんだった。


 オーギスから貰った唯一の私物である家族の絵があるが故に、生々しくあの日の出来事がフラッシュバックしてくる。


 懐から取り出した絵を見て、そこに数滴の滴がこぼれ落ちる。



 気がつくとルインの身体からは紺碧色へと変化した魔力が吹き出し、暴風となってフラスコや試験管を粉々に砕け散った。


「ァァァアアア!!お前らがああぁぁぁぁ!!!」


 迸る紺碧の魔力が部屋から洞窟内へ。

 洞窟から外へと流れ、アジト一帯を凄まじい憎悪の感情が混じった魔力風を天高く吹き上げた。


「はぁはぁはぁ、ユウキたすけ・・・違うアリサ、そうだ助けないと」


 よろよろとした歩調で手記を拾い上げ、その部屋を後にする。


 この部屋にいたらボクはもっとおかしくなる。

 今にもユウキに寄りかかり、思いっきり抱きしめて欲しかった。


 ボクはまだこんなにも弱いんだなぁ。



 魔力風を感じ取った者達は恐怖に駆られていた。

 何かよく分からないが、喉首を締め付けられるような錯覚を起こした。


 それ故に彼等は異常事態にも関わらず、直ぐに動くことができなかった。


 もっとしっかりしないと。アリサを助け出して話はそれからだ。


 パンッと頬を叩いて自分を叱咤する。


「もう大丈夫!あとはこの区画の上かなぁ・・・ん?」


 横目に見て人一人が入れそうな小さい穴が開いていた。

 通風口かよく分からないが、ちょっと入ってみると意外に奥まで行っているので、そのまま進むとやがて明かりが見えてきた。


 それは下へと続き、滑り台のように傾斜していたから、ルインの取った行動は単純だった。


 しかしそれは自分を守る為の防衛反応だったのかもしれない。

 そうしなければ彼女は壊れてしまいそうなほどに追い込まれていた。


 こっれっは〜、それっ!

 シャーーーーガシャン!!ドサッ


「って〜失敗失敗」



 落ちた先で見た物は、よく知る人物の顔だった。


「ルイン?ルイン?!」


「アリサー!見つけた!!」


 二人は抱き合って再開を喜びあった。

 牢の中と言うことはすっかり忘れて。


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