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ゴブリン達

 時間を僅かに遡る。


 僕はユウキに言われてイーストホープ森林の北側へと向かっていた。

 そう、製鉄や鍛治技術は常在戦場が基本の獣人ゴブリン達にとっては、生きる為に必要な技術で人よりも発展しているのを知っていたからだ。


 人に作れないものなら、それより優れた者達の力を借りれば良い。それは獣士達と結束したユウキならではの考えだった。


 《光の翼》をはためかせて来た時よりも高速で移動していく。

 学園長の指輪のおかげもあり、無駄な消費が抑えられているので、今までの比ではないほど燃費に優れていた。


「ユウキも凄いし僕自身の鍛錬もまだまだだなぁ」


 そう呟きながら、向かってくるチーターの魔物を抜刀術で去り際に一閃する。


 キラキラと輝く残滓を残しながらチーターはその身体を地につけて動かなくなった。


「ごめんね、でも生きる為に・・・」



 イーストホープ渓谷に差し掛かり、その断崖を一飛びで向かい側へとフワッと降り立ち、再び目標の地へと急ぐ。


 急げ、急げ!

 僕の力はこの断崖を作った人と同じなんだ!


 4日目の夜を迎えた頃、森林へとたどり着いた。

 来た時よりもだいぶ早い時間で着いた事を自負しても良いほどである。


 僕はこんなに時間をかけたのか。2日でこれると思っていたのに。


 でもまだ伸びるって言う事だしね。


 レナードは反省するが、昔のように卑屈にはならない。それもユウキ達に出会って色々なことを経験して教えてもらったからだ。


 だから親友に任せられたこの仕事は絶対だ。



 月明かりが照らされる森林へと足を踏み入れた。しかし平野部と異なり森は草木に遮られて常闇へと変わった世界。


 ユウキ達は森林豊かな地で育ったが、夜の森は想像以上に危険で何が起こるか分からないから基本は入らない。


 どんなに力を付けようが恐怖心というものは人の根底にある。故にブルッといた物が背筋を這い回る。



 ま、まぁ、故郷のドールガルス城砦は平野部に築かれた防衛要塞だしね。こんな経験ない・・・かな。


 怖いけど今の僕には力がある。

 全神経を周囲の警戒に使うんだ!


 自分に言い聞かせるようにして森林内部へと足を運ぶ。

 ハッキリ言って前回来たときはゴブリン達に道案内して貰ったから、集落までの道は覚えていない。

 しかも覚えようと思っても知らぬ土地で覚えられるような物ではなかった。



 暫く進むとガサッと言う音が聞こえて、そちらに魔力を集中させる。

 光が輝き、辺り一面が照らされると一気に刀を振り払った。


 キィィィィン!ズズンー!


 刀から光の粒子が溢れ出し、直線状に木が切り倒される。


 失態。

 切った先には何もおらず、風に揺れた草が音を立てただけであった。


(僕は何をやっているんだ!)


 悪態をついて納刀すると、先へと進む。

 だが先程の高ぶりが未だ冷めやらぬ中、道無き道を進むのは容易ではなかった。


 ヒュッ!


 頬を何かが伝う。

 不審に思って顔に手を当てると、ヌメッた何かが指につく感触を受ける。


 血?


 周囲を一気に警戒する。

 僅かに感じる気配を頼りに、何が攻撃して来たのかを感じ取る。


 視界は使えない。今ある感覚は聴覚と嗅覚と触覚、そして第六感だけだ。


 ガサッガサッ!

 前方に音を感じるが違う。風だ。


 側面!

 飛翔して来た何かを《ディヴァインガーディアン》で弾き飛ばす。


 続く横長の一閃を放った直後、背丈の低い人型であることに気がついた。


 相手の頬を掠め、寸止め状態で停止させる。


「ゴブリンかい?」


「殺せ」


 以前来た時に出会っていないゴブリンだった。

 僕は刀を引いて戦意がない事をアピールした。


「ごめんね。夜の森が怖くて手違った。君達に用事があって来たんだ」


 それに眉を潜めて僕の事をよく観察するように見てきた。彼らは前回ボブ達の言いつけを無視してユウキ達を襲撃してしまった。


 それを加味して相手の出方を伺っていたのであろう。


「前に来た人族の一人だけど、族長ネフィルさんに会いたいんだけど」



 ネフィルの名前を聞いて警戒感を解くと、ゴブリンは集落へと案内してくれた。


「レナード殿でしたかな?してどうされました?」


 僕は簡潔に今困っている製鉄と鍛治について相談した。結果は二つ返事で帰ってきて、チェストまで職人を寄越してくれる事になった。


 もちろん命の安全は僕が保証する事を条件にだが。


「暫く準備に時間がかかるので、村でゆっくりして行きなさい。グライス殿も暫くして来るそうでな」


「本当ですか?!彼と楽しい一夜を共にしたので、嬉しいです」


 あの濃厚な一夜はきっと死ぬまで忘れないだろう。獣士と人が分け隔てなく笑い合い、どつき合う光景。

 最高に楽しかった。



 それから村で2、3日経った頃だろうか、急に首飾りから念話が届いたがイマイチ判別がつかない。


『・・・ド、きこ・・リサがー』


 ???


『ごめんね、全然念話が届かない。もう一度お願い』


 しかしこれに対して返答は無かった。自分に対しての念話だったのかも分からないし、距離が遠いとどうやら届かないようだ。



 更に時間が過ぎて森で鍛錬を積んでいた時だった。

 今度はユウキから念話か届き、今度はちゃんと聞き取れた。


『レナード聞こえるか?頼む、聞こえていたら動いて欲しい。

 イーストホープ森林のゴブリン達の力を借りたい。アリサの救出が恐らく今のままじゃ厳しい』


 救出?やはり何かあったみたいだった。


『グライスも居るから協力を仰ぐように言うね。戻るのは多少時間がいるけど出来る限り早く行くね』


 返答は届いたか分からない。

 しかしそれは重要ではない。今必要なのは支度をすぐに済ませて協力を仰ぐ事である。



 くっそ!何でこのタイミングで!

 アリサ、無事でいてね・・・


 素早く集落へと戻り、族長の建屋に向かうと事情を説明して一緒に来てもらうようにお願いした。




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