荒野の丘
「こっちのルートは全然だなぁ~。約束に遅れちゃう」
ユウキと別行動を取り始めたボク達は、アリサと馬車の素材で使う木を探してチェスト南森林を探索していた。
最初は一緒に行動していたけれども、日が経つに連れて飽きてきたから、別行動を取ってその日の収穫物を競うようになっていたんだ。
「ここの広場が待ち合わせに丁度いいわね」
「そだね~、じゃここで夕暮れ前までに戻って成果発表かな?!」
「そうね!」
こうして採取クエスト素材や冒険に役立ちそうな薬草などを採って、目的の木も探していたんだ。
それで木は2、3日ですぐ見つかっちゃってね、家具師のビッグさんに見てもらったから絶対大丈夫だった。
嬉しさ半分、楽しさ半分。あれ?楽しさ全部かな??
まぁ、アリサと一緒に遊ぶのは本当に楽しかったんだ。
でもね、今じゃ間違いだったって言い切れる。
油断しすぎていたボク自身を殴り飛ばしてやりたい。
いつまで待っても約束の場所にアリサが来なかったんだ。そこでね、まだ温もりの残る石を・・・見つけたんだよ。
正直に言って絶望した。
ユウキには連絡が取れたけど、何か大変そうだったな~。
本当ならこんな惨事の報告じゃなくて色んなこと話したかった。
ギリッ
アリサはきっと近くにいるから。
だから絶対大丈夫。
彼とも約束したし何より大事な・・・大事な友達を絶対救い出す!
学園長から貰った指輪は身体能力の飛躍的な向上だった。速度だけで言えば魔力解放したユウキを上回る程である。
その脚力を持ってして荒野を縦横無尽に全速力で走り抜けていた。
途中チーターらしき魔物を抜いて行ったが、それすらもチーターは気がつかない。
何度目の夜が訪れただろうか?何の痕跡も得られず只々時間だけが過ぎて行った。
焦りがジワリジワリと襲い、背中に流れる汗がタラリと伝うのが分かる。
そんな中で自分に言い聞かせた。
「大丈夫!アリサは無事!」
でないとボクはユウキがいても、きっと立ち上がれない。
あの常闇から救い上げてくれたのはアリサとレナードも一緒だった。だから見つけるまでは絶対に挫けない!
少し休憩した後、再度荒野を駆け抜けた。
たった一粒のヒントでもいい。この広大な荒野の中にある微かな光明を見つける!
そこでふと周囲に違和感を覚えた。
「ん?魔物が居ない??」
ボクは今まで何を見ていたんだ。
魔物の数の減少は、とても大食感の魔物が居た場合や周囲に群れを成す何かが居るという事だ。
この荒野に生息する魔物は、その環境ゆえに大食感が居ない。
例え居たとしても鹿のフーズディアがそれを補ってくれため、フーズディアの生息域に集中する。
怪しいな~これはビンゴかなっ?
賊がいれば周囲の魔物は駆逐されたりする。ボクはそれを嫌という程この目で見てきた。
《サイレントミスト》
固有血技サイレントミストにより魔力隠蔽や屈折による透明化を図る。隠密系では右に出る者は少ないだろう。
暫く周囲の魔物の位置を特定して行った。
すると徐々に円が縮まるようになり捜索範囲を絞り込む事に成功する。
「さっすがボク!これでお縄の時間ももうすぐだね~」
小声で自慢しつつも、遠くに見えた丘が怪しいと踏んで高速移動を開始した。
もう決定だね。
鼻歌でも歌いたい気分だけど、アリサはどっこっかな~。
丘の上にあがると一目瞭然!
ありゃ?火の光のようなものはあるけど、数多すぎ・・・
そこから見えた物は窪地になった賊の拠点だった。
丘をくり抜いた要塞型の拠点で、出入口が多く本人達でないと何が何処にあるか解りもしない。
ここのボスはだいぶ慎重派みたいだね。虱潰しに見ていくしかないかー
「危ないから念話も使えないし・・・単独潜入開始!」
賊の警備は手薄そのものだった。
要塞によっぽどの自信があるのか、はたまたリーダーの戦闘力や統率力が高いのか。
(まずは下から見てみよう)
窪地の下段は逃走が困難になるため、捕虜がいるとしたらそこが怪しかった。
警備にあたる賊の真横を気にせず素通りしていく。
「くぁ~。こんな警備なんていらねぇと思うんだけどなぁ」
「ほんとにねぇ~」
「あっ?今なんか言ったか?」
ぷくくっ。
失態失態、思わず同意しちゃったよ。
でもあいつらの武装を見る限り、末端の兵士まで装備が行き届いているなぁ。
やっぱ巣穴の主はかなりの大物かもしれない。
賊と一括りにいっても、企業と同じでその大きさは異なる。
行商人を街道などで襲ったりする少数のものから、闇ギルドと闘いながら裏を仕切ろうとする賊。
森の中の木ではないが荒野の一角という見つけにくい基地を、この規模で作り上げいている点からも相当なやり手と考えられた。
一つ目に入った穴はすぐに行き止まりになっていたが、木材を使った椅子やテーブルなどがあった。
奥では何かを調理する音が聞こえる事からも、恐らく食堂であると思われる。
(はっずれ~次!)
こうして横穴を次々と調査していくと、中腹辺りにある横穴でそれまでにはない扉がある場所にたどり着いた。
鋼鉄製の重厚な扉には鍵がかかっており、開錠するには多少骨が折れそうであった。
これだけ厳重なら捕虜が捉えられている可能性が高い。
「まぁ鍵はボクに関係ないけどね~」
鍵穴を指で押さえ込み、《サイレントミスト》で鍵穴内部に霧を発生させて構造を解いてく。
ふんふん、いい感じだにゃー。もうちょい・・・うりゃ!
ぷしゅ!という水が噴出される音と同時に、カシャっという鍵の開く音が響きわたった。
扉が厳重だった分、警備がいないので簡単に行うことができた。
中に誰かいる?
その時はサッと逃げればいいでしょ!
ゆっくりと扉を開けようとするが、これまた重い。
ボクじゃなきゃこんなの開けられないでしょ~。
あっ、皆もできるかっ。
そう思いつつギギギギ・・・と金属音をたてながら、ゆっくりと扉はその口を開いた。




