ゴブリン戦(2)
ホブゴブリンは周りの惨状に目を疑った。
ほんの少し前まで目の前にあったのは、戦意のない少年と自分が持つ少女だった。
だが少女を落としたことを皮切りに、事態は急変した。
無詠唱も同時魔法展開も見た事も聞いた事もない。
もう一つ予想外だったのが、少年である。
渾身の一撃が相手にダメージがないと悟り、戦意を喪失させていた。
しかし覚悟を決めると、一流の戦士となり同族を武器も持たずに蹂躙していった。
ゆえにホブゴブリンは、謝罪した。
「ガガガ、すまなかった。
ガキだと思っていたがなかなか、屈強な人族の戦士達ではないか!」
ユウキは気がついた。
過酷な訓練を積んだ部隊と戦っていることに。
後方に更にゴブリンの反応があった。
「アリサ!増援だ!来る前にあいつを倒そう!」
アリサは「ええ!」と頷き《クラスターボム》を発動しようとした。しかし、展開された魔法陣は消滅した。
同時にアリサは地に膝を付いた。
「あれ?なんか変・・力が入らない・・。」
ホブゴブリンはそれを見て笑いながら言った。
「ガガガ、あれだけ派手にやれば魔力も尽きよう。人族の戦士よ、よくぞここまで闘った。
・・だが、ここまでだ。」
そう言うと言の葉を述べ始めた。詠唱だ。
「我が身の強靭な肉体を刃と化せ。求める者はその身を守らんとす。《ストロング!》」
ホブゴブリンの魔力が爆発的に上昇した。
自己強化魔法で強靭な力と肉体を得る。
デメリットとして魔力を底なしに食うが、これも短時間や総魔力量が多ければ問題ではない。
ユウキには詳細に見えてしまった。
とても自分では敵わないと思わせる強大な魔力が。
「なんだ・・このバケモノがっ!」
ホブゴブリンはユウキ達に近づくと、棍棒を振り上げて言った。
「時間がない。すぐに終わる。」
ホブゴブリンは渾身の力で振り下ろした。
ドォォォン!!と言う音ともに地面にクレーターが出来て破片が四散する。
咄嗟にアリサを庇ったが、バラバラに吹き飛ばされた。
「アリサ・・」
そしてホブゴブリンはアリサを掴むと、横に放り投げた。
アリサは木にドン!とぶつかり、ドサッと音が聞こえた。
「がはっ・・ぅぅ・・・」
(また繰り返すのか?)
何処からか声が聞こえた気がした。
(お前は、お前だけは諦めるな。もう二度と失っちゃいけない。)
違う、記憶の中の自分だ。
そして思い出した。
あの日、車に撥ねられる少年を助けた。しかし悲しみの中に囚われてしまった少年を。
悔しくて伝えたくて、でも伝わらなくて・・
ユウキは俯き立ち上がった。
「う・ぐっ・・・ひっく」
それを見たホブゴブリンはニヤリと笑いながら言った。
「ガガガ、やはりガキはガキか?今更命乞いか?」
俯く少年は歯を食いしばり涙を流し続けた。
すると静かに、ても確実にそれは起きた。
俯くユウキの周りには赤い蒸気が発生していた。
「俺は・・・もう、どちらも失わない!!」