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指標とは一体?

 ギルドのホールへと戻ってから受付嬢はチェスト周辺の情勢を説明してくれた。


「荒野方面は高難易度でシルバーベア以上の6人パーティが推奨されます。

 森林方面はラピッドなどが主体で、山は危険区域のため立ち入りができません」


 火山活動が活発なため危険である事、加えて魔物も非常に強力だと言う事だ。


 採掘などは申請された人のみが入れる様になっている。


「承知しました」

 

 説明を聞くとクエストボードへと向かい、スコーピオン関連の依頼があったので依頼票を千切り取り、カウンターへ差し出した。


 それを笑顔で受け取った受付嬢の表情が一瞬にして凍り付く。

 なんかデジャブを感じるんだが。


 アリサとルインに至っては両手を挙げてお手上げ状態だ。


「あのースコーピオン討伐は助かるのですか、森の採取と同時という事は・・・」


「はい、一人で行ってきます」


 ガタッ!


 受付嬢はその場にひっくり返ってしまった。


 音を聞きたて周囲では何事かとカウンターに視線が集まりだした。


 しかし、また馬鹿な奴が馬鹿な事をしただけだと笑う者たちが大半、受付嬢を困らせて喜ぶ奴らが若干。


「先程の説明を聞いてなかったのですか?」


「あーこの人は大丈夫だから気にしないで下さい」


 アリサの助言も助言になっていない。

 どうするか思案していると、支部長がやってきて受領を許可を出してくれた。


「やらせてみろ。素材が必要だと言っていたしな」


「ありがとうございます」


 イージス支部長へ謝辞を述べて早速遠出の準備に取り掛かるため、市場へと足を伸ばしに向かった。



 残された受付嬢と支部長はそれをただ見守っていた。


「良かったのでしょうか?」


「先程来られたオーギス殿から、奴が来たら便宜を図るように言われいてる」


 1ヶ月ほど続いているチェストでの失踪事件は、横ばいだが減少はしていない。

 王都から直接冒険者ギルドに依頼され、調査任務にギルド本部長オーギスが出向いてきていた。



 不思議な話である。 


 王やギルド本部長が彼に何かを期待しているのか。そして確認したギルド証には特務でブロンズ通過ときたものだ。


 自分も何かを彼に期待しているのだろうか?獣人を除いてもこの平和な世に何を為すのだ?


 それが気になっている事に本人も気が付かなかった。


「支部長もきちんとギルド証を付けてくださいね?」


 受付嬢にニコリと言われ、彼は頭を掻きながら首飾りを装着した。


「うん、やっぱり支部長はこうでないと!」

「参ったね。あまり見せたくないんだがな」


 そこには剣と杖を交差させた金色の首飾りがかけられていた。


「数人しかいないですからね。ゴールド級は」



 俺たちは買い出しを終えて宿屋に戻っていた。


 荒野は広いので、恐らくスコーピオンに出会うのも数日がかりになるかもしれない。


「二人は夜営をしないで帰ってきてくれ。夜の森がどう変化するか分からない」


「りょうかい~」


「分かったわ。そっちも気をつけてね」


 それに手を挙げて応えながら準備を進める。


 主に食料や水などだが、必要に応じて使う為に小型ナイフや調理器具も入れておく。


 サソリって食えるのか?


 そんな珍妙な事を考えながら、その日は宿屋で十分な休息を取った。




 翌朝、日が昇り始める頃にいつものように目が醒めるが・・・


「あちぃ、不快な朝だな」


 真夏で南に森林が広がる為、湿気を帯びた嫌らしい気候である。

 隣室で寝ている二人を起こさないように、フード付きのローブを羽織って準備運動を始めた。


 砂漠ほどではないが荒野の赤外線はキツいものがあり、肌を露出すると火傷の危険がある。 


「ん~、レナードの荷物はこのままで良いか。あとで二人に取りに来るように言うかな」



 荷物はポーチのみと言う身軽な格好をして、来た時と同じ西側の通用門を通って外に出た。


 大地は見渡す限り地肌が露出しており、緑色が見当たらない。


 何も無いとはこの事を言うのだろう。


 一先ず警戒をしつつも適当に進み、この荒野の生態系や水源を確認する事にした。


 やがて高速で走る魔物の姿が目に入り、それを観察しているとどうやら鹿の様なものを追いかけているようだった。


 複雑な軌道を描きながら逃げる鹿が、やがて追いつかれて喉元を喰らいつかれて捕らえらてしまった。 


 追っていたのはキングゲパール、前世で言うチーターに近い魔物である。


「あの速度は厄介だな。本当にベア級6人で行けるのか?」


 思いの外強そうな魔物が平然と蔓延るこの荒野に驚いてしまった。


 まぁ、俺には特に問題はないかな。


「食料は豊富そうだな」


 そんな見当違いの独り言が、何もない荒野に木霊するのであった。



 荒野の生活もだいぶ慣れたもので既に一週間近くが経過していた。


 最初に見た鹿はフーズディアという名で、その名の通り荒野の中でもピラミッドの底辺付近にいる魔物だった。


 可哀想なことに群れ単位で襲われている所を目撃したこともあるが、繁殖力が凄まじいので生態系に問題はない。


 俺も彼らに助けて貰ったことは非常に多い。

 だがしかし見つからない。


 そう、問題のスコーピオンだ!


 依頼主は一体何を見て討伐依頼を出したのか、小一時間問い詰めたい気持ちで一杯だった。



 そんな衝動に駆られ、精神的な疲労感から一度チェストに帰ろうかな?とか思い始めた頃だった。


 やけにサラサラとした大地に足を踏み入れた瞬間、浮遊感に襲われた。


 直後、日の光が徐々に遠くなっていった。


 ザッパーン!!


「ガバァ!ぷぁ・・・」


 落ちた先は水の中であった。

 しかも流されている!


 焦りが生じる中、落ちた穴の陽光は遠くなり暗闇の世界へと誘われていく。


 なんとか陸へと上がろうとするも、着衣のままであるため浮き上がることとままならない。


 呼吸をするのも精一杯の中、音も消え流される感覚だけが広がっていく。


 ・・・意識はやがて遠くなり、久しく感じていなかった恐怖が己を支配していった。


「あぷぁ!しぬ・・・ブッ!」




 どれ位の時間が過ぎただろうか。

 自分は生きているかもわからない、目を開けても常闇。


 魔力を流して僅かな火を灯した。


「ファイア・・・ボール」


 少しずつ意識が覚醒していく中、ここが何なのか分かってきた。

 地下水脈のようで、俺は削られて薄くなった地盤から落ちて流されたようだ。


 どうにか河の曲り角で陸地へと放り出されたが、身体のあちこちが痛む。


 だがあまり芳しくない状況の中で、状況は更に悪くなる。


 カチカチカチカチカチ・・・


「でけぇな・・・これがスコーピオンか」


 暗闇から現れたそれは、3mは超える高さの巨躯と5m以上はある尻尾を前に掲げていた。


 そして俺は思ったことを口走っていた。


「絶対ベア級6人とか嘘だって」




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