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評議申請

「基本は鉄の精錬技術で可能だが、詳細な成分配分が不明じゃった。

 台車に使う素材として、保護材にスコーピオンの表皮、しなりの良い木材が不足しておる」


 大凡の見当はついていたが、もう一つ気になる点があった。


 それは荷馬車と車軸を繋ぐ箇所にある。


 現状は酷い物だと荷馬車から出る木製の輪に、回転する車軸を通しているだけで摩耗を前提とした作りとなっている。


 俺はソッともう一枚の紙をビッグに見せた。


「これを使う。小さな鉄球を大量に入れて中心に輪を付けてくれ」


 全て鉄製で表面粗さは極力円滑。出来るだけ鏡面になる位が望ましいと告げた。

 それを食い入るように見ていたビッグは、あまり優れない顔をしていた。


「素晴らしい物じゃ。じゃがこれ程の鍛冶屋がおるかは別の話じゃ」


「設備は?必要な人材は準備しようと思う」


 それにビッグは目を見開いた。


 設備にはまったく持って問題はない。

 だがこの街の精錬技術は王都領内で最も優れていたのだ。

 そして古株のビッグも知らない有能な人材が果たしているのか疑念があった。


「レナード、最速でイーストホープ北部森林に向かってくれないか?」


 それにレナードはウィンクして応えると、足早に飛び出していった。



「なるほどね。でも街に入れるかしら?」

「俺たちは冒険者ギルドに行ってコイツを使う」


 そう言って取り出したのは冒険者ギルド長から借用した銀コインだった。


「うへぇ、それって関所で使うんじゃ無いの?」

「こう言う使い方もあるさ」


 そのやり取りを見ていたビッグが突然フッと笑い出した。

 昔に忘れた何かを思い出すように、遠い目をしていたが実に良い笑顔であった。


「お主を見ていると彼奴を思い出すのぅ。素材は頼んだぞ」



 こうして馬車の改造計画の相談を終えた3人は、ビッグに準備をお願いして冒険者ギルドへと向かった。


 俺は道中に水晶を取り出して念話を始めた。


『獣士関連について申請があります』


 ギルドに到着すると、その光景に圧倒されてしまった。流石と言うべきか支部としては大きい方なのであろう。


 冒険者も様々な者がおり、斧や剣、鎧や杖など熟練から新参まで多くの人達が行き交っていた。


 一先ずギルドカウンターへ向かうと、受付嬢からお決まりのセリフが飛んでくると身構えた。


 だが今回は違った。


「副首都支部へようこそ!近況や魔物情報でしょうか?」


 何故分かったし。

 いや待て?ダルカンダ支部で言われて、冒険者証の腕輪を着けていた。


「どうされましか?」


 ボケッとしていたら催促されてしまった。


「これを。ギルド支部長に相談があります」


 キラッと光るコインを見て顔面蒼白になり、急に態度がぎこちなくなった。


「あわ、向こうに、ちがっ、冒険者・・・そう!ギルド証を確認させてください!」


 効果は抜群だ!

 と言うか少し申し訳ない。


「慌てなくて大丈夫だよ〜。お姉さんを取って食べないからね!」


「ルイン、余計なことを言うな。連れが申し訳ありません」


 素直に謝るとギルド証を提示して落ち着かせた。


 ややポーッとしている気がするが気のせいか?いや、アリサの顔がちょっと怖い。


 俺が何をしたと言うのだ。

 そんな疑念を吹き飛ばすように受付嬢から指示があった。


「確認が終わりました。暫くあちらの席でお待ち下さい」



 3人は席についてこれからの事を話した。

 素材集めでは分担した方が効率が良いので、木材の採取に女性2名で担当してもらう。


「俺はスコーピオンの討伐に行くけど、クエストも受領していく」


「それなら私達も採取系のクエストを受けて行くわ」


 これならギルドの実績も貯めて一石二鳥になる。

 アリサは何も言わなくても分かってくれるから、本当に助かる相棒だ。


「一人で大丈夫なの?むしろボクかアリサがそっちに行った方が良くない?」


「そうすると不公平だろ?」


 ニヤリとすると、2人とも顔を赤めてそっぽ向いてしまった。



 そこで受付嬢がやって来て奥へと案内してくれた。


 支部長室と書かれたプレートがかかる部屋の前に来ると、受付嬢はそこでノックをして中に入った。


「入りたまえ」


 中から声が聞こえて入ると、王都の商業ギルドを彷彿とさせる部屋に驚いた。


 綺麗な絨毯で靴の上からでもその柔らかさが分かるほどだ。壁には綺麗な港町を描いた絵が掛けられており、美意識も高い。


「ユウキ君、私がこの支部を預かるイージスだ。一先ず座ってお茶でもどうかな?」



 イージス支部長は40代の中堅男性。所々傷が残り彼が過酷な任務をこなした歴史を物語っている。


 ダルカンダ支部長を経験した身としては、またあのような愚行を心配したがそうは成らなかった。


「御配慮ありがとうございます。少々厄介事を相談したかった物で」


 椅子に座りながら先程の家具師ビッグとのやり取りを説明した。


「人材について数名街に入れたいのですが、その人達に問題があります」


 話を聞いたイージスからは二つ返事が返ってきた。


「オーギス本部長から話は聞いているよ。領内は王の勅命で獣士に関する取り決めも既に発布されている」


 つまり、ユウキが獣士を入れたいと言えば問題ない。

 だが、本来は王がユウキの推薦を受けて許可を与える事になっている。


 ここをすっ飛ばせるかが問題なのだが、まず無理だ。条約を交わして直ぐに内容の省略や簡素化を行えば示しが付かない。


「イージス支部長、許可が降りたのでチェスト議会に依頼をしていただけませんか?」


 そう言って小型の水晶を見せると、イージスは納得したように頷いた。


「食えないな。何故君の様な若手が使者として任命されたのか理解したよ」


 水晶はノイント学園長から渡された連絡用だ。これを使って王の許可を依頼していたのだ。


「食えないのはお互い様ですよ。貴方も獣士をその目で見たいとお考えの一人だ」


「この傷はオークに付けられたものだ。そんな戦場に居た俺には、王が日和ったかと疑心でね」


 2人はクツクツと笑い合った。

 それを見ていた受付嬢とルイン、アリサは若干引いていた。



 最後にイージスは敬礼をして、コインに対する最大限の礼を示した。


「ユウキ・ブレイク殿、此度の依頼において冒険者ギルド・支部長イージスが承った」


 俺はそれに対して同じく礼を示した。


「友の安全は保証します。彼等をどうか受け入れてください」


 先ほどとは打って変わって、あどけなさが残る優しい青年の顔をしていた。


 レナードもきっと上手くやってくれると信じて、馬車の素材集めに奔走するのであった。




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