ダルカンダを背に
ユウキ、アリサ、ルイン、レナードの4人は冒険者ギルドの待合でお茶を飲んでいた。
「レナードは何か先が見えそうか?」
俺の問いかけにレナードはニヤリとして答えた。
「この固有血技は掘り下げるほど底が見えないよ。刀技自体もスキルアップしていると思うね」
その回答にユウキも俺も思わず笑みをこぼした。
「流石だな、今度手合わせ願いたね!」
男2人のそんな熱い会話に対し、女性陣は南の丘にある花が綺麗だったとか、服がいい物見つかっただの話している。
そこに大袋を持った3人のパーティがギルド内に入ってきた。
大斧を背に担ぎ、手斧を2本腰に携えた歴戦の勇姿を思わせる男。
魔導師だが服があちこち傷み、前線で魔法を使っているような気配がする女。
存在するだけで癒される純白のローブを着た女。
ガヤガヤとした喧騒は鳴りを潜め、皆が一様に来訪者を凝視した。
3人は俺達に一瞥もくれる事はなく、カウンターへと向かい大袋を置くと受付嬢ナーシャに確認を依頼した。
「例の物だ。確認を頼む」
ナーシャは素材の傷など至る所に気を付けて、ベアの粗皮やクロスウルフの牙を確認していく。
そして依頼受託者のギルド証から記録映像を確認すると、一呼吸おいてバンッと印を押した。
そしてニコリと笑顔を向けると告げた。
「シルバーベア級への昇格、おめでとうございます。
ジャックさん、カーミラさん、ナタリーさん」
グッと握りこぶりを浮かべる3人。そして一気に天高く右手を挙げた。
「「「うおぉぉぉぉおおお!!」」」
ギルド内に割れんばかりの歓声が上がった。
「ジャックさんすげぇ!!この支部からベアは初めてじゃないか?!」
「カーミラさんおめでとう!どうやって戦ってるの??」
「いやいや、ナタリーさんの癒しがないと厳しいだろう」
ギルド内に居た冒険者より、様々な方向から祝福の声や質問が相次いだ。
「皆ありがとう。だがこの昇格はとある4人による所が大きい」
そして俺達を一瞥すると、3人は姿勢を正して深々とお辞儀をした。
「我らが師であり戦友のユウキ、アリサ、レナード、ルイン、世話になった!」
パチパチパチパチ・・・
それに歓声の渦は拍手へと変わった。
「よしてよジャック。ベアを勝ち取ったのは君達だ。
皆を信じていたから、ここでお茶を飲んで待ってたんだよ?」
「えぇ、本当に良くやったわ」
「ボクは何もしてないけどねー」
「僕も少し防御魔法を教えただけさ」
それにジャック達は微笑んだ。
「ルインは陰ながら俺の後方を気にしていただろう。お陰で鍛錬に専念できた」
「そうだっけ?」
どこ吹く風といった調子で口笛を吹いているが、若干恥ずかしそうにしている。
バレていないと思っていたのであろう。
「さて、ジャック達には今まで世話になったね」
そして手を差し出すと、ルイン、アリサ、レナードもそれに倣った。
「・・・行くのか?」
どこか寂しそうな顔をするジャック。
たった1ヶ月程度の間であったが、彼らと過ごした時間は濃厚であり、教えるうちに自分たちも気付くことがあった。
「あぁ、やる事がある」
それを聞いて頷くと、3人はそれぞれユウキ達と握手を交わしていく。
カーミラに至っては涙を流していた。
「まだまだね。この程度で泣いては先に進めないわ」
「はい、師匠・・・」
そう言うアリサの口はへの字に曲がり、物凄く泣きそうなのを堪えていた。
「用が済めば王都に戻ってくる。また会えるさ」
「そうか、武運を祈る」
「毎日続けるんだぞ?今度はジャック達が師になる番だ」
ジャックはフッと笑い過去を思い返した。
彼らはユウキが来てからは充実した生活を送っていた。
適当に依頼をこなして、路銀を片手に歩き回っていた日々はもう過去の物だ。
今は依頼者の困る顔が目に浮かび、それらを解決しようと依頼を受けている。
それは冒険者として当然の事なのだが、金のために働いていた時には気が付かなかった。
「冒険者とは素晴らしいな」
そんなジャックの呟きが冒険者ギルドに木霊する。
一体何人の冒険者がこの言葉を理解できただろうか?
恐らく2割も居ないだろう。
「それじゃ、ナーシャさんお世話になりました。ミーシャさんにもよろしく伝えてください」
「あい分かりました。良い旅を祈ります」
ナーシャはペコリとお辞儀すると、ヒラヒラと笑顔で手を振った。
それを見た一部の冒険者のハートを射抜かれて倒れ込んでしまった。
そんな珍騒動を最後に中規模都市ダルカンダの街を出発する。
「俺が馬車を操作するよ」
「大丈夫かなぁーボク心配で寝られないよ」
「ルイン、まだ昼だよ」
ルインの呟きにレナードがすかさずツッコミを入れているが、アリサはまだ余韻があり馬車の操作はできそうにない。
「良いんだ。風に当たりたい気分なんだよ」
「なるほどね、任せたよ」
ルインが何かを言おうとして、レナードに口を押さえられて荷台押し込まれていく。
日中はもう大分暑くなった。
馬車はガダゴトと音立てて振動する。
そこに緩い風が、夏の草木の香りとともに鼻孔をくすぐる。
「さぁ、出発だ!」
「「「おー」」」
ダルカンダを背にして街道を進み始めた。
次なる地はイーストホープを経由して副首都チェストだ。
国境までの道のりはまだ遠い。




