師と奥義(2)
ジャックは膝が笑い動けない事を恥じた。
足を叩いて落ち着かせると、奥義を放った師の元へと全速力で駆けつけた。
ユウキはジャックが来たため、ロングコートを靡かせてクレーター内部へと舞い降りた。
ジャックには朝日が指し、それは神々しさのようなものを感じていた。
「実戦じゃないから抑えたけどこの威力だ」
その言葉に我に帰り大斧を構えると、先程の技を見様見真似でやってみた。
「こうですか?」
ジャックは魔力を大斧へと走らせ、大地に向けて一気に振り下ろした。
だが冥断は発動しなかった。
「《ストロング》と言う魔法を知っているかい?
ダルメシア戦争時にこの地で帝国と激戦を繰り広げたデルタ騎士団が使った魔法だ」
このダルカンダに住うものなら、子供の頃から誰もが聞いた御伽話に出てくる魔法だ。
巨人のような力を手に入れ、最後は尽きるという言い伝えである。
「まさか実在して・・・」
「している。少なくとも4人は使いこなしている。
1人はアリサだよ」
ジャックはそれに驚きを露わにした。
この1ヶ月ユウキ達と行動していたが、アリサは魔導師として動いておりそんな気配は感じなかった。
「ジャックの流れは合っている。
だがストロングで極限まで高めた魔力を大斧に纏って、遠心力を使って放出するんだ」
「ストロングか、だかやり方が分からない」
「イメージは魔力を溜めて放出後、それを自身や物に定着させるようにするんだ」
ジャックは言われたようにイメージしてみた。
全ての魔力を大斧に纏うように。
ジャックから魔力が迸るのが見えた。
「それをただ流すだけじゃなく、自己強化のように自らに還元するんだ」
膨れ上がる魔力がジャックの中へと吸収されていく。
「それを大斧に纏わせるイメージだ。そして全てを解き放て」
「ぐおぁ・・グッ!ガァァァァァァ!!」
(辛いだろうが踏ん張りどころだ。放出までいけるか?!)
フォン!
これまでに無い速度で大斧が後方にいなされる。
魔力風はかなり遠くまで影響し、ジャックの後方では砂が舞い上がった。
「オオオオオォォォォ!め・・・《冥断》!!」
超高速で振り抜かれた大斧が地面に激突すると、地割れが発生した。
《真紅のヴェール!》
真紅のヴェールが翼を形成し、ジャックと自身を護るように翼を閉じた。
直後、ジャックの冥断が第二フェーズへと突入し、地割れから光が噴き出すと凄まじい爆発が起きた。
ズガァァァァン!!
砂煙を上げて冥断は静まり返った。
ジャックは硬直した後にその場に倒れ込んでしまった。
慌ててポーチから魔力回復薬を取り出しジャックへと飲ませた。
「大丈夫か!」
「ぅ・・あぁ、師よ・・・皆伝ですか?」
弱々しいながらも返答したジャックを見て安心した。
その言葉を聞いてユウキは優しく微笑んだ。
「鍛錬不足だ。コントロールすれば自分は巻き込まれない」
「厳しいな、師匠は」
「だかそれで良い。ジャック、皆伝おめでとう」
ジャックは微笑みながら体を起こした。
自分の魔力の流れを詳細に読み解く能力。凄まじい魔力を全く外に出さない制御。
そしてこの奥義の発明。
ジャックにはユウキが自分らとはかけ離れた強さを持つ気がしてきていた。
「君達は本当に何者なんだ・・いや、師と弟子、それで良いか」
ユウキはそれに首を横に振るって否定した。
「俺達はパーティだ。少し助力しただけさ」
それにジャックが驚いた表情をしたが、冒険者として当たり前なことに気付き、無骨な笑顔を向けて答えた。
「あぁ、最高のパーティだ」
2人は少し団欒をして魔力の回復を図っていると、別の方角から風が吹き始めきた。
それは徐々に強さを増していき、通常流れる気流とは異なる物であると察した。
ユウキは辺りを見回して納得したように頷く。
「ジャック、カーミラもどうやらワンステップ進んだようだよ」
「この風はそうなのか、アリサにも多くを助けられたな」
「皆何かを必死に越えようとしている。それは俺たちも変わらない」
やがて風が渦を巻いて天に登る竜巻へと発達していく。
「ありゃやり過ぎじゃないか・・・」
「乱れていないから制御は出来ている・・・と思う」
やがて竜巻は四散するように消え行き、穏やかな風が流れ出す。
術後の自然放出が始まり、成功したとみて間違いない。
「カーミラのやつ、俺達も負けてられないな」
「ジャック、まだ強くなるつもりか?」
それに2人は笑い、街へと戻ることにした。
だが街に着くと近場で突然の竜巻や爆発音に、何事かと警備隊が出動していた。
それに焦った4人が鉢合わせして、ギルドや警備隊に謝罪して回ることになってしまったのは当然のことであった。




