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師と奥義(1)

 何だかんだと任務をこなし、日々の鍛錬をするうちに1ヶ月程度の時間が過ぎ去った。


 まだこの辺りは王都と変わらず平和な方であり、朝の鍛錬は街の外に出て各自やりたいようにやっている。


 朝日が顔を出し始め、夏の風がまだ心地よさを持つ時間にユウキがいつもの場所に向かった。

 そこは林と呼べるほど木々が生い茂り、絶好の鍛錬場所であった。


 だが先客が居たようで、風を切る綺麗な音が周囲に響き渡っていた。

 それは徐々に速度を増していき、やがて風を切る音が一つに成りえている。


 その人物が一息つくのを待ち、声をかけた。


「おはよう。だいぶ速くなったねジャック」


 ジャックはユウキが来ていた事に途中で気がついていた。

 鍛錬に夢中になり周囲の警戒を疎かにするのは、初心者のする事である。


「はい、師のおかけで自分でも上達が分かります。

 シルバーに上がってからは鍛錬などと驕っていました・・・」



 どこまで行こうと基礎は大事である。


 ユウキはそれを説き、まず大斧を置いて手斧の二本持ちを推奨したのだ。


 最初は戸惑ったものの、身軽さと程よい重撃が活かせる点でジャック自身も気に入ったようである。


 だが大斧には手斧にない一撃性がある。

 その爆発力の向上と、命中精度を上げるための訓練でもあった。



「ジャック、俺は武闘家であって戦士じゃない。

 だけどここまで俺の言う事を聞いて良く努力してくれたね」


 ほんの1ヶ月ほどであるが、彼は目覚ましい成長を遂げた。

 そして基礎を高めればもっと上に行くことができると考えていた。


「師からは一本も取れていません。まだまだです」


「俺にも上がいる。そう信じて日々の基礎鍛錬を10年以上やってきた」


 そこでジャックの背負った大斧を指差した。

 この大斧はユウキが師となってから、一度も手にかけていない。



「良いのですか?」


「振ってみるといいよ」


 そう言われてジャックは手斧を腰に装着し、大斧を外した。


「ー!!」


「軽いだろう?」


「俺が冒険者を始めてから持つ相棒・・・使えていなかったのか」


 そして大斧を構えると、一つ一つの型を取り無駄なく振るっていく。


 ブォン!ブォン!!


 フォンフォンーヒュンヒュン!


 徐々にその速度が増していく。



『千葉斬』


 大斧の遠心力を乗せて一気に横薙ぎに振り払う。

 すると風圧が周囲の木々を切断し、型を取り終える。


「これほどとは・・」


「ジャック、よくやった」


 すると切断された木が幾重にも切り刻まれ、バラバラに崩れ落ちた。


 ズガガガガン!!


「千葉斬はこんな威力の技だったのか。今までの自分が恥ずかしいな・・・」


「クロスウルフなどの速度重視なら手斧と、使い分けると良い。

 それと最後に大斧に対応した奥義を伝授する。使えるかは努力だな」


 奥義と聞いてジャックが喉を鳴らした。

 俺ががそこまで考えているとは思っていなかったようだ。


 と言うより、ジャックは少し狩りが上手くなれば良い程度の認識だったのだ。


 故に素直に師に対してお願いした。


「使いこなしてみせます」


 それを聞いてユウキは腕を組んでニヤリとした。


「その名は《冥断》、俺が編み出した大斧奥義。

 だけど周囲の仲間まで巻き込みかねないから、気をつけて欲しい」


 その忠告にジャックの額には汗が流れる。


 俺はジャックに林が一望できる高台へと移動する様に伝えて、そこから大斧の魔力に注目する様に言った。



 そして先日武器屋から貰ったシュレッケンをポーチから取り出し、魔力を解放していく。


 ユウキの瞳は真紅に輝き、濃縮された魔力を大斧に纏わせていく。


 するとシュレッケンの魔力が大斧全体へと渦巻いていく。

 更に真紅の魔力が迸り放出から安定へと誘う。



「なっ!凄まじい魔力・・・!!

 ユウキは魔力が扱えないんじゃなかったのか!?」


 幾度となくパーティを組んで依頼をこなしてきた。

 しかしユウキが一度として魔力を行使することはなかった。


 故にジャックはユウキが魔力を使えないと思っていたのだ。


 しかし今、眼前に迸る魔力は真紅に輝き美しささえ感じる。


「全てにおいて負けていたのか・・・だが!」


 全霊でジャックはユウキが編み出した奥義を盗もうと、全神経を集中させた。



 《ストロング・極》


「ハァァァァァァ!《冥断》!!」


 一気に放出した魔力をシュレッケンに全て集約すると、遠心力を使って一気に振り下ろした。


 ズズンッ!ーードウゥゥウン!!!


 振り下ろした地点から直径50mのクレーターが発生。


 だが《冥断》ここで終わらない。


 濃縮された魔力が大地に流れ、それは反力となってやがて地表へと放出され巨大な爆発を伴った。


 ズガァァァァン!!!



 発動者の居場所を残して、クレーターと共に何も残らない剥き出しの地面が残った。


「す・・・すげぇ」


 奥義の名に恥じない凄まじい技であった。


 

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