ゴブリン戦(1)
状況は予想外の所から変わった。
ホブゴブリンに捕まったアリサが口を開いた。
「舐めないでよ・・・その汚い手を・・離しなさい!!」
そう言うとアリサは捕まっている手を掴んだ。
そして魔法陣が展開される。
それを見たホブゴブリンは怪訝に眉を寄せた。
《ウィンドカッター!》
ホブゴブリンの腕に切り傷が生まれる。
堪らずその手を緩めてしまった。
落ちたアリサはユウキの方へと走りながら右手をゴブリンの方を向ける。
その手には魔法陣が浮かび上がる。
「ガ!何だこいつは!!詠唱していないぞ!魔法で迎え打て!!」
ホブゴブリンは指示を飛ばす。
ゴブリン達が詠唱を始めるが遅い。
アリサの掌から高水圧の水流がゴブリン達を襲う。
中級水魔法《ウォータージェット!》
詠唱を中断されたゴブリンは押し流された。
しかし距離があり、ダメージまでには届かない。
「ごめんなさい、驚いたけどもう大丈夫!」
一連を見ていたユウキは歯噛みした。
いかに自分の力、俊敏性、耐力が常人を逸していても、今の自分より強い敵には無力だった。
それが自分より非力だが魔法を使える少女が、状況を一変させてしまった。
(僕は何も・・でもこれなら、2人なら逃げることはできる!)
「逃げようアリサ。勝つのは無理だ。」
それを聞いてアリサが答える。
「こいつらが村に来たら終わりよ!」
それを聞いていたホブゴブリンが言う。
「ガガガ、村に行くかは分からんがな。だが見られたからには、お前達を村に返す気は無い!」
ユウキは決心して言う。
「それならやるしかない!」
それを聞いたアリサも宣言する。
「話が早いわ。引けないならまとめて倒すわね!」
するとアリサは両手を左右に広げて魔法陣を展開する。
《フレイムウォール!》
ユウキ達とゴブリンの間に炎の壁が生まれる。
続けてアリサは左手で《フレイムウォール》を維持したまま、右手を前に突き出した。
今度は別の紋様が浮かぶ。
《クラスターボム!》
するとゴブリン側の至る所に魔法陣が展開され、一気に炎が弾け爆発した。
これにより半数近くのゴブリンが地に伏す。
クラスターボムは中級炎魔法で、中級の中でも最高難易度と言われている。
それを無詠唱かつ同時魔法展開など凡人には不可能な集中力だ。
爆発が終わる前にユウキも動いた。
フレイムウォールの魔力が薄い所を見つけ、突き抜けて一気にゴブリンに迫る。
「グガッ?!」
ユウキはフレイムウォールを抜けると正面にいたゴブリンを蹴り上げ、回し蹴りを放った。
勢いよく飛んだゴブリンは、近くにいたゴブリンに当たり爆発に巻き込まれる。
そのまま振り返らず次の標的を定め、俊足で接近すると、3体目のゴブリンの顎にアッパーをかます。
首からゴキッ!と言う音が聞こえた。
すると爆発が終わり砂塵が舞う中、起き上がったゴブリンが詠唱を始める。
ユウキは疾走すると空を蹴った。
《双龍閃!》
高速で蹴り上げ、ゴブリンを切り裂く。
詠唱していたゴブリン2体の腕が切られ、詠唱は中断される。
別の場所では、初級土魔法の《グレイブ》が発生し、地面からゴブリンを突き上げる。
ユウキはそれを横目に、高く跳躍すると木を蹴り勢いをつけて別のゴブリンの顔面を掴んで、地面に叩き付けた。
フレイムウォールは既に消え去っていた。
しかし、炎は木々に燃え移り森林の一部が火災となっていた。
そして、この炎がもたらした黒煙は、一帯から大きく狼煙のように上がってた。




