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ダルカンダ支部長

 ーーー支部長室ーーー


 ここに来てから2週間が経過した。

 支部長は1人腹を抱えてデスクに突っ伏していた。


「まだ腹が痛むな・・・特務とは何だ?

 本部に問い合わせても拒絶と来たものだ。クソッ!!」


 コンコン


 扉がノックされる音が響き、支部長は姿勢を正して入るように促した。


「失礼します。ユウキ君の事で、王都の本部から追加の返答がありました」


 入ってきた受付嬢は小柄な女性の方だ。そして本部からの返答を淡々と報告する。


「正式回答より貴殿が独自に情報捜索を行っている事実を知り得た。

 然るに本日付で冒険者ギルド、ダルカンダ支部長の任を解くものとする」


 支部長は目を見開いた。

 言われた事が理解できない。と言うか一冒険者の素性を洗おうとして何故解任なのだ?


 確かに回答では特務について詮索無用と言伝があったが、何なのだこれは?!



 彼はこの座に35歳と言う若さで着任した。


 それはこの支部で最も貢献した冒険者であり、ギルド職務に興味を示したため採用され、登り上がった。


 だがダルカンダの周辺情勢はさして難易度が高くない。故に貢献したとしても冒険者として強く誠実であるとは限らないのだ。


「そんな事、認められるか!」


 報告に来た受付嬢はビクッとして縮こまってしまった。


 支部長は剣を抜き、受付嬢へと迫る。


「あっぁっ・・・」


 剣を振り上げ、持ってきた伝文を叩き斬るため一気に振り下ろした。


 キィィィィン!


 だが彼の一撃は紙一枚も斬る事が叶わなかった。

 剣先が折られていたのだ。


「なん!ぐばぁぁぁ!!」


 支部長室の壁まで吹き飛ばされて口から血を流す。


「だから貴様は器では無いと忠告したんだ」


「オーギス・・・ギルド長!」


「ハッ!基礎を疎かにするヤツがユウキに勝てるかよ。あいつは俺より強えぞ」


 その言葉に支部長と受付嬢が息を呑んだ。


「ナーシャ大丈夫かしら?私の妹に楽しい事してくれたわね?」


 一緒に入って来た女性は、王都冒険者ギルドにて受付嬢をしていたミーシャだった。



 彼女は両手をパンッ!と叩くと掌に水流が発生する。

 それを紐状に引き延ばすとシナリある鞭へと変化した。そして思いっきり振りかぶり、支部長へと叩きつける。


 パンッ!パンッ!パンッ!


 幾度となく叩きつけられ、ミーシャの手がオーギスに止められた。


「その辺りにしておけ、気絶したら面倒だ」


「取り乱し申し訳ありません」


 頭を下げて謝るミーシャに目配せだけして、支部長へ向き直る。


「お前はこのミーシャにも劣るよ。ダルカンダはそれほどレベルが低いんだ」


「バカな、バカな、バカな」


「後任はミーシャが受け継ぐ。そして王都に連行だ」


 支部長はこれまで冒険者に気分で優劣を付けたことや、気に入らない相手を闘技場で私刑に処していた罪が分かっている。



 オーギスは支部長を拘束してギルド内部を通り過ぎていった。


 本部ギルド長が来た事で、何事かとここの冒険者も騒いでいたが、その光景に一気に静まり返った。


 ただ1人を除いて。


「兄さん!ギルドは何をしているんだ!」


 ここに来て最初に絡んできた男である。

 どうやらギルド支部長の弟だったようだ。


「この者は罪を犯した犯罪者だ。新たな支部長は本日就任した」


 元支部長はブツブツと呟き目の焦点が合っていない。プライドが高く挫折を知らないで来た彼には立ち上がる気力が無いのだろう。


 そして出ようとした時、大量の荷物を持った人物とぶつかった。



「あれ?オーギスさんじゃないですか?」


 ユウキ達だ。


 そしてユウキは元支部長とオーギスを交互に見て状況を察した。


「初代ミジンコ」


「おいルイン、自重しろ」


「罪人だ、これも俺の仕事なのでね。ここでも活躍しているそうじゃないか」


 そこでオーギスはジャックを見ると驚いた顔をした。

 彼のことは以前ここで会ったことがあるが、どこか慢心している所がある気がしていた。


 だが今はそれを感じさせない。

 フッと笑い、オーギスはジャックに問いかけた。


「基礎を思い出したか?」


「ハッ!え?いえ、師の教えです」



 オーギスは俺の方をチラリと見ると、何かを察したようであった。


「教育の才もあるか?」


「進もうとする気持ちはそれだけで力になります」


 無骨な笑みを浮かべてた。彼なりの最大限の笑顔なのであろう。


「そのうちチェストに向かうのだろう?また会うかもな」


 それから頑張れと告げ、オーギスは王都に向けて出発した。



 ユウキはオーギスが去ったのを確認して、素材を受付カウンターまで運ぶとドサっと置いた。


「あれ?誰もいないのか」


「貴様ぁぁぁ!!お前が来てから全部おかしくなった!」


 元支部長の弟ライアスが、突然叫びながらユウキに殴りかかってきた。


 ユウキはそれをパンッと手で弾くと、足払いをして地に伏せさせる。


「無様だね。力量も分からなければ、自分の尺度でしか他人を見られない」


 そこでルインが怪訝な顔をした。


 ユウキは滅多なことでは怒らない。

 ルインが最初にライアスに襲われた時も、安全と判断して怒らなかった。


「一度は許す。間違いは誰にでもあるから」


 魔力を感じさせていないのに、その瞳の色が変わっていく。

 ルインは本能が警鐘を鳴らしていた。だからすぐに動いた。


 ダンっ!


 ルインの足がライアスの股間スレスレで床を貫いた。


「ミジンコちゃん、ボクらは何もしてないよ?

 自爆して八つ当たりは止めて貰えないかな?」


「あっうぅぅ・・ごめん・・・なさい」


 男のプライドなどかなぐり捨ててライアスは謝罪した。


「俺には何の罪だか分からない。

 ここに居る皆の方がよく分かるんじゃないのかい?」


 ユウキの問い対する答えは後ろからやってきた。


「その通りよ、新任のミーシャです。皆様にはこれからお世話になります」


 声に振り向くと、王都ギルドでみた受付嬢本人に驚いた。


「ミーシャさん!お久しぶりです!」


「まだ二週間程度よ、ふふっ」


 その笑顔に冒険者の男達はハートを鷲掴みにされた。


「うおおぉぉぉ!!ミーシャさんよろしくお願いします!!」


「ライアス!お前の兄貴は裏で権力を翳して嬲っていたクソ野郎だったぜ!」


「あぁ、天使だ!元支部長?誰だそれは!!」


 アホみたいな人気である。



「妹のナーシャがお世話になっていました。元支部長の件はそう言うことです」


「ナーシャちゃんが妹!?ナーシャ一族は何て言う血縁なんだ!!」


 小柄なナーシャはナーシャで人気があったようだ。

 こう言った活気は嫌いではない。



「ミーシャさん、ところで依頼を完遂したのですが」


 そこでカウンターに置かれた荷物をチラリと見た。直ぐに受付嬢モードに入ると袋の中を見ていく。


 そこには大量の熊皮やクロスウルフの牙が入っていた。


「あらあら、ワイバーンに上がるつもりなのかしら?」


「まだまだだねーここじゃ殆ど魔力も使わないよ」


 ダルカンダもレベルが上がったわねと言いながら、ナーシャを呼んで仕事を再開してもらった。




 その日の任務を終えて宿屋に戻る途中、ユウキはチラリとルインの方を見た。


「どうしたの?」


「あいや、その」


 珍しく挙動がおかしく、ユウキは頬をかいていた。


「ありがとう。あの時はたすかー」


 くちゅ・・・



 言葉の途中でルインに口付けをされて言えなくなってしまった。


 そのままルインを抱きとめて、熱く抱き合った。


「未来の旦那様の事はお見通しだよっ」



 夕暮れの光の中、ステップを踏んで振り返るルインはいつも以上に可愛く愛おしく感じてしまった。


「あぁ、大好きだ」


「じゃもう一回・・・んむっ」


 2人の時間は静かに流れ、気の済むまで密着してからゆっくりと宿屋に戻った。




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