ダルカンダ周辺の情勢
「ワイルドウルフの群れが出たと聞いたが、これは一体?」
隊長らしき人物がジャックに聞いて来た。
やはり彼はここでは名が通っているのだろう。
「エリアル、クロスウルフが現れた」
「なに!?確かにその個体らしき物もあるな」
エリアルは言われて横たわるウルフを見やると、一際大きい個体を確認した。
「あぁ、ここにいるシルバーの青年達が倒した」
そこで初めてこちらを見てきた。
子供の使い程度にしか見ていなかったのだろう。
「ほう?では報告を聞きたいので全員来てもらえるか?」
頷くと、列に並ぶ人達をごぼう抜きにして中に入る。
「わお!小さい王都みたい!」
ルインの言う通り、中規模都市というだけあって王都を小さくした感じだ。
ただ範囲が狭いので360°にある壁が圧迫感を感じる。
しかし景観を楽しむ間も無く詰所に入れられてしまった。
「身分証を頼む」
冒険者ギルド証を取り出して魔力を通した。
すると立体的に文字が表示され、公開する内容が開示された。
ユウキ・ブレイク
シルバー冒険者(ベア級)
格闘戦
王都学園特待生
※ブロンズを特務通過。
王都ダルメシアのギルド特務を達成。
「ふむ、ベア級であるのならクロスウルフの討伐にも納得がいく」
シルバー階級は幅広く設定されている為、個々の能力を細分化した等級が設定される。
ラピッド <ボア <ウルフ <ベア <ワイバーン
と言う順に魔物の強さに比例した等級になっている。
この上がゴールド階級になる訳だが、これは実績と名声を積んだ一握りの冒険者にしか与えられない。
(王都のギルド長は妥当な所に落ち着けてくれたな)
「しかしその若さでベアとは・・・特務内容は?」
「言えません。どうしてもの場合はギルドに問い合わせてください」
「そうか、わかった。一先ず身元が分かれば良い。
それと先程の経緯を説明してほしい」
あったことをありのままに報告し、別室で報告を受けたジャック達と相違ないことを確認して解放された。
「手間を取らせたな。遅くなったが、ようこそダルカンダへ」
笑顔で答えてから一向は宿屋を探して回ることにした。
「でもユウキは何であの時止めたの?」
アリサは防護壁の展開について止めた時のことを言っている。
「他の冒険者の戦闘に、緊急事態を除いて横槍を入れるのは厳禁だからだよ。父さんから教わった」
「なるほど、作戦がわからないのに下手な援護は返って危険だからかな?」
「それもあるけど、単に報酬占有権の問題だな」
「冒険者はそれ単一の職業だからねー」
あれこれと冒険者についての話をしていると、宿屋がある区画に辿り着いた。
馬車は門に置いて、荷物はユウキのポーチに入れてあるから身軽だ。
一先ず昼食を取る為、一晩2部屋を確保して食堂に向かった。
出てきた食べ物は豆のスープと硬めのパン。
だが一口食べて目を輝かせた。
「サウスホープ!」
そう、食材の原産はサウスホープのものを使用していた。
商人のアルバスさんは本当にいい仕事をしたようだ。
「でもこれからどうしよう?」
「冒険者ギルドに行こう。この辺りの情勢を聞けるかも知れない」
ひとまず冒険者ギルドへと向かう事にした。
扉を開けるとガヤガヤとした喧騒が響いていたが、ユウキ達が入ると一瞬にして静まり返った。
周囲を目で見ながら、特に気にした様子は見せずにカウンターへと足を運ぶ。
「ようこそダルカンダ冒険者ギルド支部へ。本日のご用件は?ご依頼でしー」
受付嬢が淡々と決められた言葉を連ねていくが、言葉を止めてギルド証を見せた。
「この付近の魔物や獣人の情勢を教えてください」
「ーはい、少々お待ち下さい」
端的に返事をして奥の書庫へと姿を消した。すると清々しい青年が声をかけてきた。
「可愛い子達だね。まだ小さいけど俺たちとあっちで食事でもしないかい?」
ニヤニヤした下卑た笑顔を向けて、ルインとアリサに絡んできた。
無視していると顔が若干引きつってきている。
「ライアスの奴またやってるよ。あれは強制宿泊コースか?」
周りでは妙な言葉を発しているが、どうやらこの男は普段からこういった事を日常的に行っているようだ。
「あら?私に声をかけていたの?器量が小さくて気づかなかったわ」
更に男の顔が引きつる。
「ボクはノミに興味ないかなー。あっちもノミサイズ?」
すると何やら自信の無い男達が股間を押さえた。
(ルインさん、そいつはソッとしておいて欲しいな)
そんな心の叫び虚しく、ライアスと言われた男が俯いてしまった。
「えっ?本当にノミちゃんだったの?」
ルイン様爆弾発言
「てめぇ黙っていれば調子に乗りやがって!」
そこでギルドの扉が開かれて人が入ってきた。
先程のシルバー冒険者ジャック達だ。
中に入った彼らは場を支配した空気を察して止めに入ろうとした。
「おいライアス、やめないか!そいつらはー」
だがライアス氏には聞こえていなかった。
完全にルイン様に対して激怒している。
「この女!泣かせてやる!」
ライアスはルインを殴りかかろうと、腕を大きく振りかぶった。
直後、妙な音が響き渡った。
パンッ!グキッ!
ライアスの手はユウキに弾かれ、ルインによって逆に強打された。
ライアスは何が起きたか分からず、遅れて自分の右手に違和感を覚えた。
ぷら〜ん
「おおお、おれの、俺の右手がぁぁぁぁ!!」
右手は完全に折れていた。
あまりの痛みに、ライアスはそのまま尻餅をついてしまった。
ルインはゆっくりとライアスに近づくと、怒ったように見下ろした。
「覚悟はあるんだよね?ノミがミジンコになる覚悟は」
右手を押さえて仰向けにルインを見たライアスは、ガクガクと震えながら足で後退りをした。
「何だ!お前ら何なんだよ!」
するとルインは右足を上げ、ニコリと笑顔でその足を振り下ろした。
チーン
ピクピクと震えるライアスを尻目にユウキが一言。
「ルインを本気で怒らせたお前が悪い」
するとユウキに対して頬を膨らませたルインが抗議してくる。
「何でもうちょっと守ってくれないかな??」
「だって空気が揺らいだからね」
ミスト分身の発動をユウキは察知していた。
「ちぇ・・でもユウキならいいよっ」
本当にルインは色々と考えさせる言い方をなされる。
「お待たせしました・・・これは?」
受付嬢が奥から戻ってくると、男達は股間に手を置き内股状態。気絶者1名。
ジャックがツルツル頭に手を置いて、溜息を吐きながら説明した。
「そうでしたか。ライアスさんは放っておけばいいです。女の敵は世間の敵ですから」
さらっと毒を吐く受付嬢。
「周辺は魔物の活動がやや活発で、獣人はこれと言って散見されません。
ただ副首都チェストで謎の失踪事件が起きていますので、念の為注意してください」
情報を見やると、ラピッドやボアが主体で駆け出しの冒険者が経験を積むのに向いている。
失踪事件はここから距離があるし、多少の注意で良いだろう。
「ここで少し冒険者として活動するか」
それを聞いていたジャックが横から一つの提案がなされた。
「それなら合間に俺たちに稽古を付けてくれないか?」
それに場が騒然とした。
彼はここでは名の知れた冒険者だ。その彼が教えを請うと言っているのだから当然である。
「クロスウルフを物ともしない君達に頼みたい」
そして頭を下げてきた。
ユウキはそれを見て顎に手を当てて少し考えた。
「頭をあげて下さい。条件があります」
「無茶でなければ」
「パーティを組んで、この地域の地形などを教えて下さい」
そしてユウキはジャックに手を差し出した。
それを呆けて見ていたジャックはニヤリと笑い受け取ると、二人は熱く握手を交わした。




