シルバー冒険者
旅程としては、基本的に街道を渡り関所である神無砦を目指す。
道中の街に寄りながら、ダルメシア領内の生活状況を探りながら行く予定だ。
このまま行くと次の街は中規模都市ダルカンダになる。
ここはダルメシア戦争でデルタ騎士団長とヴァルジェ大佐が二度に渡り激戦を繰り広げた場所。
「いい陽気だねぇ〜ボク寝ちゃいそう」
ルインの言う通り、初夏の陽気に風が心地よく眠気を誘う。
王都に近い街道なこともあって、賊や獣人も見られない平和な旅だ。
半日ほど長閑な旅路を続けたころ、街道沿いに大きな壁が見えて来た。
ダルカンダの都市壁である。
時間的にも昼過ぎ辺りで、宿を探したりすれば丁度良い頃合いである。
「よし、昼飯を食べて宿を探そう」
急ぐ旅でもないのでここで一度小休止する事にした。
「了解、レナードお疲れ様。大変だったでしょう?」
「これ位なら平気さ。平和な旅だったしね」
街の入り口には王都と同じく検閲が行われていた。
その最後尾に並ぶと、前方を見たルインが唸る。
「うぇ、これいつまでかかるの?」
王都ほどではないにしろ、冒険者や商人が結構並んでいた。
30分位だろうか、時間が過ぎた頃になって商人が森の方を指を刺しながら騒いでいる。
その方角からは、一匹のワイルドウルフがこちらの列に歩み寄ってきていた。
点穴でその辺りを凝らしてみると、若干の魔力が群れているのが分かる。
「んー?ワイルドウルフか?数が多いな」
ユウキの呟きに一同がそちらを見る。
だが皆には一匹しか確認できない。
それを聞いていた冒険者らしき男が笑い出した。
「くはは!数も数えられないのか?
魔力も無さそうだし親の使いなら家に帰ってな!」
「子供相手に何言っているの?
ほら、商人が怯えているから早くして」
魔導師の仲間にそう言われて大斧を肩に乗せると、ワイルドウルフに向かって行った。
「ウルフは群れると厄介ですよ。防護壁くらいかけた方が良いと思うけど」
ユウキの忠告を無視してスキンヘッドの男は歩み続けた。
「あれはシルバーのジャックさんじゃないか?」
「おぉ!これなら安心だな」
周りからは歓声が上がる。
どうやら名の知れた冒険者のようであった。
「どうするのユウキ?支援魔法使っておく?」
「20はくだらないな。まぁ名の知れた冒険者なら問題はないだろう」
この時ユウキ達は勘違いしていた。
一般の冒険者の戦闘能力と言うものを。
ワイルドウルフ単体ではブロンズでも倒せる相手だ。だが統率された群れでは難易度が跳ね上がる。
そう、シルバーの熟練冒険者が6人で挑んで、負傷者や死者が出るほどである。
ジャックは一撃で決めまいと一気に薙ぎ払った。
だがワイルドウルフはそれをバックステップで躱すと、続く連撃を全て回避していく。
反撃の気配はない。
「マズいわね。サウスホープ森林でもコイツは厄介だったわ」
「あぁ、そろそろ来るぞ」
それを聞いていた仲間の冒険者が、怪訝な顔をして目を凝らした。
すると、大振りの一撃を回避した瞬間、森から現れたワイルドウルフの群れがジャックへと襲い掛かった。
「グルァァァァ!!」
「まずっ!遥かな頂きはー」
(遅い!)
アリサは防護壁の詠唱を聞いて悪態をついた。
右手を突き出して防護壁を展開させようとした所で、アリサを静止させた。
仲間の防護壁の展開は遅れ、ジャックへの腕に牙が食い込む。
その直後に防護壁が展開され、他のウルフの突進を阻む事に成功する。
「大地の恵みはその地を守らん!《グレイブ》」
複数の岩が迫り上がるが、どれも当たらずウルフは回避しながら発動者へと標的を転換した。
「くっ!速い!」
魔導師は緊急事態にろくすっぽ当たらない魔法に悪態をついている。
しかも自分達の方へと向かってきている。
「おい!カーミラ、商人共は逃げろ!」
ジャックは警告を発しながら、やっと噛み付いたウルフを引き剥がした。
「アリサ、ルイン」
ユウキの声に2人は頷くとすぐに動いた。
アリサは無詠唱で《バーニングサークル》をジャックの周囲に展開した。
これでジャックから一定距離を離す事に成功する。
ルインは《ミスト分身》を作り出すと、サークル外に逃げたウルフを切り捨てていく。
「レナード」
「うん」
こちらに向かってきたウルフは、カーミラと呼ばれた魔導師に食いつこうとした。
だが突如現れた光の翼により阻まれ、逆に牙を失う事になる。
しかしウルフも突然の変化に動じず、残った個体を散開して自分らに標的を変えてきた。
「あいつが司令塔か」
群れとは別に一際大きい個体が、バーニングサークルの消滅と同時にジャックへと突っ込んだ。
ジャックの防護壁は一撃で砕け散ると、こちらに吹き飛ばされてくる。
「大丈夫ですか?」
「呑気に言ってる場合か!?あれはA級難易度のクロスウルフだぞ!」
「クマより強い?」
「群れたらビッグベアと同等だ!」
「それなら大丈夫」
彼は何を言っているか分からないと言った感じの表情を浮かべていた。
ビッグベアと同等と聞いて、商人や若輩冒険者か後退りを始めた。
やや混乱気味になってきており、パニックになったら厄介である。
「選手交代でいいかな?」
すると防護壁が展開された。
アリサがすぐに反応してくれたのだ。
「御守りよ、気を付けてね」
「魔力も無いのに一人でやるつもりか?!下がってろ!」
ユウキはそれに親指を立てて応えると、クロスウルフに歩み寄った。
ウルフから見ても魔力が見えないので本能的に雑魚認定していた。
故に群れに命令して攻撃をさせた。
360°から一斉に襲い掛かるワイルドウルフ。
次の瞬間、それらが一瞬にして吹き飛んだ。
《旋天打衝》
全周囲を風圧と遠心力で吹き飛ばす。
魔力を伴えば圧縮空気を放つ強力無比な技だ。
続いて《ファストブロー》で距離を詰め、クロスウルフをそのまま地面に叩きつけた。
ズガァァァァン!!
「・・・」
沈黙。
誰もが予想しなかった光景であった。
「すげぇ・・・」
ジャックの言葉だけが周囲に木霊した。
列に戻ったユウキはジャックの元に行くと、手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
先ほどと同じ質問に、今度はユウキの手を取り応えた。
「さっきは悪かったな、シルバー冒険者で戦士のジャックだ。
それと魔導師のカーミラ、治癒術師のナタリーだ」
「シルバー冒険者のユウキ、それとアリサ、レナードとルインだ」
それを聞いて驚いた表情をしていた。まだ若い集団でシルバーの称号を得ている事に驚いていたようだ。
才能ある者で若くしてなる事は聞いていたが、実際には殆どない。
シルバーの強さは幅広いが、単独でも死なない程度の経験知識と能力を持つことが要求されている。
故に死なない様に下地を積む事が、ブロンズに求められる目標であった。
そこでやっと騒ぎを聞きつけた自警団がやって来た。




