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一つの出発点

「これで良しと」


 ユウキは荷馬車に荷物を詰め込んでいた。

 走れば早いが急ぐ旅でもないし、馬車なら疲れることはない。


「やぁ、これで全部かい?」


「あぁ、大した量はないが着替えとか装備だな」


 レナードも荷物を持ってやってきた。

 彼もそう多くはない荷物を馬車に詰めると、馬に跨った。


「取り敢えず第二門だな。あそこで2人と待ち合わせだ」


「了解」



 第二門に到着すると、既にアリサとルインは支度を済ませて待っていた。


「結構さまになっているな」


 アリサは魔導師風の赤を基調としたコートを着ている。

 ルインも素早さを殺さないような青を基調とした軽装備だ。


「あら、そっちも良いじゃない」


 レナードは純白の軽鎧にマントを靡かせ、自分にもアリサより濃い目の赤である真紅に、黒の刺繍が成されたロングコートを支給されていた。


「このヒラヒラが邪魔にならないと良いけどね」


 そう言って軽く素振りをして型をとってみた。

 風でロングコートがはためいて意外に動きやすい。


「良いな」


 満足して言うと、アリサとルインがポカンとした表情をしていた。


「惚れるなよ?」


「ばっ!もう・・・」


「もう?」


 アリサはプイッとして頬を膨らませた。


 そんなやり取りをして4人は第三門、王都の玄関口まで向かった。



 そこで一度荷馬車を預けると、一向はポークバーグへと足を運んで挨拶をすることにした。


「おかえり!」


 中に入ると女将が笑顔で歓迎してくれた。


「その格好は・・・もう行くんだね?」


「はい、また戻ってきます。それまで元気で」


 そう言って女将は抱きしめてきた。彼女には本当にお世話になった。


「気をつけてね。あなた達は若いんだから失敗してもいいんだよ」


「はい、サウスホープの両親にも言われました」


 この2ヶ月の間にユウキとアリサはサウスホープに里帰りしていた。

 流石に長旅になるし、両親へ報告に行ったのだ。


 因みにその時支度金として父から貰ったお金は返却し、逆に困らないように少し置いてきた。



 ガタッ


 階段から物音がして振り向くと、ミサが両膝をついて座り込んでいた。


「行っちゃうんですか?」


 涙を流しながら小さく聞いた。


「うん、また直ぐに帰ってくるよ。立派な若女将になれると良いね」


 レナードがそう言って手を差し出すと、ミサがそれを受け取り優しく抱き起こした。


「はあぅ」


「元気でね、ミサちゃん」


 ミサは羞恥心を押し殺してレナードに抱きついた。

 だが鎧はツライな、あれでは肌の感触は伝わらない。


「うん、レナードさんも頑張ってね」


「レナード今日は大胆だね。ボクも密着!」


 そう言ってルインが腕に抱きついてきた。

 ほのかなルインの香りが鼻腔をくすぐり、腕に何やらフンワリとした感触が伝わる。



 ややトランスしかけた所で我に帰った。


「よし!行くぞ!」


「あっ冒険者ギルドに寄って行ってね」


 女将に対して手を挙げて答えた。


 皆もユウキに習って、女将とミサに手を挙げて宿屋ポークバーグを後にした。


「本当に立派な子達・・・まるで熟練の冒険者が出発するみたいに」


 女将の頬を一筋の滴が溢れた。


 それを見たのはミサだけだが、彼女がこの事を語ることはなかった。



 続いて向かったのは冒険者ギルドだ。

 受付のミーシャさんが対応する。


「あら、お久しぶりです。ギルド長オーギスに用事ですか?」


「いえ、これから帝都に旅立つのに冒険者としても出立します。

 何か知っておいた方が良いことはありますか?」



 ミーシャはそれならと言いながら銅板を渡してきた。


「これは関所の通行証になります。無いと審査とか時間がかかりますよ?」


 それに4人は顔を見合わせた。

 王の命令なので話せば通れると思っていたが、よく考えればそんな証拠は何処にもない。



「待ってくれ、そいつらに渡すのはコイツだ」


 そう言いながらオーギスが奥から出てくると、銀でできたコインを渡してきた。


 それを見たミーシャが息を飲んだ。


「これが通行証だ。だが政治で使う物だから無くすなよ?」


「ありがとうございます。でも何故政府から発行されなかったのです?」


 オーギスは難しい顔をして答えた。


「貴様も知っての通り、王都の議会は満場一致とはいかない。先の宣告で王は身を切る決断をしたのだ」


 つまり獣士関連を王が勝手に決めて議会が動揺した。

 そこに他国への使者を学生に任せる。と言った物だから納得しない貴族は多い。


 なんせ一世一代の出世チャンスだ。


「貴様らは以前にギルドを使ったことがあるので、きっと立ち寄るだろうと推測していたのだ」


 誰が?と言いかけてやめた。

 ここまで来たら最早1人しかいない。


「それと街の検問、各支部と帝都の冒険者ギルドにはギルド章を提示しろ。それで全てがわかる」


「了解しました。ありがとうございます」


 礼を告げると「よせや」と言い、照れながら奥へと戻って行った。



 そして馬車のところに戻ると、荷を受け取り門の外へと出た。


「やり残しは無いな?」


「「「うん(えぇ)」」」



 空を見るとどこまでも青空が広がっていた。


「ボク達4人のスタートだね」


「先の道はまだ分からない」


「でも前に進めるわ」


「行くぞ!レナード、馬を頼む!」



 皆から「えー」と言う非難を浴び、最初の一歩を踏み出した。


 だがこれでいい。


 俺の友人とはこんな感じだから。




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