補給物資
ユウキが戻るとルインの胸から手を離した。
「ユウキ!ルインが暴走したの!?」
ルインからは迸る紺碧の魔力が天高く舞い上がっていた。
それを確認したユウキは、不安そうにしている2人の方を向いて微笑みながら説明した。
「大丈夫だよ。黒龍はルインと共にある」
暫くしてルインの魔力は徐々に消えていった。
「不思議な感覚」
ユウキは生まれつき2つの魔力器官を持つため、あまり気になった事は無いが突然継承されると戸惑うのだろう。
「よし、バルトフェルド団長のところに行こう」
ユウキがそう言うと、呼び出されたのに放置されている現状をどうにかしようとした。
すると武器庫から人がやってくるのが見えた。
「その必要はないよ、彼は君達が他国に渡れるか試したかったんだ。アクシデントはあったけどね」
ノイント学園長だ。
許可を出した1人なので当然この事は知っている。そして徐に学園の方を指差した。
「物資は学園にあります。それらを一先ず運び出してください」
他国に渡れる程の力?外交でも試されると言うのか?
ユウキは気になって学園長にバルトフェルド団長より強い者がいるかを聞いてみた。
「当然居ますよ。皇帝は実力でなりますから、王都は戦闘力だけで言うと劣ります」
と言う事は楽観視できたものではない。
しかも固有血技の能力などで、魔力に関係なく苦戦を強いる場合は多分にある。
「了解しました。ところでこの修練場は・・・」
さもありなんと言った状況である。地面には無数の亀裂が入り、観客席は崩落している。
地面は魔法で直せるが、観客席はどうにかなる物ではなかった。
「ここは許可を出した人の責任さ」
アリサが自分の魔法を行使した場所を見て、見る見るうちに顔が青ざめてきている。
必死すぎて気にしていなかったが、黒焦げボコボコの地面はもはや原形を留めていなかった。
「ゎぉ、大惨事」
静かにルインの一言が場を支配すると、4人は姿勢を正してほぼ直角になるほど頭を下げた。
「「「「すみませんでした!!」」」」
ノイントは笑顔でそれを受け取ったが、目が笑っていなかった。
学園に戻ると中庭になにやら人だかりができており、そこへ向かうとある物を見て絶句した。
馬である。
それに人が乗れる荷馬車、数々の山のように積まれたキラキラのアクセサリー群。
「おい、まさかアレじゃないよな?」
「ははっ、きっと何処ぞの貴族が置いていったものさ」
レナードはそう言って辺りをキョロキョロしていると、アトリア先生が走ってきた。
「下がれ下がれ!それに触れたら法に触れるのと同義だぞ!」
人をかき分けながら進むと、アトリアが自分らに気付いたようだ。
「来たか。これが物資だから早く退かしてくれ!」
「ひぇーお馬さんなんてボク乗れないけど?」
ルインさん、恐らくここに居る人たち乗れないです。
そんな心のツッコミをしていると、レナードが馬の首を撫ででいた。
「「いたー!」」
ルインとユウキの声が重なった。
ルインも同じ事を考えていたようだが、レナードは英才教育で乗馬もやっていたはずだ。
レナードは首を傾げると、馬に乗りこみ意思の疎通を図ると馬が前足を上げて大きく嘶いた。
「「ほおー」」
アレだ。何処かで見た英雄の絵にそっくりだ。
金髪碧眼の美男子が人馬一体となっているとカッコイイ。
それから少し馬を歩かせてから静止すると、刀を抜いて高々と勝鬨を上げた。
「「「おぉー」」」
先ほどから二言しか言っていない。
と言うかレナードのやつ完全に遊んでやがる。
アリサの脇腹をツンツンと突くと、アリサはこちらを見ずに指先に魔力を通した。
抜刀したままカッコよく走り出したが、その眼前にほんの小さな“コブ”を作り出した。
すると馬がそれに躓き倒れそうになった。
予想した光景にククッと笑う2人の悪い奴ら。
だが期待は裏切られた。
《光の翼》をはためかせて、姿勢が崩れた馬を補助したのだ。
まさに天空の騎士。
ふさぁーとゆっくり羽ばたくと3人の前で停止し、レナードは汗を拭って笑顔を向けてきた。
俗に言うドヤ顔である。
周りからはその光景に歓声が上がり、黄色い声を上げていた女性達は昏倒している。
「なんかむかつく」
ルインさんが珍しくお怒りになられていた。
別にレナードは悪気があってやっていない。
むしろ2人の悪人が手を出して、ヒーローは難なくこなした感じになっただけである。
「ルイン、悪いのは俺たちだ」
「そうだよね!馬に乗れないボクが悪いよね!」
あれ?なんか違う答えが返ってきた?
どうやら悔しかったらしいが、ユウキはカッコつけたレナードが気に入らないのだと思っていた。
「そうさ、努力しない者こそが悪なのだ」
方向修正。
それに涙目になりながらルインが抱きついてきた。
髪からは鼻腔を擽るいい香りがしてきて、ずっとこのままで居たいと思っていた。
するとアリサがレナードと交代して馬に乗り始めた。
あれ?アリサの奴いつの間に訓練したんだ?
そう思っていると、抱き合う2人に馬上から超上から目線で口角を上げてニヤリとしてきた。
「サウスホープで馬に乗れなければ仕事にならないわ!力馬鹿には不要だったようですけどね!」
クソッ!普通に考えれば麦を運ぶのにも使う!
手で運んでたのは俺だけだったのか!?
そう言えば彼女は学園に行くために親の手伝いをしていた時期があった。
なんて言う事だ・・・
ルインの肩を掴むと力強く頷いた。
「明日から特訓だ」
そしてユウキは荷台に荷物を乗せると、レナードに寮の中庭に運ぶように“指示”した。
「出来ないならば仕方がない。僕が手伝ってあげよう」
「あら?私も手伝うわよ?」
些細な抵抗をするも、完全に敗者であった。




