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黒龍の魔力(2)

 ユウキはバルトフェルドが見えなくなると、ルインの方へと歩み寄って行った。


 ルインは黒龍の魔力を譲り受けてはいないので、特にその深淵を覗く必要はないのだが。


「しょうがないなぁ。はい!ボクの胸はここだよ!触りたいんでしょ?」


 言っている事とやっている事は真逆で、上目遣いで恥ずかしそうに突き出した胸部は僅かな膨らみがあり、ユウキは一瞬躊躇ってしまった。


 この性格は嫌いではないが、人前では少し恥ずかしいものがある。


「あーうん、すぐ終わるから」


「全然いいよ、もっと優しく撫でる様にね?」


 これはアリサとは違う意味で困ってしまった。


 スッとルインの胸に手を置くと、ユウキは深く魔力の深層へと潜っていく。



 空色の扉が一つ。


 ユウキはそこで黒龍の魔力を解き放った。ユウキの周りを漆黒の魔力が渦巻いていく。


「何故ここに我を呼ぶか?」


「ここはルイン・エミナスという少女の深層だ」


 黒龍にルインの本質を説明した。


 この子は過去に人の闇に呑み込まれて深く傷ついた事があり、それらに負けず他者を思いやり愛されることに飢えている。


 ユウキは今の黒龍の残滓が《ソウルイーター》で人の憎悪に当てられたため、記憶が飛んだ状態になっていると考えていた。


「この者に委ねよと申すか?我を破った主だから付いているのだぞ」


 ユウキはそれも薄々感づいていた。


 だが黒龍が魔力を託した時、自分の信頼のおける者に未来を託した。

 故にルインであれば、黒龍の魔力を引き受けるに値すると感じていたのだ。



 ユウキが扉に触れるとルインの魔力は飛び出してユウキに近寄ろうとした。

 だが黒龍の魔力が周囲に渦巻いているため、そこからは近寄ろうとしてこない。


「大丈夫。こっちにおいで」


 ユウキは自分の魔力をルインの魔力に絡ませると、ゆっくりと漆黒の魔力に近づけた。


 そして3つの魔力が触れた。



「これは・・・懐かしい。人の優しさ温もりか?」


 暫く3つの魔力は自由に周囲を揺らめいた。


「ナルシッサ・・・赤龍」


 何かを思い出したようだ。


 このままルインと共に居れば、元の黒龍の残滓に戻る事ができるだろう。


 すると漆黒と空色の魔力が互いに絡み合い、深い澄んだ海の様な色へと変化していく。


「あぁ、憎悪を抱く相手に感謝の念と、罪を重ねない裁量を施したか・・・」


 どうやらルインの過去を見ている様だ。

 彼女の闇の部分は、本人が死んだ方がマシと言うくらい酷いものであった。


「ルイン・エミナス、汝は我を求めるか?」



 現世(うつしよ)では依然ユウキがルインの胸に手を置いている。

 ルインに特に変わった様子はないが、アリサとレナードから比べたら少し長い。


「どうしたんだろう?ユウキは何をやっているのかな?」


 アリサの疑問にレナードも首を傾げるが、ルインは少し違った様だ。


「んー?なんか知らない人が語り掛けてくる」


 それだけだと、変質者からのストーキングみたいに聞こえてしまう。

 アリサが口を開こうとしたが、ルインは唇にそっと指を添えた。


「うん、良いけど同情は要らないよ?」


 “我は汝の人としての性を誇り高く感じる”


「大それたものじゃないよ。ユウキが居るから今のボクが居る」


 “だとしたら、ユウキに魔力と未来を託した我の真意は正しい”


「当然!ボクはもう道を違えないよ。素晴らしい世界が見えるもの」


 “汝は力を求めるか?何故に未来を願う?”


「君の笑顔も欲しいな。だってこの世界の笑顔は君達が作った物だもの。

 だから・・・その世界を守る力が欲しい!」


 “ 我が汝の生涯を護り抜こう”


 するとルインから紺碧色の強烈な魔力が迸った。

 それはユウキの真紅の魔力に近いものがあり、天高く雲を突き抜けて舞い上がって行った。


「よろしくね、今は少し休んでて」




 ーーールインの深層ーーー


 突然ルインの魔力と黒龍の魔力が混ざり合い、迸る魔力風が扉から吹き荒れた。


 ユウキは顔を庇って片目でその様子を窺っていると、一つの変化が訪れる。


 漆黒の魔力がルインの扉の横に集まっていくと、黒い扉が徐々に出来上がっていく様子が目に入った。


「これは・・・そうか、真龍の魔力は認めた者に継承されていくのか」


 アリサやレナードには分け与える形で、ユウキにはその力を継承させていた。


 そして今この瞬間、黒龍の意思によりユウキからルインへと継承された。

 恐らく自分の中にはもう黒龍の創造器官は存在しないはずだ。



 ユウキは感謝した。


 ルインの優しさに気づいてくれた事、ルインが受け入れてくれた事に。


「ありがとう、俺も頑張るから黒龍も頼む」


 “是非も無い。

 だが・・・汝がここに居るのは龍の力ではない。まして《点穴》でもそこまでは不可能だ”


 それに赤龍は・・・と言うとそこで口をつぐみ続きを言わなかった。


 それだけ言って漆黒の門は扉を閉ざし、来た時と同様に静まり返った。


「言ってから行けよ!まぁ、ありがとう」


 ここでやる事は終えたのでユウキは現世に戻る事にした。




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