新たな芽吹き
闇バルトフェルドは狼狽えていた。
(奴は葬ったはず。何故あそこにいる?脚が動かん!)
ユウキはゆっくりと着地すると、闇バルトフェルドに向かって一歩一歩をゆっくりと歩み寄った。
尚も咆哮の影響で闇バルトフェルドの脚は竦みあがり動けない。それは自分より遥かな高みにいる強者に対する恐怖であった。
そして闇バルトフェルドの目の前で停止すると、一気に蹴り上げた。
ズガァァァァァン!!
激しく吹き飛んだバルトフェルドは、アリサの攻撃で半壊していた観客席を更に破壊して外壁が崩落した。
ガラガラ・・・カランカラン
そして闇バルトフェルドから漆黒の魔力が激しく膨れ上がり瓦礫を吹き飛ばすと、剣に魔力を纏わせて突っ込んできた。
先程の巨大な魔力を濃縮した、凄まじい斬れ味を誇る剣でユウキを両断しようとした。
だがそれは叶わない。
《ウェポンブレイク》
キィィィン!!
最高の素材と最高の魔力付与を持つ宝石でできた剣は、まるで紙のように半ばから折られて宙を舞った。
しかもオリハルコンで出来た高強度の鎧は、三本の爪で抉られたように裂けている。
だが纏う漆黒のヴェールはそのままである。剣がなくとも俄然斬れ味に問題はない。
「何なのだ貴様は!」
叫びながら闇バルトフェルドは、何度も致死性の高い斬撃を繰り広げてくる。
ユウキは《点穴》により予測回避をしながら、時にいなして隙を作っていく。
「ユウキ・ブレイクだ!」
ユウキは五指に炎を灯すと、拳を握り一気に乱撃をバルトフェルドに繰り出した。
《爆炎乱舞》
スガンッ!スガンッ!スガンッ!
殴るたびに爆発が生じて闇バルトフェルドを怯ませる。
構わず更に魔力を引き上げたユウキのヴェールに変化が訪れた。
龍の尾が作り上げられていき、そこに風を纏わせると一気に上段から叩きつけた。
《テールウィンド》
ズガァァァァァン!!
修練場の地面に大きく亀裂が入り、そこから突風が吹き荒れた。
「これしきで!!」
《レディアントブレス》をノータイムで放ってきた闇バルトフェルドに対して、ユウキは金獅子のナックルに魔力を全力で送った。
《獅子の咆哮》
金獅子のナックルがユウキの魔力を吸い上げ、唸りを挙げながら真紅の烈風が周囲を包み込む。
「終わりだぁぁぁぁ!!」
ユウキは構わずブレスの中に突っ込むと、掌底で闇バルトフェルドの腹部に強打した。
《烈風華!》
バァァァァン!!
放出された魔力により、巨大な真紅の華が咲き誇りバルトフェルドの中で何かが砕け散った。
ブレスによる熱線でユウキの体からは蒸気が吹き出していた。
「はぁはぁ・・・」
闇バルトフェルドは沈黙したまま動かない。
ユウキの《点穴》からも黒龍の魔力が溢れ出している様子は確認されなかった。
そして3人に振り返ると、ニコッとして謝った。
「アリサ、レナード、ルイン。ごめん遅くなって」
それを聞いた3人はユウキの元へと走り出していた。既にユウキの魔力は抑えられていて、ヴェールの変異も解かれている。
「「「ユウキ!!」」」
倒れそうになったユウキを3人が支えた。そのままルインがヒールを唱えて回復してくれた。
魔力を相当消費したので《龍の囁き》で回復できるほど残されてはいなかった。
ルインが撫でるように治癒していると、ある事に気がついた。
金獅子のナックルに亀裂が入っていたのだ。
「ユウキ?これ・・・大事なものだったんだよね?」
それを聞いて腕を持ち上げた瞬間、パキンッと音を立てて金獅子のナックルが割れてしまった。
「あぁ、耐えられなかったか。
でも大切な人達を守る為に頑張ってくれたんだ。グライスも許してくれるさ」
それを聞いて優しい目で同意してくれた。
「ユウキ、何があったんだい?
斬撃とブレスの猛攻から先がわからなかったんだ」
ユウキは自分の魔力生成器官が3つある事。
そして《点穴》で深淵に潜り、バルトフェルドの状況を推察して元々ある2つ目の器官から魔力を解き放った事を告げた。
「だけどそれは賭けだった。闇ギルドの古協会で俺が暴走したのを覚えているかい?」
そう、闇ギルドがまだ正常ではなくルインが暗殺者として活動していた時、事実を知って怒りの余りに暴走してしまった。
あれは制御できる魔力量を超えて行使した結果であるが、それでも普通は人格が奪われるようなことはない。
だがユウキの魔力は特殊で、それは恐らく赤龍の魔力。ナルシッサにこの力は無かったと黒龍は言っていた。
「今まで抑えていた魔力を解放したら、防御には成功したけど案の定暴走しかけた」
そしてユウキは上を指して答えた。
「だから上に飛んで制御に集中したんだ」
半ば呆れたように皆が頭を抱えている。
ユウキの推測ではバルトフェルドがユウキの魔力を《ソウルイーター》で奪った際、黒龍の魔力を吸ったのではないかと考えていた。
自分でも気を付けないと人格を奪われる魔力を、他者が急に手にしたら制御など土台無理な話である。
レナードは顎に手を当てて古協会での出来事を思い返していた。
「なるほど、それでバルトフェルド団長は黒龍の意識の残滓に乗っ取られたと」
ユウキは推測だと付け加えて同意した。




