王都騎士団からの試練(2)
「アリサ!ルイン!レナード!」
仲間の状況に焦りを露わにした。今の状況は芳しく無い。
アリサとルインは《ブラッドリーダー》の鞭を前に攻勢に出られず、レナードも《信頼の絆》により強化されたメアリーを前に、《光の翼》が切り崩されてきている。
「よそ見をしている場合か?それに魔力を使え」
バルトフェルドの言う通り、あまり魔力は使っていなかった。
何故なら彼はダルメシア戦争当時の騎士団長デルタ・ガークスと同じ名で《ソウルイーター》を所持している。
しかしこのまま殴り合っていても拉致があかなかった。
ユウキは団長の剣を一度受け止めて大きく弾き返すと、バックステップで距離を取った。
チラリと3人の状況を見るが、状況は変わっていない様だった。
「もう、引けませんよ?」
ユウキが魔力を解放した瞬間、瞳は真紅に輝き相手を威圧するような魔力風が吹き出した。
「それで良い」
バルトフェルドがニヤリと笑って防御姿勢をとった。
《ファストブロー》
ユウキは一気に加速してバルトフェルドの懐に飛び込み、腹部を強打する。
そのまま回し蹴りを見舞うと、団長は後方へと押し流された。
バルトフェルドの鎧が軋み、彼の肉体はズキズキと痛むが耐えられない程ではない。
しかし片膝をついたバルトフェルドが、突然奇声を上げた。
「うおぉぉあああああ!暴れる!何だぁぁこれは!!」
「バ、バルトフェルド団長!なにが!?」
ユウキの問いかけに答えず悶え苦しむバルトフェルド。
異変に気が付いた皆は、戦闘中であることも忘れてそちらを見た。
メアリー副団長がバルトフェルドの方へと駆け寄ろうとした時、バルトフェルドは急に落ち着きを取り戻した。
「なんだ・・・この異様な魔力は?」
ユウキにだけは見えていた。
バルトフェルドを覆う魔力が真っ黒になり異質さを際立たせている。
顔を上げたバルトフェルドは、やはり正常では無かった。
「ふむ、闘争であるか。我が力の一端を御覧に入れよう」
するとバルトフェルドの騎士剣に黒い魔力が伝播し、大きくそれは伸びた。
天高く騎士剣を構えると、上空へと伸びて雲を突き抜けていく。
「やばい!レナードは《ディバインガーディアン》を騎士団も含めて全員に!
アリサはありったけの防護壁を展開しろ!」
ユウキもさらに魔力を高めて、第二の魔力を更に開いた。
(俺の身体の行けるところまで!)
チリチリチリッ!
ユウキの周囲には雷光が瞬き、真紅のヴェールは鱗のような形状を生成していく。
「ハアァァァァァァ!!」
それに呼応するかのように金獅子のナックルから魔力が放出され、高密度の気流を発生させる。
両手を前に突き出して防御に集中すると、バルトフェルドの一撃が放たれた。
《漆黒の浄化線》
防御と黒剣の両方がせめぎ合い、甲高い音が修練場に鳴り響く。
拮抗した状態かと思われたが、バルトフェルドは空いた左手に魔力を込めると一気に放出した。
《レディアント・ブレス》
「なっ!これは!」
防御壁は崩壊して《ディバインガーディアン》の光の翼も崩壊していく。
その中でユウキの真紅のヴェールだけが活きているが、徐々に押されていくのがわかる。
「チッ!黒龍・・・本気じゃ無かったのかよ!」
死の閃光と漆黒の斬撃。
この二つを護りながら受け止めるユウキにも焦りが生じる。
真紅のヴェールの鱗が割れているのだ。
だが今のユウキにはこれが全力。
「ユウキ!」
アリサは魔法障壁で援護してくるが、生成と同時に砕け散る。
「ユウキ!負けないで!」
ルインも分身でバルトフェルドの背後を取るが、漆黒の魔力風に押し流されて吹き飛ばされていく。
「《ディバインガーディアン!》ユウキは1人じゃ無い!」
ディバインガーディアンはブレスの猛攻を受け止めてくれたが、そう長くは保てそうに無い。
だがユウキは1人では無い。
自分にはこんなにも沢山の人達が支えてくれている。
ユウキは再び魔力の深奥を覗き込む。
(ここは?)
戦いの最中、別の場所にでたような気がした。そこには扉が3つあった。
緑色の扉は全開に開き、赤い扉は半開き、黒い扉は閉じていた。
(これは俺の魔力生成を模したものか?黒い扉はそうか、ソウルイーターで吸われたな)
この赤い扉は恐らく・・
そして意識を戻すと、真紅のヴェールに新たな魔力を注ぎ込んだ。
「赤龍!俺に力を貸せえぇ!!」
漆黒の破壊の渦が、真紅のヴェールを崩壊せんと激しく火花を散らす。
徐々に押されていた真紅のヴェールにやがて亀裂が入り、それは次第に大きくなって行った。
「ハハハハッ!終わりだ!」
闇バルトフェルドの掛け声とともにブレスが更に強大となり、ユウキに対して一気に攻め立てる。
(弱者よ、何故力を望むか?)
ユウキの頭の中に声が響き渡った。ユウキの答えと真紅のヴェールの崩壊は同時であった。
「うるせぇ!全部護る為だ!」
ガシャァァァァン!!
破砕音と共に漆黒の刃はあらゆる物を両断し、ブレスは直線上にあるものを全て破壊し尽くした。




