王都騎士団からの試練(1)
学園の鐘が始業前の予鈴を告げる。
先日受け取ったガラスの手紙はアリサに渡して読んでもらった。案の定彼女の部分に驚き喜んでいた。
彼は不器用なところがあるので、中々そちらには疎いところがある。
そんな話をしていると、バルトフェルド先生が教室に入ってきた。
だが手ぶらだ。
確か学園長からの伝言では、今日のホームルームで物資を渡すと言っていたはずである。
「おはよう!挨拶は先週も今日も変わらない。
だが時代は変革を遂げようとしている」
そこでざっと生徒達を見回すと、バルトフェルドは不敵な笑みを浮かべて魔力を解放した。
それに呼応するように全員が魔力を解放してバルトフェルドの瞳を見た。
「お前達は一年という短い時間で本当によく成長した。Sクラスは伊達では無いという事だ」
それに皆が笑顔になりかけた時、バルトフェルドは更に魔力を引き上げて威圧するような凄みを効かせた。
その顔は先生ではなく、一戦士であるバルトフェルド騎士団長が戦場で見せる物であった。
アリサとレナードを始めとして、クラスメイトのザックとシンシアも顔をしかめて椅子から落ちてしまった。
そのままであったのはユウキとルインの2人である。
3人は膠着した状況のまま1分が経過しようとした時、バルトフェルドが魔力を弱めた。
ザックとシンシアは失神してしまっている。
「ふむ、実戦を経たお前達は流石だな。この先もっと険しい事があるだろう。
これより意識ある者は修練場に集合だ」
それだけ言うとバルトフェルドは踵を返して教室から出て行った。
入れ替わりでアトリア先生が入ってくると、失神した2人を診ている。
4人はとりあえずバルトフェルド先生に言われた修練場に向かう事にした。
彼は何をするつもりなのか、物資はどこに行ったのかと話していると武器庫に着いた。
そこで立ち止まると、レナードが言葉を漏らした。
「僕達はここから始まった。先生のあの魔力と修練場からは恐らく・・・」
それにルインが同意した。
「うん、ボクたちを試すつもりだよね。恐らく本気で」
アリサが一歩前に出た。
「でもここで挫けない」
そしてユウキが扉に手をかけた。
「壁をぶち破るぞ!」
バンッ!
試練への扉は開かれた。
修練場には騎士団が整列していた。
そしてその中央にはバルトフェルド騎士団長が騎士剣を地面に刺して、直立不動で魔力を蓄えている。
「これよりお前たちを試す。王とノイントの許可は得たから本気で来い」
ユウキは頷くとポーチから金獅子のナックルを取り出して装着すると、皆もそれぞれ武器を構えた。
それを確認したバルトフェルドは振り向きもせず、早口で大声を張り上げた。
「副団長マーカスはアルファ・デルタ・エコーのワンアライアンス!
副団長メアリーはブラボー・チャーリーのツーパーティー!
マーカスは敵識別を炎と忍!メアリーは敵識別を翼!」
「Sir! マーカスは炎と忍を識別!」
「Sir! メアリーは翼を識別!」
「散開!」
各員無駄なく敵識別に対して一気に移動を開始した。
その中でも魔導師は後方に位置して時間を無駄にせず防護壁・魔法障壁・強化魔法を展開してくる。
アリサも同時に動いた。
同様に4人に対して強化魔法をかけると、自身に《真・ストロング》を発動する。
「散開しろ!」
ユウキの指示により、4人はそれぞれが邪魔にならないよう移動した。
「ルインは前にでー!?」
ガァァァン!!
ユウキに向かってバルトフェルドが一気に距離を詰めて指示を阻害した。
ガードしたユウキに対して、バルトフェルドはそのまま剣を横薙ぎに一閃するがこれは躱される。
見越していたようにバルトフェルドは大股で距離を詰めると息も付かないほどの連撃を見舞ってきた。
マーカス隊はルインとアリサの2人に照準を絞って攻撃を仕掛けた。
しかし突貫する騎士団が突如として炎に包まれる。
《バーニングサークル》
自分を中心として半径10mの炎壁を発生させたのだ。
アリサはストロングの発動と同時にこの布陣を完成させていた。
ルインも《サイレントミスト》を発動させ、分身体を二体作りサークルに目が行っている部隊を後方から襲撃する。
そしてルイン本体は魔力感知をすり抜けて、副団長マーカスの背後を取り一閃した。
プシュ!
「ぐはっ!こなくそ!」
苦し紛れに背後を振り返りざまに一閃するも、ルインは既に別の騎士団へ襲撃に向かっていた。
「あまあまだよっ!」
するとマーカスが不敵な笑みを浮かべた。
「その若さで本当に凄いね。団長が全力と言うのが分かった」
マーカスは左手を前に出して振り払った。
ただそれだけの動作だったがバーニングサークルは上下真っ二つになった。
マーカスから吹き出した血液は周囲に浮かび、鞭のような形状へと変化して行く。
「《ブラッドリーダー》、これが僕の固有血技さ」
鞭の長さは自由に伸縮し、縦横無尽に駆け巡るためマーカスへの接近が困難となる。
レナードは散開後、すぐに《光の翼》を使用した。騎士団の強さは貴族である彼には分かっていたからだ。
「レナード・ドール、押して参る!」
レナードの背中からは光の粒子が溢れ出し、翼を形成されていく。
メアリー副団長は構わず接近して騎士剣を振るった瞬間、衝撃を受けた。
レナードが抜刀の構えから《清浄なる一閃》を放ったのだ。
ただそれだけで12人の騎士団とメアリーは吹き飛ばされた。
防護壁がなければ彼らの命は既になく、その防護壁も破壊されてしまった。
「くはっ・・なんて一撃だ!ー立てる者は・・?」
周りを見回すが、たったの一撃で騎士団は満身創痍といった様子である。
「くっ!《信頼の絆》を今ここに!」
12人の騎士団は手を前に翳すと、メアリー副団長に全てを捧げた。
「お前達の信頼を嬉しく思う!」
そして騎士剣を正眼に構えるとメアリーは消えた。
ガキンッ!
先ほどとは異なり、高速移動してレナードを捉えたのだ。
光の翼により剣撃はレナードに届かないが、レナードは困惑していた。
速すぎて追いつかないのだ。
しかも光の翼による防御は徐々に崩されつつある。
全周囲に刀を振るうが、レナードの攻撃を完全に見切っており上空へと回避されてしまった。
「くっ!どうする?!」




