ガラスの近況
中に入ると受付のサニーさんが応対してくれた。
「こんにちは。先日は急な対応をありがとうございました」
ユウキはサウスホープの件でアリサ達を商業ギルド長ガルドに相談する様に言ったため、伝言を彼女に残したのだ。
彼女が早口に捲し立てるユウキの伝言をしっかりと受け止めたから、事の始まりを得る事ができた。
それを察したサニーが笑顔で答える。
「仕事ですので慣れております。
相場変動や不作、詐欺対応は戦争ですよ?ふふっ
それでは本日はガルドへの面会いう事でよろしいですか?」
「はい、ただ忙しいのであれば礼だけ伝えておいてください」
先の宣告によりギルド内部が慌しく、商人が次々に行き交い相場の情報や開拓ルートの発見に勤しんでいたからだ。
ユウキもレナードもこう言う活気は初めてであり、若干気圧される物がある。
サニーさんは笑顔を崩さず、頭を下げてはっきりと答えた。
「大変申し訳ありません。
仰られるとおり、ガルドに面会できるのは当面先になってしまうと思われます」
ユウキは直接会ってお礼をしたかったが、時期が悪かったと反省した。
2人が諦めて外に出ようとした時、1人の男が声をかけてきた。
サウスホープの流通を担う人で、名前は確かアルバスだ。
「アルバスさんこんにちは。サウスホープと王都の間をいつもありがとうごさいます」
「いやいや、君のおかげで私も商人として大いに成長させてもらったよ。
事業を立ち上げて、今では王都領内にサウスホープの野菜や小麦を届けているさ」
これには驚いた。
かつては荷馬車一台で少し往復していただけの男が、今では事業主である。
転機はあったかもしれないが、それに乗じて動くこの男も只者ではない。
すると一枚の手紙を取り出してユウキに差し出してきた。
「サウスホープ村長の孫ガラス君からだ。君たちに負けず劣らず頑張っている様だよ」
それを聞いてユウキは目を輝かせた。
ガラスはアリサと共にユウキの幼馴染みだ。彼はサウスホープの発展を願い尽力すると誓って別れた。
「ありがとうございます。読みますね!」
ユウキは手紙を取り出すと中身を読んだ。
本当ならアリサと読みたかったが、一足先に読んで彼女に渡しても良いだろうと考えた。
“ユウキ、アリサへ
旅立ってから一年と少しになるな。元気にやっているか?
俺は今農業研修で隣村のダハーカに来ているが、聞いて驚け・・・俺に彼女ができた。
フェミールと言う名の美しい人だ。こんな人がよく俺と付き合ってくれたと今でも疑問が残るが、心の底から楽しんでいるのがよく分かる。
ダハーカはサウスホープより小さい農村で、例の協定前のサウスホープと大して変わらない。
だけど作っている物が違うんだ。
ここでは葉物野菜が豊富で、丸い葉物や独特の風味を持つ物が沢山ある。これが何故市場に余り出回らないか不思議でならないよ。
それと冬間近に謎の種を拾ったんだが、これがまた中々発芽しないで苦心している。
大きさは小さく黄色味がかった白だ。
何か知っていたら教えてほしい。
追伸
サウスホープに戻れそうにないけどまた会おう。
ガラス”
ユウキは種について考えてみた。
野菜で春先に発芽しなく、大きさと色からすると恐らくトマトだが。
冬の間は発芽さえしないし、大きくなるからそれなりの間隔で植えないといけない。
ユウキは考えを認ためて、アルバス氏に手紙を渡した。
それとダハーカについても少々気になった。
確かに葉物野菜は王都でもあまり見ないのが気になったのだ。
「アルバスさん、ダハーカについてご存知ですか?」
「あぁ、だがあそこは特に何も無いな」
それに首を傾げた。手紙と商人の意見が食い違っている。
何でも商人の間では、ダハーカには何も無いと言われている。
あるにはあるが、葉っぱなどを売り物にしており食べた商人は不味くて食えた物ではなかった。
と言うのが定説で誰も相手にしないのだとか。
恐らく土壌の栄養にも問題があるが、一番は鮮度だ。
芋や小麦粉のように長持ちしないため、王都に持ってきても鮮度が落ちてしまうのだ。
アルバスに渡した手紙を受け取り、そこの部分を追記して再度アルバスに渡した。
「アルバスさん、ダハーカの食材は宝です。
サウスホープからガラスが行っているので、この手紙を受ければ青果市場と食卓は一気に時代の変革を遂げれます。
アルバスさんは最初の一手を打ちませんか?」
アルバスはユウキから受かった手紙の中身をざっと見ると、目の色を変えた。
「君にかけてみよう。時代が変わったら食卓でわかるだろう」
そう言ってアルバスは手を差し出してきた。ユウキはそれを受け、2人は笑みを浮かべていた。
アルバスが喧騒の中に戻って行くと、ユウキ達も獣士が大丈夫だったため寮に戻る事にした。
道中、レナードにガラスがどんな奴だったかを話して聞かせた。
乱暴な所はあったけど優しい奴だったとか、ウォーターボールを使ってアリサと戦いをした事など一杯だ。
以前のレナードならこの話を辛く感じたかもしれない。
だが今はもう吹っ切れた様で、その思い出話を自分も体験した様に楽しく聴いてくれた。




