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獣士懇談会(3)

 グロッサムはと言うと、その巨体から居場所は分かっていた。彼も一緒に飲んでいる騎士団に軽くツッコミを入れて鎧がへしゃげていた。


「酒の力は偉大だな。」


 ユウキは一人呟きグライスを探した。彼はルインとレナードと一緒に丸テーブルに座り飲んでいた。

 一先ずアリサは連れ戻せそうにないので、そちらの席に行くことにして、ルインとレナードの間に座った。


 ミサが先程の件でレナードに礼を言っている様だ。注文も取っていたため、ユウキも一つ頼むことにした。


「ミサちゃん大丈夫かい?俺にもぶどうジュース貰えるかな?」


 ユウキの声に振り向いて笑顔で返事をした。


「はい!あっ、でもさっきの大樽にぶどうジュースが・・・」


「えっ?あれ商品だったの?」



 レナードが気まずそうに聞いた。ミサも若干声が震えているが確認することがある。


「えと・・女将さんは大丈夫?」


「何故か笑顔でした。」


 あっ、これダメなやつかもしれない。

 そう思ったユウキはどうするか思案していると、女将本人がやってきた。


 その手には赤色の液体が入ったグラスを持って、それをテーブルに置いた。


「あのアリサがごめんなさい。」


「良いのよ!これは私からよ。さっきの謝罪も込めてね。」


 それを受け取り皆で礼を言った。まだまだ忙しいので女将はそのまま裏方に戻ると、ミサも他の接客があるのでその場を後にした。



 ユウキがグラスを持つとグライス、ルイン、レナードもそれに習った。そしてジッとユウキの方を見てくる。


 みんな友達、こう言う時に口上は不要だ。


「乾杯!」


「「「オウ!(イェイ!)」」」


 ぶどうジュースで一気に喉を潤し、ユウキも最高の気分になって行った。


 酸味と奥深い渋み、そして葡萄本来の仄かな甘みが後味を引いて最高の旨味を出していた。


「こんな葡萄があるのか・・・!」



 ユウキはまだ知らない。


 それは葡萄を発酵熟成させる事により初めて得られる頂きであると言う事を。

 ライトボディの軽やかな飲み口であるにも関わらず、確かな味わいを見せていた至高の一品である。


 グライスとレナードはこれに唸り、静かに『ぶどうジュース』を楽しんでいたが、ユウキとルインは分からず最高にハイになって行った。



 皆たわいも無い話で盛り上がっている中で時間は自然と流れ行き、ルインがボロ酔い状態になっていく。


「なぁ、酒っていくつから呑めるの?」



 ユウキの問いかけにレナードが一口飲むと、何のこと?と言った顔をしている。


「法なら王都には特にないよ?周りに迷惑をかけなければね」


「なるほどね。父さんも止めなかったわけだ」


 するとルインが話を聞いていないユウキにご立腹となってしまった。


「だからボクはね、ユウキ聞いてるの?」


 そっちはグライスだ。



 ユウキがワインだと気がついた時には既に回っていた。グライスとレナードは面白そうに見ていたのだ。


「ルイン、飲み過ぎじゃないか?」


 するとルインがユウキの肩に頭をもたれてきた。彼女はきっと今まで寂しくて仕方がなかったのだろう。


 それを察してルインの腰に手を回すと、トロンとした眼で上目を向けてきた。


「もぅ積極的なんだからぁ」


 そう言いながらルインはユウキの頬を持つと、唇を合わせてきた。

 完全に油断していたユウキは無自覚に魔力が溢れ出してしまった。


 食堂のガヤガヤとした喧騒を吹き飛ばすかのように、宿屋ポークバーグから魔力同調した真紅と空色の魔力風が優しく吹き付けた。


 それに真っ先に反応したのはアリサである。


 彼女はユウキとルインの下に一目散で駆けつけると、ユウキに抱きついた。


「二人ともずるい!私が先だったのに!」


「それじゃアリサも一緒にぃ」


「えっ?」


 ぷちゅ


 ルインがアリサの顔を引き寄せると、ユウキの唇に押し当てて二人を抱きとめた。


「!?!?」


 ケタケタと笑うルインを尻目に、魔力は更に同調されていく。これまた真紅とオレンジの魔力が合わさり、美しい色合いの風が流れた。


「もう、ばか」


 アリサは照れながら崩れていないポニーテールを直していると、裏方から女将がやって来てユウキの所へ足を運んだ。


「ユウキさん、二人ともあんたを心の底から信頼しているよ。手を離さないでね」


 ユウキは頬をポリポリと掻きながら若干照れ隠しをして答えた。


「はい、それと呼び捨てで良いです。義母さん(かあさん)


 それを聞いて目を潤ませた女将は、目頭を押さえながら裏方に戻って行った。


「女殺しのブレイク!」


 ガルシアがレクサスとゲラゲラ笑いながら、よく通る声で言ったものだから冒険者達は大盛り上がりである。



 やがて女将がユウキの元へとやってきた。


「ユウキ、お楽しみの所悪いけど、あなた達はそろそろ帰ったほうがいいわ」


 そう言われると、おそらく深夜近くになっている気がしてきた。そして女将がユウキに包帯の束のような物を渡した。


 端を持つとクルクル回りながら床を転がっていき、そこに書いてある文字が見えた。


 チーズの燻製 3kg 1金貨

 豚肉ブロック 10kg 3金貨

 焼酎 28本 4金貨

 ・

 ・

 ・


 レシートだ。

 こんなに長いのは初めて見た。


 ユウキはクルクルと巻き取っていき最後まで来ると、値段を見て吹き出してしまった。



 店内備品の修繕費 10金貨


 小計 34金貨2銀貨


 チラリと女将を見ると営業スマイル炸裂だ。おそらく断ったら鬼の形相になるに違いない。


 しかしこの量はおかしい。こんなに飲み食いしていないぞ。


「あの、義母さん?会計はいいんですが・・・この量はなんでしょうか?」


「あら?親子なんだからそんなに畏まらないでね。

 獣士はお金を持っていないから、ユウキに立て替えておいてって・・・レクサスさんがね」


 ユウキはバッとレクサスの方を見ると、ガルシアと大爆笑して「ここは我が持つから好きに飲め!」とか言ってやがる。


「こぉんの、蜥蜴がぁぁぁぁぁ!!」


 ユウキは天井スレスレで宙返りをすると、冒険者を飛び越してレクサスのど頭に踵落としを見舞った。



 顔面キスパート2



 ケツを上げて沈黙したレクサスの耳元でユウキが何かを囁くと、レクサスの耳から尻尾の先までがブルッと震えた。


 ユウキは女将の所に戻り、この後の分も含めて支払うと言い50金貨を置いた。



 女将は「毎度贔屓に!」と言いながら鼻歌を唄いながら帰って行った。


「俺達が金持ってるの知ってるからなぁ。でもまぁ、悪くはないかな」


 そう言って周りを見渡した。

 起き上がったレクサスを数人の冒険者が支えて座らせ、グロッサムは特大ジョッキを騎士団と飲み比べしていた。


「グライス、それじゃ俺達は帰るね。リン達によろしく伝えておいて」


「あぁ、ありがとうユウキ」


 そう言って2人は握手を交わした。


 それからも獣士達は人と獣人の垣根を越えて楽しみ明かした。

 ユウキの理想的な光景が幻影とならないよう、これからが踏ん張り時である。彼らはきっとこれからも躓くだろうが、再び立ち上がる。


 そんな気がしていた。



 ルインは寝ているため、ユウキが途中までおんぶして帰ることになった。女子寮へはアリサが背負う。


「レクサスに何を言ったの?」


 レナードは獣人があんな挙動をしたのを初めて見たと言っている。


「えっ?エミリーさんに言うぞって」


 エミリーとは何者なのだ。あのレクサスをここまでさせるとは驚きである。



 ところで寮の門限?そんなものはきっと王様がなんとかしてくれているはずだ。


 そう思って帰った矢先に寮長ご乱心と言う締まりのない結末を迎えてしまったが、どこか楽しい4人であった。




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