獣士懇談会(1)
一向は外に出ると第一門を通り抜け、寮のある敷地へと出てきた。
学園長室では長い時間を過ごしていたので、既に日が暮れている。
「ユウキはグライス達の所に行くんでしょ?」
アリサの問いかけにユウキはグライスとの約束を思い出した。色々と考えていたためすっかり忘れていたのだ。
「しまった、すぐに向かわないと!」
ユウキは急いで走り出すと後から付いてくる影がある。
ユウキは振り向くと遅いから自分だけでいいと言うが、相手は止まる気配を見せない。
「ユウキがボクを守ってくれるから大丈夫!」
ルインはニヤリとして言い返すと、後の二人も追いついてきた。
「水臭いことはなしだよユウキ。」
「そうよ、今日は滅多にない日なんだから楽しまないと!」
アリサとレナードも笑顔で告げると、諦めたユウキが「行くぞ!」と言い冒険者ギルド近くにある酒場まで急行した。
会場は一目でわかった。人が入りきれず外にまで出ていたからだ。
獣士がいなくても至る所で呑み明かしているが、取り分け人が多いのはポークバーグである。
ユウキが店の扉に手を掛けようとした瞬間、扉が一人でにスーッと開かれた。
「いつから自動ドアに?」
3人はユウキが言った『自動ドア』と言う単語がわからず考えていると、突然店内から人が飛んできた。
ドサッ!
「わお!ダイナミック退店!」
ルインのボケに突っ込む間も無く、更に人が飛んできた。
ドサッ!ドサッ!ドサッ!
「わお!三名様追加だっ!」
「「「・・・」」」
そこでパンッパンッと手を叩く音が店内から聞こえてきた。見ると女将が威圧を放ちながら、店から出てくる所であった。
「喧嘩なら他所でやりな!私が居るうちはお客様にご迷惑をおかけしないよ!!」
そこでユウキ達に気が付いた女将が鬼の形相から一転、天使の様な笑顔に変わった。
「ユウキさん、アリサさん、レナードさん来てたのね!それと貴方は・・お友達かしら?」
ルインは柔らかい表情でユウキを見た後、女将に対して姿勢を正してこう答えた。
「はい、ルイン・エミナスです。将来の夫がお世話になっています!」
女将はユウキの方をバッと振り向き、有無を言わさず胸ぐらを掴むと店内に背負い投げをした。
ドガァァァン!
「わお!ご新規様ご来店!」
アリサとレナードは一瞬呆けてしまった。と言うより一連の動作が速すぎて目で追えなかったのだ。
パンッ!パンッ!と出てきた時と同じ音を鳴らすと、鬼の形相でユウキの後を追った。
投げ飛ばされたユウキはカウンターを破壊して止まった。そこでカウンターに座り酒を飲む一人の男が声を掛けてきた。
「ようユウキ、もうちっと普通に入ってこいや。
俺でもこの店ではそんな事できねぇ。」
ユウキはひっくり返ったままの姿勢で、その男に挨拶を返した。
「ガルシアさんこんばんは。女将に投げられました。」
それを聞いてガルシアは目を白黒させた後、盛大に笑い出した。
「ガハハハ!あれか、ミサちゃんを夜な夜な連れ込んだのか?」
「そんな事試すのは、ガルシアさんと父さんぐらいです。」
それを聞いたガルシアは驚いた。そこで女将がユウキの首根っこを持って持ち上げため、会話はここで中断された。
「女の子を泣かせるなんて解せない男だね!」
焦ったアリサが女将のもとにやって来ると、誤解だの訳があるだの説得するも、全く言う事を聞いてくれなかった。
「ユウキも一端の男になったな。きっと天国のボストンもこの光景に喜んでるさ!」
「まだ死んでません!」
アリサのツッコミに対してガルシアは酒を一口飲むと、哀愁漂う大人のオーラを出していた。
「俺達はあの時死んださ・・・」
格好を付けているが、ようは宿屋の年端も行かない娘を冗談でナンパして、その親に何か怖い事をされたと言う話だ。
ガルシアは当時を思い返しているらしい。手に持つグラスは震え、それを見せまいと誤魔化しているのだ。
「苦しいデス・・・」
ユウキの漏れた言葉を聞いた女将は更に締め上げた。
「まだ喋れたのかい。清純な女の子を遊び半分の玩具にする奴は私が許さないよ!」
女将から静かに魔力が溢れ出していた。ジワリジワリと体から溢れ出す魔力は、無駄なく身体の表面から離れずとても一般人とは思えなかった。
しかもユウキは魔力が使っていないとは言え、さっきから女将の手を退けようとしていたが一向に動かないのだ。
そこで奥の席から助け舟が出された。
「女将はそれ位で許してやってくれ。こいつは自然と好かれやすい性格なんだ。俺たちにもな。」
そう言いながら食堂から出てきたのはグライスだった。朝の魔力同調は見たことも無いほどに強力で美しかったと言うと、女将はやっと納得してくれた。
「まったく!後で魔力同調を見せておくれ!」
そう言って女将はカウンターを片付けだしたのだ。ユウキは何も言わずに一言「ありがとう」と述べ、片付けを手伝うと、3人も続いて手伝いだした。
階段の隅では一人の少女のガクガクしながら覗いていたが、誰にも気付かれることはなかった。




