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ダルメシア戦争の正史(3)

 開幕は第一陣の帝国軍1万と衝突する。元々人より強力な魔物たちを相手にしてきたため膠着状態を保つことができたが、帝国の波状攻撃により徐々に押される事になる。


 だがここで伏兵として森林で待機していたナルシッサが、5,000の魔導師団と共に戦術級神技魔法にて後方に布陣する本陣に急襲を仕掛けた。


 残念ながら行使した魔法や方法の詳細は文献に残っていない。



 結果として帝国兵に大打撃を与えるも指揮官を落とす事に失敗する。そのため相手の戦力を過小評価していたスワロフ少佐は波状攻撃を取りやめ、伏兵とトージの部隊に突撃を敢行。


 スワロフは《硬質化》と言う固有血技を持ち、通常戦では彼に並の武器では傷一つ与える事はできない。

 そのため彼は一人突出して敵を薙ぎ倒し、士気を上げようとした。


 ここが勝負の分かれ目となった。



 トージは指揮官の突出を確認すると、《光の翼》を使用して森と荒野の間に断崖ができるように斬り伏せた。


 光の粒子は全ての物質を分解し、荒野には巨大な断崖ができあがった。

 そしてスワロフ少佐はその一撃により歴史の舞台から消える事となった。



 なぜ荒野で渓谷なのかと言うと、この戦いで直線距離5km、幅200mにおよぶ渓谷が出現したため人々からイーストホープ渓谷と呼ばれるようになったからだ。

 

 残存兵は逃げる様に東に向かい撤退。そして義勇軍も戦果の報告に王都へと帰還した。


 この後トージは英雄として王都で勲章を受賞し、伏兵に置いたナルシッサは右腕と称される様になる。



 帝国とは膠着状態になるが、ナルシッサが部隊を率いて西側の聖都領へと進軍した。


 この理由について触れた文献はないが、正史上は聖都の動きを察知した王都が聖都に布告させる為と言われていた。



 聖都は防備を整えつつもナルシッサの出方を伺っていた。だが聖都の南にあるモリス森林にてナルシッサは一向に動かなかった。


 これを受けて本隊が王都からの来ることを懸念した教皇は、先の『イーストホープ渓谷戦』で見せた魔法を考慮し中立の立場を崩して王都に対して聖戦を布告した。



 聖都はまずナルシッサの部隊を殲滅せんと、教皇の固有血技である《結界》を使用して守りを固めモリス森林のナルシッサ部隊を包囲した。


 この《結界》は計り知れない強度を誇り、普段は聖都全域を守護している。だが守護範囲を広めると強度が低下するため、大部隊にかけた結界は魔法障壁より少し硬い程度にまで落ちていた。


 窮地に陥ったナルシッサは《点穴》により包囲の穴を突いて潜り抜け、各個撃破の後に逆包囲すると言う前代未聞の戦略的勝利を収める。


 聖都が状況に気づいた時には既に遅く、ナルシッサの部隊は上級魔法などを行使してモリス森林を離脱。王都への帰還を果たした。



 この戦いは聖都により『モリス森林の無血戦』と呼ばれ、両者に被害なく事が済んだことに神の奇跡と崇め、信者の士気を大きく向上させる事になる。


 当然ながらナルシッサの目的や達成度は不明である。

 帰還したナルシッサは王都から敵意を炙り出した事に加え、少数部隊で敵を撹乱して勝利した事で凱旋された。そして固有血技の発現により名が与えられた。


 ナルシッサ・ブレイクの誕生である。


 一族継承する固有血技は、初代発現者には名が与えられる。

 両親が固有血技を持つと確率論から子は継承しないが、新たに別の固有血技を発現する可能性がある。



 話を戻すが、ナルシッサが帰還した後直ぐに動いたのは帝国であった。

 国境近くのハーミットを拠点としていた本隊6万の内、冒険者を含めた4万の部隊を進軍させた。


 残り2万はハーミットに残り、防衛と本国からの補給線維持に努めた。


 だが土地勘が無い中での進軍は容易ではなかった。村や街を見つけては襲撃してその場で補給を得た。だが時に獣人と鉢合わせることもあり、4万のうち非正規兵5,000が道中に倒れた。


 これは先のスワロフ少佐の時も同様であったが、彼らは中規模都市を避けての進軍であった。


 そして今回は王都に最も近い中規模都市のダルカンダに到達した。ここで帝国側の指揮を取るヴァルジェ・サーマス大佐がダルカンダを単騎で陥落。


 彼自身は固有血技の《エア・ドミネーション》を有していた。これは如何なる座標においても、指定した空気を調節できる。

 簡単に言えば空気抵抗を変化させれば矢は届かず、斬撃を飛ばすことも可能。気圧や空気密度を変えれば暗殺にも使用できる。



 更にここで帝国側に運が味方をした。


 聖都サンクチュアリによる王都ダルメシア本国襲撃である。


 聖都は教皇本人が出陣し、2万の聖騎士を率いて王都に進軍を開始した。


 数は少ないがこれは教皇の《結界》を考慮しての精鋭であった。王都軍は《結界》に傷一つつけられず王都までの進軍を許してしまったのだ。


 ナルシッサの活躍により、王都は聖都の電撃作戦を回避する事ができたとして歓迎していた。

 だが予想以上に強力な教皇の固有血技を前にして、動揺を隠せずにいた。


 しかも東からは帝国が再度の侵攻により王都より80kmしか離れていないダルカンダを僅か1日で陥落させたのだ。


 この後ダルメシア戦争の名を示す戦いであり、王都ダルメシアにとって最も過酷な戦い『王都ダルメシア防衛戦』が勃発する。




 ーーー隠し執務室ーーー


「ここで一息入れよう。ユウキ君はこの後どうやって打開したか考えてみてはどうかな?」


 学園長は長い歴史を掻い摘んで説明してくれた。ダルメシアは如何にしてこの窮地を乗り切ったのか?


「本国防衛には騎士団長と上級騎士団、トージやナルシッサも居るんですよね?」


 学園長が頷くと、お茶の準備にアリサとルインが呼び出されて学園長室まで戻って行った。


 レナードがユウキを見るとキラキラした目で見ている事に気が付いた。


「レナード?」


 ハッとしてレナードは慌てた様子で手を振った。どうやら何かを期待してユウキの答えを待っていた様だ。

 レナードは正史を知っているので答えることはできない。


 聖都は2万の聖騎士と絶対的な防御力を誇る《結界》。

 帝国は3万5000で冒険者と混成、指揮官は《エア・ドミネーション》を持ち中規模都市を僅か1日と単騎で陥落させた。


 王都はトージとナルシッサが居るとして、ここまでの話で騎士団長の戦力は不明。



「レナード、バルトフェルド団長の固有血技ってなに?」


 レナードはニヤリと意地悪そうに笑うと教えてくれた。


「団長は《ソウルイーター》だよ。いつも教えてもらっているユウキに聞かれると嬉しいな!」


「俺達はいつもギブアンドテイクさ。」


 そう言って今聞いた情報を思案した。《ソウルイーター》は魂でも奪う?それなら敵兵を騎士剣か魔法で倒せばいい。



 名前からじゃ今一つピンと来ないで考えていると、アリサとルインが紅茶を持って帰ってきた。


「学園長が間違っても本には溢さないでって言っていたわ。」


 ユウキは考えながら角砂糖を入れて頭に糖分を入れた。




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