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王の宣告

 リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン

 

 城に設置された巨大な鐘からゆったりとした物凄い音が響き渡った。広大な敷地の城下町全域に聞こえるその鐘は、王族の祝い事か城門前集合の合図であった。

 

 また緊急事態でも使用され、その際は『カランカランカラン』と言うような早い周期の打ち方に変わる。

 

 

 民衆が城門前に集まるまで大凡三十分程度の時間を要するため、その間に王は正式な衣装へと着替えることとなる。

 

 程なくして着替えを済ませた王が出てきた。王冠を被り赤と白を基調としたマントを背負う事で思わず跪いてしまうような威厳が漂っていた。

 

 金色に宝石が散りばめられた杖をついて演説台があるバルコニーの方に向かって移動を始めた。ユウキたちもそれに習って歩いていくと先のほうで外の陽光が照らされる光が見えてきた。

 

 近づくにつれて外の様子が伺えるようになり、青い空が一面に見えていたその場所は徐々に下のほうまで見えるようになってくる。

 

 やがて人が通れるほどのガラス製の扉に近づくとその全貌が見えてきた。


 そこから見えたものは圧巻の一言。



 城下町全てを一望できるその場所は、王が演説をするのには最高の舞台であった。そして王が演説台に立つと、民からは割れんばかりの歓声が轟く。

 

 ダルメシア王万歳!王に祝福を!など様々な声が随所から響き渡っていた。これを聞くだけでも現在のダルメシア王が国民に愛されているというのがよく分かる。

 

 王は杖を持ったまま両手を掲げると更に歓声があがる。そして何も言わずに自然と静まり返るのを待つと、魔法で拡張した声を張り上げた。

 

「王都国民諸君、多忙な時間を感謝する。そして昨日から続く厳戒令に従ってくれたこと嬉しく思う」

 

 厳戒令という言葉を聴いて何人かが不安そうな顔をした。獣人が来るという情報は前もって知らされていたがやはり自分の家の前の通過していくのは恐怖心を煽られるものがあるのだ。

 

「今朝方よりゴブリン、オーク、リザードマンの3種族と対談を行った結果を皆に知らせようと思う。」

 

 王は一拍おいて皆が緊張した面持ちでいるのを確認すると、両手を広げて告げた。

 

「王都は友好的な獣人を獣士と位置づけ、獣士との友好かつ親密な関係を築くことをここに宣言する!」

 

 これにはざわめきが起きた。昨日まで全て敵だと思っていた獣人に友好的な側面があり今後は仲良くしようと王が宣言したのだ。

 

「だが我々に被害を及ぼす獣人がいるのも事実。ここは従来通りであるが、行く末は変わることを切に願わん。」

 

 そして王は振り向きグライス、グロッサム、レクサスを呼び寄せると一言述べるように告げた。

 

 

 トップバッターはレクサス。彼はこういうときはやってくれる奴だと信じたい。台に立つと右腕を思いっきり振り上げた。

 

「リザードマンのレクサスだ!正直に言うと人族に対して敵愾心が強いと言える。

 だが今日の対談で全てがそうでは無いと知った。故に応えよう、我等も平和への礎を!」

 

 皆呆然としている。というより王都の人間はリザードマンを見たこと自体初めての者も多い。

 

 レクサスは台から降りてグロッサムと交代すると、台に登らずともその全容が国民から一望できた。

 

「オークのグロッサムだ。種族全ての総意ではないが我々は人と友好な関係を築くからよろしく頼む。」

 

 そう言って巨体を折り曲げると頭を下げた。


 オークのグロッサム。これは王都の国民でも良く知る獣人であった。その彼が自分らの眼前で頭を下げているのは想像に絶するものがあった。

 

 

 最後にグライスが台に立つと皆が騒然とした。この王都で最も知られる獣人であり、グライスは王都の冒険者ギルドでもDからSSクラスで設定される危険度の中でも、最高位のSS危険獣人として位置づけられていた。

 

 台に立ったグライスは王都の人族を一望すると、何も言わずにただ立ち尽くした。民衆からは首をかしげて「どうした?」といった声が上がってくる。

 

 グライスは人を見れば攻撃し、人もグライスを見れば攻撃してきた。何人の人族をこの世から葬ったのかさえ分からない。


 だが自分は今ここに立っている。そして自分の声を聞こうと耳を傾けている。これが如何に困難で今まで何度も挫折した事であったか。

 

 グライスは自然に涙が流れた。

 

「オレの話を・・・聞いてくれ。」


 誰も拒絶しない。誰も自分を殺そうとしてこない。


「16年前に王都騎士団によって森と家族を焼かれ、またこの地に戻ってきた。そして今日やっと円卓につくことができた。」

 

 グライスは過去にあったこと、そして今自分達が何を思って生きているのかを王都の国民に向けて発した。


 それを聞いた国民は自然と涙がこぼれた。

 

 当然である。

 

 突然家族を惨殺されて住まう地を追い出され、別の土地ではその地に住まうもの達から煙たがられた。そして戻ったこの王都領でやっと安住の地を手に入れられたのだ。

 

 危うく直ぐにまた人族との不和が起きるところだったが、それは二人の少年と少女によって食い止められ、逆に共存という道を開くことができた。


 それがサウスホープであり、ここにいるアリサとユウキだと告げた。



「オレ達は戦いたくない。だが話し合う前に互いに殺し合いを始めたが、それは間違っていたのだと感じる。皆はどう思う?」


 グライスは頭を下げない。ただ前の国民を凝視してこの回答を待つ。


 たが皆は何と言っていいか分からない状態であり、たまにグライス達の悲しい過去にすすり泣く声が木霊する。



 ユウキは前に出るとグライスの横に立ち、手を取ると優しく魔力を込めた。


 すると皆が良く知る光景が広がった。


 ユウキの魔力がグライスの魔力と合わさり、一陣の魔力風が優しく民衆を満たしていく。


「これは・・そうか」


 魔力同調。


 真に愛する者同士が相手を思うと起きる現象である。愛には様々な形があり、異性への愛情があれば親友への愛情もある。



「信じて。」



 静寂。


 これを破ったのは王の拍手であった。


 それは民衆に広がりやがて聞いたこともないような歓声へと変わっていった。


「時代は変わります。まだ好戦的な獣人もいますが、これから獣士と努力していきます。」


 そしてユウキは一気に魔力を高めると『龍の囁き』を放った。それはグライスの魔力と融合して王都全体を包み込むようにゆったりと上昇して行った。


 サウスホープ平原で起こした《龍の囁き》を見たものは王都でも多い。それを目の当たりにして自然と笑みが溢れてきた。



「彼等を受け入れてくれますか?」


 すぐに返答があり、冒険者と思われる男が声を張り上げた。


「当たり前だ!今度酒場に来いよ!」


 それからは皆思い思いの言葉を口にして上空に打ち上げられていく。

 それは奇跡であり時代の変革を知らせる狼煙となった。


 この日から王都の人々にグライス達への偏見が消えていくようになる。



 完全に消えるのはまだ時間を要するが、今はそれで十分であった。



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