新たな祝福
会談を終えて一段落着いたところで、立っていた者達もそれぞれ姿勢を崩して席についた。
バルトフェルドとガルドはグライスの横に座り今後のあり方について詳細な話を詰め始めた。
「騎士団長のバルトフェルドだ。直接会うのは初めてだな。」
そう言われて過去を思い返すが会敵した事はなかった。
「グライスだ。お前達とは幾度か闘争を繰り広げたが貴様自身とは対峙した事はないな。」
グライスが見るにこの男もまたとてつも無い強さを感じる。だがそれが異質な物で怨嗟のような轟を本能が感じ取っていた。
「名前で呼んでくれ。これからはそう言った間柄になりたいと思うよ。」
「承知したバルトフェルドよ。外交させたい者達がいるのだがそれはユウキに言えばいいのか?」
先程の話でユウキの推薦から審議に入る。グライスは城下町にゴブリンを入れる事で馴染んでもらいたいと考えていた。
最初はダンゾウの部下が適任であろう。武力以外の解決法を知っている者達なのできっと上手くできるはずだ。
「俺に言えばいいよ。街に入って問題ないやつかは俺なら分かるしね。」
そう言ってユウキはアリサ達の所へ向かった。3人は緊張が逸れて疲れた表情をしていた。
「ありがとう、背中を任せる友達がこんなにも力をくれるって初めて知ったよ。」
それぞれ照れたような顔をしているが、そう言われるとやはり嬉しいものだ。
「まさかここまでなるとは思ってなかったわ。本当に無事でよかったわ・・・ユウキ。」
アリサはユウキに抱きついた。ユウキもアリサを抱きとめると頭を優しく撫でた。
その場所には暖かい時間が流れて、若い二人の邪魔をしようとは誰もが思うはずはなかった。
が、一人いた。
「ボクには何もないのかな?」
ルインはいつもなら問答無用でちょっかい出してくるのに今回は大人しくふてくされていた。
ユウキは苦笑いしながらルインに感謝した。まだ出会ってから日が浅いと言うのに本当に彼女は良くやってくれた。
「ルインにはさっきのお礼があるだろう。」
そっぽ向いたまま横目でジトっと見てきたルインは、顎に人差し指を当てて何やら考え始めた。
「それじゃ〜今晩付き合って!」
ルイン様爆弾発言。
アリサとレナードだけでなく、その場にいる全員が一斉に振り向いた。
「待て待て待て!物事には順序があるだろう!」
ルインがニヤリと笑った。とてつも無く嫌な予感がする。
「順序っていうならOKって事でいいのかな?ボクはユウキが好きだよ!」
ルイン様爆弾発言パート2
「いやまぁルインは可愛いし嫌いじゃないが・・アリサ?痛いよ?」
アリサがユウキの横腹をつねっていた。ユウキは二人の間に揺れ動き右往左往していると、ダルメシア王が面白そうに笑い出した。
「くはは!名だたる獣士を従えてきたと思ったら今度は我が眼前で二股騒動か!」
アリサとルインがちょっと畏ったようになった。流石に場を弁えるべきだと今更ながらに痛感しているようだ。
「何も問題はないぞ?王都ダルメシアは愛に溢れてあるから重婚は罪にならないからな!」
それを聞いてユウキはアリサとルインをそれぞれ見た。
アリサは栗毛をポニーテールにした面倒見の良い幼馴染の可愛らしい女の子。対してルインは小柄で綺麗な銀髪を肩まで伸ばした元気の良い子でとにかく一緒にいて楽しい。
ルインは闇ギルドの関係で結果的にユウキが、彼女の人生を助けたとも取れる行いをした。
それはルインにとってかけがえの無いもので伴侶として彼以外は考えられなかった。
幼少期から愛とは無縁の人生を送ったルインはユウキに初めて恋をしたのだ。
それに気がついたのはアリサと一緒にいるユウキを見ていると何か理由をつけて一緒にいたくなった。離れたくない気持ちが自分を支配している事に気が付いたのだ。
「アリサ、君は俺にとって幼馴染でずっと昔から好きだったんだと思う。これは試合で言ったことと変わらない。」
「ユウキ・・・」
そして今度はルインの方へと歩み寄って行った。珍しく視線を合わさず下を向いている。
「ルイン、本気なんだね?俺はこれから命をかける事が沢山あるから悲しませるかもしれない。それはー」
「そんなことは分かってる!だから・・ボクを一人にしないで・・あなたを守らせてよ・・・」
ルインは泣きながらユウキの胸に飛び込んで何度も何度も叩いてきた。
ユウキは叩くルインの手を止めるとそのまま唇を合わせた。
「ーー!!」
ユウキの魔力がルインの魔力と同調していく。真紅と空色の魔力が重なり合い静かに部屋を満たしていく。
やがてユウキはルインの唇から離れると誠意を込めて笑顔で告げた。
「これが俺の答えだよ。」
一部始終を見ていたダルメシア王が感嘆の声を上げた。
「素晴らしい・・・あそこまでの魔力同調は初めて見た。」
ノイントも驚いたようにそれに続いた。魔力同調は本当に両者が愛し合うときに見られる現象であった。
ノイントの場合は固有血技で強制的に実行する事ができる。同調した時の魔力は一人ずつで行使した時よりも指数関数的に強大なものになっていく事がわかっている。
「ありがとう・・・愛してくれてありがとう・・・」
パチパチパチパチー
周りからは拍手が上がった。アリサを見ると屈託のない笑顔で拍手を送っている。
「ユウキ、私とルインを離したら承知しないからね?」
涙を拭いながらルインが答えてくれた。
「アリサごめんね。ボクはもう自分に嘘をつきたくなかったんだ。」
そしてアリサはルインと抱き合った。彼女達は彼女達で友として最高の友情を芽吹いていた。
「それにしてもレナードはどうなんだ?」
レナードは話を振られて叩いた手を止め硬直してしまった。レナードにそっち系の話になるといつもはぐらかしてしまう。
「僕は自由になれないからね。」
この件で初めてまともな応対が返ってきた。
レナードはドール家の三男であるが城塞都市を治める由緒ある家系だ。自分で決めた人を連れて行っても叶わないと割り切っているのだろう。
「自分から進まなければ自由は勝ち取れないぞ。」
グライスはそう言ってレナードを後押ししてくれた。レナードはそんなグライスの気持ちを察して一言だけ述べた。
「グライスが言うと重いね。」
「ガハハ!何かあれば言ってくれ。力になるぞ?」
レナードは周りを見ると皆優しい表情をしていた。そこは自分に良くしてくれて敵意を剥き出す貴族の視線とはかけ離れたものであった。
「あぁ、僕はこの街に来てよかった。」
王は心底嬉しそうに静かに聞いていた。そして立ち上がるとパンと手を叩いて皆を振り向かせた。
「ではこれより民に事情説明の演説をする。皆は付いてきてくれ。」
そして王城の鐘の準備に使用人達が忙しそうに動き回っている中を、王に続いて移動し始めた。




