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王都獣士協定

 ユウキはレナードとアリサを見ると、二人とも頷き返した。


 特にレナードは個人的に家柄から関係性が深く、荒らされる危険性さえあった。


 だがあそこには恐らく自分たち以外には入れない。仮に入れたとしても書かれている文字は日本語のため、この世界では解読不能なはずだ。



「地下ダンジョンに授業の一環で入った際、本来無いはずのボス部屋へと到達しました。この場所で黒龍と戦闘になり隠された部屋へと誘われました。」


 王はただ頷いて返事をした。


「そこはバルトフェルドとノイントから報告を受けている。続きがあるのだな?」


「はい。部屋は封印されたトージの書物がある書斎でした。書物と黒龍からの情報で、ナルシッサの事と平定が終わっていない事実を知りました。」


 王は目下自分の膝下にそんなものがあるとは思っていなかったようだ。ましてトージはドール言う姓を受けて戦後に城塞都市に移っているので、完全に棚からぼた餅状態である。


「あの戦争で何があったと言うのだ?」


「全てを読み切る前に出ましたので、俺の知り得る情報のみを伝えます。」


 それからユウキは当時のダルメシア王が《人心掌握》を利用して、帝国兵をダルメシア側に攻撃させ戦争を起こした事を説明した。


 もう一つはトージとナルシッサがダルメシアに付いて、ナルシッサは聖都と事を構えた事。


 そして人族の戦争とは別の脅威が去っていないため、黒龍を残して子孫を書庫へと誘う鍵となった事を話した。



「それが本当だとしたら封印されたままの方が良い。それを口実に数百年ぶりの戦争になるぞ。」


 グライスの言い分は最もであった。


「でも大丈夫だよ。あの本は誰にも読めないから。」


 そこでアリサが意味不明の文字だったと思わず大きな声を上げた。直ぐに熱が覚めて下を向いてしまったが。


「ふむ、ユウキにしか読めないのであれば問題ないが、なぜ読めたのだ?」


 ユウキはしまったと思った。確かな疑問だが痛い所を突いてくる。


 簡単な配列だったと言えばアリサが解読出来なかった事の説明がつかないし、昔に読んだ本にあると言えば他にも読める人物が現れる可能性がある。


「それはまだ分かりません。自然に読めましたがブレイクの血が関係あるかもしれませんね。」



 王はジッとユウキを見ている。


「であるか。答えの無い問答をしても仕方がないな。」



(セーフ!)


 そこでノイントがあれこれとブツブツ独り言を言っているのに気がついた。彼も何か知っている事があるのだろう。


「学園長は気になることがあるならば話してみては?ここは腹を割りましょう。」


「・・・あぁ、私の家系は戦後の学園創設から関与している。初代はこの学園に次なる備えがあると記録されているが、何の事か今までさっぱりだったのでね。」


 ユウキはあの時部屋に何があったかを思い返していた。所狭しと並べられた書棚、帰還用の魔法陣・・・魔法陣?


「あっ!魔法陣だ。」


 先にレナードが答えに行き着いたようだ。


「書斎には帰還用の魔法陣ともう一つ、起動しない魔法陣がありました。まだその時ではないと。」


「なるほどな。これについては追って分かった事を共有しよう。歴史学者共も喜ぶだろうな。」



 ダルメシア王はパンと手を叩くと第一回人獣会談のとりまとめに入った。今後の方針としてはこの様になる。


 ・帝国と聖都にユウキが獣人との共存を説く。


 ・獣人は大陸の同族をまとめ上げる。


 ・王都は内部腐敗の一掃と冒険者への指導。


 ・仮想敵を魔族に設定し共闘する。

 ただしこれ以外の部族間闘争には関与しない。


 ・通信用魔道具を王都が貸与。



 次に協定について話し合いが行われた。


 それは王都獣士協定と呼ばれ、正式に表舞台へ出た人族と獣人初の協定となった。ここから人族と友好的な関係を築く獣人を獣士と呼ぶようになる。



 ー王都獣士協定ー

(1)王都と獣士は双方不可侵。

(2)王都が特に認めた者は王都への出入りを認可。

(3)獣士のギルド登録の自由。

(4)自由貿易の許可。ただし王都内取引は関税義務。

(5)交易通貨は人族の貨幣を使用。

(6)物々交換は双方同意の上、市場を考慮して行う。

(7)有限資源の回収は王都の認可を求める。


【特記事項】

 ・王都は王都ダルメシアを指す。


 ・獣士とは特に人族と友好的な獣人を指し、署名獣人の部族を指す。


 ・認可は本協定の立案者であるユウキ・ブレイクの推薦から国王が精査し下すものとする。


【署名】

 国王 ダルメシア3世

 ゴブリン グライス

 オーク グロッサム

 リザードマン レクサス

 王都学園特待生 ユウキ・ブレイク


【立会人】

 王都学園学園長 ノイント・バレル

 王都騎士団団長 バルトフェルド・ガークス

 商業ギルド長 ガルド


【重要参考人】

 王都学園特待生 レナード・ドール

 王都学園特待生 ルイン・エミナス

 王都学園特待生 アリサ

 ーーーーーーーーーーーーー


 サウスホープ協定を基本として執行されるが、取引や資源の管理運用について更に突き詰めた内容となっている。


 飛躍的な進歩であった。どれを取っても人族と同等な扱いであり、時代の変革をもたらすのには十分であった。


「ユウキ君、歴史の立会人になりたいと願う私の夢が一つ叶ったよ。」


 ユウキはノイントのなんて言うことはない会話に深い意味を感じた。これまでやって来たことが一つ形となった。


 それは素晴らしいことであり万人が到達できる頂きではない。



「でもまだここからです。この城下町が人と獣士で賑わう街になればもっといい世界になる気がします。」


 そうなる時代は来るのか。それは誰にも分からないが今言えることはある。



 王はニヤリと笑い辺りを見回した。


「今できる事に最善を尽くせば結果は自ずとついて来る。」



 その言葉に獣士を含めた全ての者達が頷き、第1回人獣会談は幕を閉じた。




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