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第1回人獣会談(2)

「うぅむ、何年かかるか分からんぞ。オークやリザードマンみたいな少数部族ならともかく、ゴブリンは大陸全土に集落がある。」


 当然といえば当然である。グライスも他の集落に対して共存のアプローチをかけた事はない。

 同じようにレクサスも唸りを上げた。


「リザードマンとて少数だが我が集落は一枚岩ではない。今回の闘争も否定的な者達もいた位だ。」



 王は腕を組んで知っていると言わんばかりに告げてきた。


「我々も同じだ。ダルメシア戦争で幾分か良くはなったと聞くが肩を組むような間ではない。互いに努力をしようと言うのだ。」


 人族から獣人への共存の道標を提示した。

 これだけでも歴史的快挙であるが、それはまだ身内の話であって意思統一を果たした真の和平には程遠い物となっている。


 グライスは暫く考えた末、グロッサムとレクサスを見た。2体のネームドは視線に気が付き顔を上げると、グライスに頷いた。


「何年かかるか分からんし、また戦争になる可能性もある。だが俺達は前に進む必要がある。」


 王は望んだ答えにたどり着いた獣人へ持てる全ての笑顔を振り向けた。


「よろしい。では相違なく良き未来のために各々動くと言う事じゃな。」



 その時突然レクサスがテーブルを蹴り上げた。


「むっ!」


 ガンッ!


「無理難題を押しつけて先延ばしにする考えであろう!」


 誰もが驚きをあらわにしたが、王だけは真剣な表情でそれを見つめ返していた。


「若者よ、物事には順序がある。我等も最大限の努力をするからそちらにもして欲しいと言っておる。」


 グライスも慌てて王の擁護に回った。


「落ち着け!このチャンスを棒に振るつもりか!」


「何を言うか!我等であれば武器がなくともこの場を吹き飛ばして直ぐに安寧を得ることくらい容易であろう!!」


 するとレクサスは魔力を込めると黄色い輝きが増していく。


 すぐ様反応したのは近衛兵長のジーザス。


 魔力の発動を感知すると王の命令を待つまでもなく刀を抜いて俊足で首を獲りに行った。近衛兵も打ち合わせていたかのように同時に動く。



 この一瞬の交差で様々な事が起きた。



 レクサスの首に薙ぎ払われた剣はグライスとグロッサムに止められ、ユウキは座ったまま()()()振るわれた刀の持ち主を見つめた。


 近衛兵長ジーザスはレクサスの首ではなく、ユウキの首を獲りに行ったのだ。


 ユウキへの刀を止めたのはレナードとルインである。彼らは近衛兵の動きにすぐ反応してくれた。


「兄上、なぜですか?」


「その手を離せ。大罪人になるつもりか?」


 ユウキは目の前にある刀に対し《点穴》でプラックスポットを見つけると、魔力を込めて一気にへし折った。


『ウェポンブレイク』


 キィィィィン!


「稚拙な謀略で巻き込むな。」


 ユウキは殺意を込めて真紅に輝く瞳で睨みつけた。


「なっ・・ぐっ!」


 ユウキの瞳を見た瞬間、恐怖にかられたジーザスはその手を緩めた。だがすぐに魔力を高めると光の粒子がジーザスを覆う。


「なめるな!神聖な血技を前に平民が力の差を知れ!」


 ジーザスは渾身の力で刀身の折れた刀を引こうとした。だがそれは叶わない。



 光の粒子の発生源はもう一つ。刀身を掴むレナードから放たれていた。


「兄上、残念ながら貴方の《光の翼》は本来の姿ではありません。」


 固有血技を発動してなお動かない刀を前にジーザスは焦りをあらわにした。


「馬鹿な。お前は力を殆ど使えないはず・・・それを本来の力だと?ふざけるな!」


 レナードは魔力密度を向上させると背中から放出される魔力により翼のように形成されていく。


「使えたけど魔力が不足していたのですよ。兄上は試合をご覧になられていなので?」



 そこには光の粒子から翼が形成され、流れるように粒子が舞う美しい姿があった。


「おぉ・・・これが戦争を終わらせた力の一端か!」


 王はその姿にただただ感銘を受けていた。いくら王といえど生まれる前に終わった戦争なので、文献や伝承でしかその姿を知らない。


 レナードは光の粒子を刀に沿わせるとジーザスからもぎ取った。


 刀を諦めて拳に光の魔力を集中すると、苦し紛れにレナードを殴りつけてきた。

 光の翼は身体能力の向上効果もあるため、これだけでも十分脅威である。


 ガァァァン!!


「なっ!」


 だがレナードの光の翼に阻まれ、その拳が届くことさえなかった。


「少し眠ってもらいますよ、兄上。」


 レナードはそう言うとそっと右手を振り払った。ただそれだけの動作で防御を捨てていたジーザスは反対の壁まで吹き飛び気を失った。


「ふぅ。」


 トンッ


 ユウキはレナードの肩に手を置いた。


「サンキュー相棒、後は俺の仕事だ。ルインもよく止めてくれた。」


 ルインはそう言われるとニヤニヤして言った。


「ボクのお礼はお高いよー」


「うん、考えておいて。」


 ルインはあれこれ考えながらアリサの所へ戻って行く。


「僕たちにできるのはここまでだよ。後を頼むね。」


「おう、任された。」


 パンッ!


 ハイタッチをするとレナードもアリサとルインの所へと戻った。

 そこで突然挙動がおかしくなったレクサスが辺りを見回す。


「何だ?何かあったのか?」


(これがダルメシア王家の・・・その時の記憶さえないのか。)


「ダルメシア王、ちょっとだけ乱暴でしたよ。」


「問題ない。予定通りに事は進んだ。」



 王はそれだけ言うと近衛兵を下げた。



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