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第1回人獣会談(1)

 

 街中は普段と違い静かであった。


 文字通り人っ子一人いないと言うのはこの事であるが、時折窓から覗く顔が見えて視線を向けると直ぐにカーテンが閉められる。


「やっぱり怖いのかな。時代が変わるといいんだけど。」


 ユウキのそんな呟きにバルトフェルドが目で見てきたが、特に何も言わなかった。


 彼には彼なりに何かを考えているのであり、毅然とした態度はやはり頼りになると思っていた。



 そんなバルトフェルドの胸中はこんな感じだ。


(平常心・・・)


 ユウキの理想像は粉々であった。だが本人の知る事がないのは唯一の幸いであった。



 獣人を狙った暗殺や襲撃に気を使っていたが、特にこれといったアクシデントもなく城下町を抜けた先にある第二門へと到達した。


 ここを進むと王城最後の砦となる第一門が前方に広がり、そこを抜けて王城へと入る。



 第一門の前には数人の人影が見えた。その中に見知った顔があり、学園長ノイントと商業ギルド長ガルドの姿もあった。


 その人物達へとバルトフェルドが足を運び、軍令をすると声を張り上げた。


「賓客をお連れした。これよりノイント・バレル学園長に委ねる。」


 ノイントが同じように軍令をして答えた。


「賜った。貴殿らは無用な場所への通行が禁止される。加えて魔力を不用意に行使する事も禁ずる。

 構わないか?」


 グライスが代表して応える。


「構わん。どこへも逃げんから案内しろ。」


 それに頷くとノイントは踵を返して城の内部に案内した。最後尾にはバルトフェルドとガルドが付いてくるが、恐らくは襲撃の警戒と監視である。


 無言で城内を歩き、とある扉の前でノイントが停止した。


「ここは会食場になる。王は既にこの中で待機しているが、目的は会談という事で良いな?」


 それぞれが頷き確認すると、ノイントは扉を三度ノックした。それに応えるようにすぐに中から扉が開かれた。


 ギギギギィ・・・


 重厚な扉が開く音と共に中の様子があらわになった。


 円卓が中央にあり最奥に王と思われる王冠を被った男性がいる。その両脇には無駄のない直立姿勢の男がおり、どこかレナードの面影があった。


 アリサ達は部屋の横に立っており緊張しているが健康そうな顔立ちでいるので、ユウキは王が約束を守ったと安心した。



 座席につくとそれぞれに飲み物が配られたが誰も口にする者はいない。それどころか口を開く者もいない。


 最初に口を開いたのはユウキだった。ユウキが見かねて紹介を兼ねて発言したのだ。


「ダルメシア王、多忙な所時間を割いて頂きありがとうございます。通信相手のユウキ・ブレイクです。」


「うむ、私がダルメシア国王のダルメシア3世にある。そこの者達が貴様が招待した獣人だな?」


 ユウキはグライスに視線を送ると頷いた。腕を組み踏ん反り返っていない所、グライスも考えているようだ。


「サウスホープ森林に住まうゴブリンを束ねるグライスにある。」


 王はグライスを見続けていた。その目は何かを吟味するように、ただ静かに見定めているような気配を感じる。


「知っていると思うがオークのグロッサムだ。十数年前は世話になったな。」


「蒸し返すか?」


「そんなつもりはない。だが必要な話もある。」



 今の発言の真意を探ろうと王が口を開きかけたが、やめたようだ。変わりにレクサスに目を向けると問いかけた。


「リザードマンは我が領地に居ない。そちらは何者だ?」



 レクサスは問いかけられると威圧するような視線を投げかけた。リザードマンはやはりこの中で一番敵対心を持っているので致し方ない部分でもある。


「俺はここより東に領土を持つリザードマンの首領レクサスだ。まぁ世代が変わった所でもあるがな。」


「ふむ、一見若そうに見えるがこの場に相応しい人物であるとな。さてとー」


 王はテーブルに肘を置いて手を組み合わせると、それぞれを鋭い眼光で見定めた。



「これより第一回人獣会談の開催を宣言する。議題はサウスホープ森林における闘争経緯と王都に対する敵意の有無だ。相違ないな?」



 代表してユウキが答えた。


「相違なく。ただし今後のあり方についても話をしたいと考えています。」


「承知した。では闘争の経緯から説明を頼む。」


 ユウキはレクサスを見て頷くと、レクサスも頷き返した。


「此度の闘争の発端は我が領土にゴブリン製の矢が射られた事に端を発する。その時期は今より18年前のグライスが王都の攻撃から撤退した時に遡る。」


「先程グロッサムが言っていた必要な話だな。」


「近いがまだ遠い。考察は双方が歴史を共有してからで良いであろう。」


 グロッサムの返しに王は頷いた。


「我々は帝国と小競り合いを繰り返しており、常在戦場が共通認識だった。

 だがゴブリンの矢は謀略と考えて長老クラスは先送りの状態。若者はその認識で神経をすり減らしていた。」


 レクサスはやや暗い面持ちで下を見るが、吹っ切ったように顔を上げた。


「そこで若者を預かり長老達を押し込めてグライス一座の元へと進軍を開始した。ちなみに居場所は警備隊が冒険者の雑談から仕入れたと報告があった。」


 そこでユウキがピクリと反応した。

 居場所の仕入れ先は初めて聞いたし、グライス達が移動した時から把握していたのだと思い込んでいた。


「そこからグライスの配下との闘争を経て途中参戦したユウキに止められた。以上が我々の闘争経緯だ。」



 区切りがつくと王は他を見渡して聞いた。


「この事についての補足は?」


「レクサスとは和解しておるが矢は我々か射た物ではない。犯人は不明のままだ。」



 グライスの補足に対して王の眉が釣り上がった。目はどこぞに向きブツブツと呟いていた。


「・・・がやはりあの・・・」


 ユウキは不審に思い問いかけた。


「どうされましたか?思い当たる節があるのであればこの後話しましょう。」


「ふむ、そうであるな。

 しかし闘争はなぜ終わった?全軍が停止する程の事があったのか?」



 軍事行動における衝突が突如として停止された理由は、双方知り得る撤退信号か天災以外には考え難い。王はそこに引っ掛かった。


「新しい湖ができた。」


「「はっ?」」


 流石に王と近衛兵長のジーザスから素っ頓狂な声が漏れた。アリサとレナードとルインは総じて頭を抱えている。


「んんっ、湖とな?あの赤い渦と関係が?」


「いえ、恐らく王が見たのは《竜の囁き》だと思います。癒しの効果があって魔力風が天高く舞い上がりましたので。

 停戦には文字通り大穴を空けたら、そこから川の水が流れて湖ができました。誰も居ない所に打ち込んだので大丈夫です。」



 王は唖然とした表情でユウキを見続けた。


(この者は何者なのだ?敵対しなければ問題ないが獣人も従えて、尚且つこの単騎能力・・・)



 王は眼光鋭くユウキを見ると声のトーンを落として話しかけてきた。


「ユウキ・ブレイク、お前は人なのだな?」



 それに獣人たちもユウキを見た。

 ユウキの強さを身をもって知っており、その膂力・魔力・耐力どれを取っても人族とは思えない能力を有していた。


「はい、サウスホープ出身の母にリース、父にボストンの血を受け継ぐものです。その証拠に固有血技《点穴》を扱える事からも明らかです。」



 突如王の周囲から沸き立つ真っ黒な何かが蠢いた。


 ユウキは表情に出さずに警戒しつつも話を続けることにした。ノイントも何か感づいたようだが特に何もなかった。



 そして王の返答は簡潔であった。


「よろしい。3種族の獣人と和を結ぶ奴と敵対するつもりはない。」


「2つ目の議題である敵意についてですね。それについては3獣人共に敵意はありません。」



 そこでグロッサムが補足を入れてきた。


「ただ全部が全部じゃねぇ。集落に仕掛けてくれば防衛はするし種族全てに周知徹底されたことじゃない。」


「防衛は当然だ。人とて街道で被害が及べば従来通りに対策に出る。

 3つ目に入るが我々もまだ他国と擦り合わせが必要になる。」



 王はそこで区切ると真剣なまなざしを向けてきた。



「お前達は各獣人をまとめ上げろ。人族も同じように努力する。」



 これは非常に重要かつ難儀な事であった。




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