仲間の決意
朝食を終えた所で城の執事が3人の所へやってきた。彼は研ぎ澄まされた無駄のない動きで、背景に溶け込むようにお辞儀をした。
「食後の団欒を乱し申し訳ありません。我らが王より言伝を賜りましたのでお伝えいたします。」
そう言って再度お辞儀をすると告げた。
「7時半より会食場に集まるように。ここで歴史の立会人になれるであろう。」
レナードとアリサとルインは顔を見合わせた。
「それでは私めはこれで失礼致します。僭越ながら良き一日となることを願っております。」
そう言って執事は静かに、だが素早く部屋を後にした。
「歴史の立会人?獣人が・・・まさかね。」
レナードが難しい顔をして今聞いたことを反芻していた。彼らはユウキが1人で来るものだと思いこんでいたのだ。
だが実際には謁見の最中に王とユウキが首飾りで話をして、3獣人も来ることになっていた。
そこでルインが窓から外の城下町を見ながら静かに唸りを上げた。
「レナードは正解かな。街が人っ子一人いないよ。この時間なら市場や冒険者ギルド、宿屋が賑わっているはずなのにね。」
それを聞いて二人も窓に駆け寄って城下町を見下ろした。ここに来てから一年と少しになるがこの街のこんな姿は一度も見たことがなかった。
「厳戒令が敷かれているね。ドールガルスの訓練でこうなったのを見たことがある。」
「ならユウキはグライスを連れてくるのね。大勝負に出るのかな・・」
急に不安そうな顔になったアリサに、ルインが励ました。
「ユウキなら大丈夫だよ。ボクを救ってくれた時みたいに、ここでも一発決めてくれるよ!」
アリサは俯いた顔を上げてルインの瞳を見た。そこにはユウキを信じてこの先何があろうとも乗り切る覚悟がある者の目をしていた。
そしてアリサが笑顔になり告げた。
「ごめんね、私がこんなんじゃダメね!行くわよ。私たちができることを精一杯!」
そして朝食をとった部屋の扉を盛大に開けた。
バンッ!
「さぁ!始まりよ!」
「「うん!」」
こうして彼女らは自室に戻り支度を始めた。『できることを精一杯』これは誰しもが行う事だが達成は最も困難な事でもある。
それを成し遂げようと邁進するのであった。
ー王都ダルメシア第三門ー
王都の玄関口にして物流の出入口である。そこに決意を秘めた者達がやってきた。
普段は商人達で列を成すこの場所は、今回商人達は誰もいない。
その変わりに王都騎士団が列をなして待機していた。その中心には騎士団長バルトフェルド・ガークスの姿がある。
騎士団はグライス達ネームド獣人を見ると、表情を硬らせた。
騎士団の中にはダルカス大森林の戦いに参戦していた者もおり、一撃で自らの命を刈り取る強さを過敏に感じ取っていたのだ。
ユウキはバルトフェルドの元へと歩み寄り、停止すると形式ばって口上を述べた。
そこには生徒と教師の関係はなく、1人と1人の対等な人間の取り交わしがあった。
「バルトフェルド団長、獣人の代表者を連れてきました。王の元へ案内していただけますか?」
バルトフェルドはジッとユウキをみた。その瞳からはユウキが変わったのかを見定めるように深淵を覗いてくる。
「此度はご苦労。厳戒令を敷いているが暴れないでくれよ?」
グライスが当然どはかりに告げる。
「ふん、ここで暴れるなら既にやっておる。頼むぞ。」
それを聞いてバルトフェルドは頷くと号令を出した。
「これより全軍の指揮は副団長マーカスに一任する!」
それに応えるように剣を顔の前まで持ち上げて姿勢を正した。その光景は圧巻であり、団長の威光を示していた。
「着いて参られよ。」
ユウキ達は団長の後に続いて第三門を潜り、城下町へと足を運んだ。




