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誓い

 夜になり、グライスの建屋がある集落は賑わいを見せていた。終戦して喜ぶ者、家族を失って悲しみに暮れる者で様々だ。


「やはり暗い部分は目立つな。」


 グライスが誰に言うでもなく呟いた。


「彼らを癒せるのは君らだけだよ。その手助けは出来るけどね。」


 ユウキは五族長とグライスに言うと、それに力強く頷いて前に出た。



「皆聞いてくれ!此度の戦にて悲しみと憎しみに駆られるものも居る。だがリザードマンは謀略に嵌められ自分達を守る戦いであったと言う事が判明した。

 納得は出来ないだろうが理解してほしい。」


 グライスは拳を握りしみると、高く打ち上げた。


「ここで吐き出せる者は吐き出してくれ。追悼夜会を開幕する!」


 それにゴブリン達は習い、無言で皆が天高く拳を打ち上げた。



 その後は備蓄なども構わず使い、皆で生きている事へ感謝しつつしめやかに各々が語り合った。少し時間が過ぎた頃、一角がザワザワとしだした。


 リザードマン達が土に汚れた姿でやってきたのだ。その姿を見たゴブリン達は何も言えず、手に持ったゴブレットが傾いているのも気づかずただ見ていた。



 リザードマン達はグライスの元へと歩み寄った。そしてグライスの前で立ち止まると、レクサスは右手を差し出した。


 グライスもそれを見て立ち上がると、共に握手を交わす。そしてグライスが頷くとレクサスは周りを見やった。


「此度の戦争で家族を失った者も多いと思う。我等は勘違いして取り返しのつかぬ事をしてしまった。

 許してほしいとは言わない。だが、どうかこの酒席に参加させては貰えなだろうか?」



 グライスが続いた。


「失った者はリザードマンにも多くいる。だがここで止まってはダメなんだ。未来のために協力していこうと思う。」


 だが皆まだ硬直したままである。攻めてきた敵が目の前にいるのだ。そうそう緊張は解れるものではない。


 だが一人の男によってそれは解かれる。


「散った沢山の命に対して英霊に祝福を!」


 屈託のない笑顔でゴブレットを高く挙げ大きく叫んだ。ユウキである。


 それに続くようにゴブリン達は立ち上がった。


「ゴブリンとリザードマンの未来に幸を!」


「「ゴブリンとリザードマンに幸を!!」」



「この世界に笑顔を!」


「「「この世界に笑顔を!!!」」」



 いつしかリザードマン達も唱和していた。



「はははっ!皆笑え!!」


「「「グアハハハハハ!!」」」



「グライス、レクサス。君達の種族はこんなにも素晴らしいじゃないか。大丈夫だよ。」


 レクサスは半ば泣きそうな笑顔をしていた。


「皆いいよな?リザードマン達のゴブレットはあるか?!」


「おう、ここにあるぞ!だが足りねぇな。」



 すると今度は別の方角が声が聞こえた。


「食料もゴブレットも心配ないぞ。沢山持ってきてやった。」


 サウスホープ村民が備蓄食料を大量に抱えてやってきた。


 人を見て一瞬リザードマン達の表情が強張るが、ゴブリン達はいつもの事なので気にも留めない。



「ボストンこっちに来い!今日は負けねぇぞ!」


 そう言ってゴブレットを手に持ってゴブリン達がサウスホープ村民の方に走っていった。


「なんつうかレクサスよ、すまぬな。いつもの事だから気にすんな。」


 グライスの顔とゴブリンを交互に見て思った。こんな世界は絵空事の幻想に過ぎないとずっと思っていた事が瓦解していく。


「もっと早くお前達を知りたかったぞ。」


「それオレも言ったからな。」とグロッサムが言っていた。



「こう言うのは難しい言葉は要らないんだよ。俺はまだ酒が飲めないけど、きっと役立つんでしょ?」


 ユウキがそう言うとグライスが頷いた。そしてダンゾウを呼びだすとあるものを用意させた。



「ユウキ、お前が取り仕切れ。」


 そこには杯が4個に麦焼酎が入れていた。


 ユウキ、グライス、グロッサム、レクサスが杯を取ると、皆がユウキに注目した。



 そこでボストンが気が付き止めに入った。


「待ってくれ!」


「なんだボストン、成長途上の息子を気遣うのは分かるが・・」


 ボストンは慌てた様子で両手を突き出した否定した。


「いやいや違うぞ。お前ら歴史的な場面である事に自覚がないだろう?」



 するとボストンがユウキの持つポーチを指さした。


「そのポーチにガラス玉が入っているから出してみろ。」



 ユウキは出立前にボストンから貰った拡張ポーチを弄った。そして指に小さな丸い物が当たりそれを引っ張り出した。


「父さんこれのこと?」


 ボストンは頷いて肯定すると、それを受け取った。


「こいつはな騎士団が任務中に使う物で、一時的にその場面を記録する事ができる。

 息子の晴れ舞台だ、記録させてもらえないか?」


 それに皆否定する要素はなく、むしろ綻ぶような暖かい父の気持ちに嬉しささえ覚えた。


「勿論だ。俺の息子もユウキの様に何か目標を持ってほしいな。」


 レクサスが同意するとグロッサムも頷いた。ボストンはガラス玉に魔力を込めると青白く淡い光が漏れ出した。


「リザードマンとゴブリンのサウスホープ戦後、サウスホープ森林にて。

 記録者ボストン・ブレイク。

 内容はユウキ・ブレイク、ゴブリンのグライス、リザードマンのレクサス、オークのグロッサムの契りを記録する。」


 ボストンは前置きの内容説明をしてユウキに頷くと、先程の続きを行った。



 ユウキは真紅のヴェールで4人を優しく包み込むと、誓いの句を述べる。


「この戦いで多くの英霊を失った。だけど俺達はここで立ち止まらない。

 未来に、そして人と獣人との絆を確固たる物にするため、平和の礎を築くためここに俺は誓う。」


「絆は永遠(とわ)に!」


「「「友の名の下に!」」」


 杯を掲げた皆は、腕を組み合うと全て飲み干した。


 グロッサムが巨体なため若干姿勢が苦しいが気にしない。



 最後に杯を地面に放り投げて割ると手を合わせた。


 ネームド三体とユウキの魔力が合わさり虹色の輝きをした魔力風が周囲に吹き荒れる。


 獣人達とサウスホープ村民は皆立ち上がり、拍手をしだした。



 こんな世界が作れると素晴らしいなとユウキは思っていた。ほんの一部であってもそれは実現できた。


 まだ踏ん張りどころは沢山あると思うが、彼らと一緒ならそれも出来るだろうと思う。


 ユウキはガラス玉を持つ父に振り向くと、笑顔で告げた。


「父さん、俺この世界に生まれて幸せだよ。ありがとう。」


「あぁ、俺も幸せだ。」


 ガラス玉が揺れるが気にせず親子は抱き合った。


 多くの支えの元にこれからもユウキは突き進む。決して一人じゃない事が大いなる励みとなった。



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